Windows HeartBeart #7 (1994年1月)
ペゾルトのマルチメディア

 9月にシリコンバレーの中心サンタクララで「Windows Solutions」という展示会が開催された。主催は、ジフデービス系のシーボルト社。マイクロソフトが後援している。 PCマガジン誌などに数回、案内が載っただけなので、米国でもあまり話題となっておらず、日本からの参加者はほとんど見かけなかった。

 内容は、コンファレンスと併設の展示会に分かれ、コンファレンスが450ドル、展示会のみが75ドル。もっとも展示会は、エンドユーザであるという証拠の簡単なアンケートに答えれば、無料となる。コンファレンスは3日間昼食付きで、内容も充実しており、割安に価格設定されている。

 コンファレンスは約70セッション。その他、テクニカル・クラスルームと称する、出展社主催の説明とQ&Aを主体としたセッション、そしてソリューション系の展示会ならではの事例研究のセッションも用意されている。
 展示会は、約100社。ソリューション、つまりエンドユーザ向けアプリケーションシステムの構築をテーマとしているので、ネットワークやクライアント・サーバー系、NTアプリケーションが多い。初回で、様子ながめか、ソリューションに無くてはならないオラクル、イングレスなどのデータベース会社は参加していない。両社ともNT版が完成しているのだが。
 会場のサンタクララ・コンベンションセンターは、新しい建物で、シリコンバレーの太陽に合った、明るいデザインである。入場者もプロ、つまりパソコンメーカ、ソフトハウス、大手企業の情報処理部門の人が主体のため、技術的な難しいコンファレンスにも客の入りが良い。展示会も、ゆっくり見て、じっくり商談する姿が目につく。

 今回は、雑誌に例えれば、創刊準備号。本番は、来年9月7日から9日まで、サンフランシスコ、ダウンタウンのモスコーニ・コンベンションセンターで開催される。
 年2回サンノゼとボストンで開催していた「Windows & OS/2コンファレンス」が「Windows」の名称使用でもめた為か、「Software Development」と「Business Software Solutions」に変更された。Windowsの適当な展示会がないので、「Windows Solutions」はきっと成功するであろう。来年のモスコーニは、5、6倍の規模に膨れ上がる可能性がある。

 展示会では、入り口にInformation KIOSKというパネルを乗せたNEC製のパソコンが並び、会場案内を行なっている。Windows版のDTPソフト「フレーム・メーカー」を使用したもので、画面数が50以上もあり、ビジュアルで良くできたシステムである。
 ロータス、ノベル、クラリス、SGI/MIPSそしてDECなどの展示が目についた。この展示会の初日に発表されたマイクロソフト社のソリューション戦略である「Solutions Provider」のロゴマークを付けた展示も多い。

 会場案内にAppleと書いてあったのでブースへ行ってみると、CILという聞き慣れない名称に替わっていた。CILはComponent Integration Laboratoriesという組織で、アップルのクロスプラットフォームでのアプリケーション連携機能OpenDocや、オブジェクト格納フォーマットBento、IBMのシステム・オブジェクト・モデルSOMなどの普及を行なう機関である。アップル、IBM、ノベル、オラクル、タリジェント、ワードパーフェクト、ゼロックスの7社が参加している。今回がお披露目である。展示ではなく、3日間フルに、概要から各社の標準仕様との関係などを説明するセミナーを開催していた。この組織の活動は、日本でいえば、AXやOADGと思えばよい。 アップルもQuickTime、AppleScript、そしてこのOpenDocと、コアテクノロジーのマルチプラットフォーム化を進めている。AT互換機用のマルチメディア・アップグレード・キットも発表しWindowsに擦り寄ってきている。

