電子出版 JEPA News 1997年12月号
日本の電子出版

 昨年11月、コンピュータ関連の展示会Comdexで米国に出張した際、長谷川会長、研究社の関戸さんと電子メールでちょっとした議論をしました。日米の電子出版の相違についてです。
 電子出版の定義にもよりますが、米国の状況は概ね以下の通りです。
 辞書系では、Microsoft社のBook Shelfがほぼ市場を独占しています。マルチメディア事典系では、同じくMicrosoft社のEncartaが独走しており、Compton's、BritannicaそしてIBMなどが2周遅れで走っています。
 電子本系では、Voyager社がまさしく、ひとり気を吐いています。ゴッホやフェルメールといった美術物から、ロリー・アンダーソンの音楽パフォーマンス物まで、レベルの高い電子出版物を作りつづけています。

 辞典系がBook Shelfのみとなった理由は、ハッキリしています。Microsoft社がMS-DOSの時代からBook Shelfを提供し、Windows時代には、WordやOffice、Worksといったアプリケーションを買うと、Book Shelfがおまけとして付いてくるからです。パソコンを買うとOfficeが添付されていますから、当然Book Shelfも入っています。ということで、あっという間に電子辞書の市場を席捲してしまいました。
 また、Microsoft社はBook Shelfを「辞書という文化」ではなく「WordやExcelと同じソフトウェア製品」と考えていますので、「Book Shelfを共通インタフェースとして、各種の辞書が検索できる」などという面倒なことは行いません。

 日本はどのような状況かというと、英和辞典だけでも、研究社、三省堂、学研、旺文社、小学館、大修館など、書店の棚ほどではないにしろ、電子辞書をユーザが選択することができます。電子ブックとEPWINGタイトルだけでも300種類近くが販売されています。
 私はコンピュータ業界の人間ですが、私たちの業界は、「米国のテクノロジーを日本でいかに応用するか」が主な仕事です。何事も米国に見習っていれば事足ります。ところが、電子出版業界は、どうも、日本が世界の最先端を走っているようです。

 日本でこれだけ電子出版が盛んになった原因は以下の三点だと思います。第一は、日本電子出版協会(JEPA)、EPWINGコンソーシアムそして電子ブックコミッティによる、10年間の電子出版普及活動です。JEPAが出版、印刷、コンピュータ、ソフトウェアといった電子出版に関連する業界を横断的にまとめ、EPWINGコンソーシアムがテクノロジーを提示し、電子ブックコミッティがその普及を推進した成果です。第二に、日本の巨大印刷会社の存在です。世界最大の印刷会社である大日本印刷や凸版印刷、共同印刷、図書印刷などの大企業が、積極的な研究開発と、出版社への啓蒙で、電子出版の基礎を支えました。第三は、先程述べたBook Shelfが、数年前まで日本には存在しなかったことです。

 では、これから日本の電子出版はどうすべきなのか。CD-ROMに加えてインターネットという、とてつもない媒体が登場し、Web Publishingという言葉も定着しつつあります。JEPAは情報提供と交流の機関として、より強力な仕組みが必要だと感じています。EPWINGはWindowsとインターネットの時代に促した新しいテクノロジーを提示する時期に来ました。電子ブックはVAIOテクノロジーなど、斬新なハードウェアへの進化が期待されています。

 長谷川さんと関戸さんにお送りしたメールをちょっとアレンジして、結びとさせて頂きます。「日本の電子出版の将来は、JEPA会員各位の双肩にかかっています。先達はいません。皆さんが世界のトップを走っているのです。」

Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]