Windows HeartBeat #15(1994年11月)
こんなノートが欲しい(下)

 ノートパソコンの話を3回にわたって書いたが、その間に私のパソコン環境は急変した。 DynaBookSSを購入し、まじめにLotusOrganizerを使い始めたのである。今、ほとんどの仕事をパソコンで行っている。これがないと明日の自分の予定すらわからない。伊豆にも上高地にもパソコンを持っていかざるを得ない状況となった。
 前回の続きでポインティング・デバイスから話を始めよう。

ポインティング・デバイス
 まず、ポインティング・デバイスが付いていないノート型パソコンは論外である。各メーカで、トラックボールを筺体のどの位置に付けるかを競っていたが、2年ほど前にIBMが感圧センサーによるトラックポイント方式を出し、最近Appleがタッチタブレットを使ったトラックパッド方式を発表した。
 Conpaq LTE Eliteのトラックボールは、画面に平行についているので、動きの方向が一致していて使いやすい。カーソルの位置決めはこの方式がいちばん正確に行なえる。しかし、手をホームポジションから離さねばならない。たったの15cmほどであるが、手を伸ばすのは面倒である。
 また、トラックボールの欠点はメンテナンスが必要な点である。塩センベイなどを食べながら使っていると30分ほどでカーソルが動かなくなってしまう。AppleもPowerBook500で手前の大きなトラックボールをトラックパッドに変更したが、その理由はメンテナスフリーにしたかったようだ。
 IBM ThinkPadキーボードのど真ん中に立っている赤いポッチ、トラックポイントIIは、細かい位置決めが難しい。ただし、トラックボールのように掃除をしなくて済むのはありがたい。このThinkPadを最初に見たとき、一瞬Appleの製品かと思ってしまった。キーボードのド真ん中に赤い棒を立てるという斬新な設計は、以前のIBMでは考えられなかったものである。
 日本では販売されていないが、TIのTravelMateも米国ではよく見かける。春に発表された新機種では、トラックポイント風の棒がマウスボタンと共にキーボードの下に付いている。ThinkPad、DynaBookSSのようにキーの間か、キーボードの下かの違いは、手をホームポジションに置いたままカーソルを動かすかどうかである。私は、TravelMateのように下のほうが使いやすいと思う。カーソルを動かす時にはどうせ「動かすぞ」と構えるので、ホームポジションでなくても良いし、マウスボタンとポインティング装置は一箇所にまとまっていた方が使いやすい。また、キーの間に棒が立っていると、やはりタイピングの邪魔になる。
 NEC Ultra Lite Versaはスペースキーの下、筺体の側面に縦にトラックボールが付いている。これもLTE Elite同様、画面と方向が合っている。GateWayのColorBookに至っては、スペースキーの下の引出しからトラックボールが出てくるという奇抜なものである。
 HP OmniBookのマウスは玩具のようだがこれも面白い。マウスの移動方向をマウスとボディーをつなぐ棒の移動量で検出しているので、マウスの置き場がない狭い場所でも使える。それに、マウス同様、物を持って動かす感覚でカーソルを動かすのがいちばんユーザの負担が少ないと思う。

オーディオ
 PCM音源、マイクロフォン、ステレオスピーカーなど、そろそろ標準で入れてもらいたい機能である。ThinkPad230/755、TravelMate4000M、PowerBook500などにはオーディオ端子が付いている。特にPowerBookは画面の左右にステレオスピーカーが鎮座しており、迫力満点である。
 ボイスメールはもとより、モデムと連動させヘッドセットをつないで電話の入出力行なったり、旅先でオーディオCDを聞いたりと、オーディオ機能によりパソコンの利用範囲は大きく広がるであろう。