 コンファレンスは、「OLE2.0」と「Multimedia Madness: Charles Petzold」を聞いた。OLE2.0で、黒い服を着た女性が観客の方を向いて、しきりに手を動かしている。「手話」であった。
 OLE2.0は技術的な話なので、ペゾルトおじさんを紹介する。「プログラミングWindows」の著者で、2.0時代からのWindowsプログラマにとっては、英雄扱いされている存在である。4、5年前、Windowsソフト開発しようとすると、参考になるのは、SDKのサンプルソースとこの本しかなかった。1988年、Comdexの帰りに、ニューヨークであの薄あずき色の5cmもある厚い本を6冊買い込み、トランクに入れて持ち帰った思い出がある。

 最近、彼はマルチメディアに凝っており、「ノン・プリエンプティブ(簡単に言えばマルチタスクではない)OSでマルチメディアをやるなんて」とブツブツ言いながら、PCマガジンに発表した、自作のマルチメディアツールを駆使して、現在の環境で、何が表現できるのかを教えてくれた。

 使用機器構成、および使用したソフトウェアは、別表の通りだが、パソコンはコンパックと同じ縦型のポータブル機で、CD-ROMドライブが内蔵されている。持ち運んで、どこでもマルチメディアプレゼンテーションが行えるものである。YAMAHA WX-7は、クラリネット風の楽器。音色は自由に変えられるので、ドラムのような音を出していた。 こうなると、金管、木管、鍵盤、弦などの違いが音色の違いではなく、入力装置の操作方法の違いになってしまう。

 マルチメディア・ベートーベンの第2弾である、マルチメディア・ストラビンスキーからヘビー・メタル、そしてマイクロソフト・ブックシェルフの地理辞典、日本の項に入っている、琴による「君が代」などを、サウンドの説明で披露したが、音楽の趣味もなかなかである。マルチメディアには、ベートーベンよりストラビンスキーのほうが合っていると思う。第3弾はラベルかな、サティかな。

 ストラビンスキーのCDに入っている、2つ折り、6面の小さな解説書を取り出し、「これが、ソフトウェアのマニュアルに最適な大きさだ」とジョークを言っていた。
 最後には、モーツァルトのトルコ行進曲に合わせて、ビル・ゲーツが踊り回るという、自作のマルチメディアタイトルも紹介し、100分のセミナーが終了した。
 彼は、本来Windowsプログラマであり、別表のPCマガジン掲載のツールソフトの作者であるが、自己の表現手段としてマルチメディアを巧みに使い、楽しいショウを見せてくれた。コンファレンスというよりライブパフォーマンスと呼びたくなるようなステージであった。

 年末なので、今年のライブパフォーマンスベスト3を挙げておこう。1位が、テレビでは出来ない、きわどいギャグを連発する大川興業の「ウィーン伝導合唱団」。2位がウッディランドの「上々颱風」。そして3位が「ペゾルトのマルチメディア」。

ペゾルトの使用ツール
ハードウェアDolch C-PAC 486-33(8MBメモリ,400MBハードディスク)
SONY CDU-541 CD-ROM ドライブ(内蔵)
Standard VGA モニター
Turtle Beach MultiSound Board
Roland Sound Canvas SCC-1 Board
Creative Labs VideoBlaster Board
Sony V-101 Hi-8 Camcorder
Yamaha WX-7 MIDI Wind Controller
Altec Lansing ACS-300 Speaker System
ソフトウェアMCITEST(Windows3.1SDKに添付)
CDPLAYER(Jeff Prosise, PC Magazine, Vol.11, No.20)
Multimedia Beethoven & Multimedia Stravinsky(Microsoft)
WAVEEDIT(Video for Windows)
ADDSYSNTH(Charles Petzolt, PC Magazine, Vol.11, No.4)
Bookshelf for Windows(Microsoft)
Microsoft Cinemania(Microsoft)
MIDVUE(Charles Petzolt, PC Magazine, Vol.11, No.13)
KBMIDI(Charles Petzolt, PC Magazine, Vol.11, No.8)
DRUM(Charles Petzolt, PC Magazine, Vol.11, No.9-12)
MIDFIL(Charles Petzolt, PC Magazine, Vol.11, No.19)
BGDANCE(Charles Petzolt)
Video for Windows(Microsoft)


#8「グリーンIBM」