PCカードスロットとインターフェース
 PCカードはPCMCIAのType IIが主流だが、Think Pad 230、Endeavor NT-500などType IIIも増えてきた。これも多いに越したことはない。暴論だが、Type IIIはTypeIVと呼んだほうが実態に合っていると思う。TypeIIが2枚入るのだから、IVである。
 FAXモデム、SCSI、LANがPCカードの用途のほとんどと思われるが、Power Book 500のようにこれらの機能が本体に入ってしまうと、拡張カードスロットの意味も薄れてしまう。WindowsノートもPower Bookくらい豊富な入出力をサポートしてもらいたいものである。
 SCSIポートを標準で付け、外付けフロッピィと同様に本体と同じデザインの薄型CD-ROMドライブを出せば、売れると思う。ハイエンド・ノートでは、マルチメディア・ドッキングステーションを別売りしているが、来年にはCD-ROMドライブをつなげば同等の機能になるノートが作れると思う。その際、小さくて音質の良いスピーカーあたりが差別化の目玉になるかもしれない。
 外付けCD-ROMドライブには、独立した電源端子とヘッドフォン端子もつけておいてもらいたい。オーディオCDとして単独に使うためである。

電源
 ThinkPad330、LTE EliteはACアダプターが内蔵しており、持ち歩きが楽になった。バッテリー寿命の伸びもあまり期待できないので、ACアダプターの本体内蔵はありがたい。外付けの場合も、ThinkPad230のように、コンセントへの差し込み部分に小さなAC変換器を置き、細くて長いコードを付けていただきたい。アダプターも200ボルト対応でないと、欧州、中国、香港などでは使えない。できれば240ボルトまで対応してもらいたい。
 最後に、カタログにはほとんど記載されていない項目で、実際に使い込むと問題になる点をいくつか挙げておこう。
 「使用中の充電は可能か」、「ハイバネーション、レジューム等の機能は充分か」、「マウスは自動認識するか」である。
 使用中に充電できない機種が以外と多い。サブノートをサブパソコンとして使用するのであれば問題ないが、四六時中使う場合はバッテリーが切れて使えなくなってしまう。基本機能と考え、是非とも対応して頂きたい。
 ハイバネーションやレジューム、スタンバイモードなどのパワー制御機能も、かなり低いハードウェアレベルの機能なので問題が多い。状態が何日間保持されるか、復元に要する時間は何秒かなど、カタログにはっきりと仕様を記載してもらいたい。
 マウスの自動認識はどのパソコンでも行なっていないが、いちばん欲しい機能である。オフィスを出れば前述の窮窟なポインティング装置をしかたなく使うが、机につけば、ノートパソコンでもふんぞり返ってマウスを使いたくなる。その際、パソコンをリセットしたり、CONFIGの設定を変更するなどという、旧石器時代に戻ったような操作はやりたくないのである。PCMCIAのPlug&Playはできて当り前、それより使用頻度が格段に高いマウスの認識を早く実現して欲しい。自動でなくても、Windowsコマンドを叩くくらいのことはやるので、検討してもらいた。
 3回の連載のまとめとして、希望するスペックを表にした。大和でも青梅でも府中でもタイペイでもヒューストンでもよいので、来年秋の新製品としてこの仕様を満足するノートパソコンを出荷してもらいたい。デスクトップパソコンではPCIにしろPentiumにしろ皆が一斉に採用するのでハードウェアの差別化が難しい。ノートパソコンには、創意工夫できる余地がたくさん残っている。ハードウェアメーカの技術者のみなさん、がんばってください。

1年後に、こんなノートが欲しい
CPU強くて速くて、電気を食わないもの
メモリ標準8MB 追加8MB(オプション)
VRAM1MB
フロッピィ720/1.2/1.44 外付け
CD-ROMドライブ3倍速以上 外付け(オプション)
ハードディスク500MB以上
インタフェースRS-232C、プリンタ(フルセントロ)、
 外部ディスプレイ、マウス/キーボード(自動認識)、
 マイク、イヤフォン、SCSI-II、FAXモデム
オーディオPCM音源内蔵、ステレオ・スピーカー
PCカードPCMCIA TypeIIIx1
ディスプレイ9.5インチカラー液晶 D-STN
ビデオシステム800x600(256色)、ローカルバス
キーボード89キー(ThinkPad型)
 キースペース19mm、ストローク3mm
ポインティングデバイス大型トラックボールまたはトラックポイントII
寸法28.0(W)x18.0(D)x3.8(H)
重量1.8kg
電源AC100V(アダプタ内蔵)
バッテリーパック連続使用8時間
 充電時間3時間(稼働中も充電可能)
価格280,000円


#15「そろそろ年貢の納めどき」