電子書籍ケーススタディ 3
 Rocket BookからeBookManまで
イースト株式会社 下川 和男

 今回は、事例紹介といっても、電子書籍システムの開発事例ではなく、米国の読書端末の購入事例をご紹介する。今までに、1998年11月にRocket Book、昨年12月にその後継機種であるRCA 1100、今年2月にフランクリン社のeBookManと三台を購入した。各々の読書端末との出会いと、使い心地をレポートする。

Rocket Book
 NuvoMedia(ヌーボメディア)社のRocket Bookを見つけたのは、1998年にComdex会場であった。その経緯は本誌1月号「eBookの最近の出来事から」でご紹介したが、数人の友人に使ってもらい以下のようなコメントもらった。
 「映画館や劇場で便利」
 これは、バックライトの件である。紙の本だと映画館や劇場の薄暗い幕間では読めないが、読書端末の光る液晶画面なら、文字が読める! と彼は感激していた。
 「書棚が覗かれる」
 これは、Rocket Book用の電子書籍を実際に数冊購入した友人からのコメントである。電子書籍はBarnes and Nobleのサイトで購入するが、そこでは、購入する権利を買うだけで、実際のダウンロードは、Rocket Bookのサイトで行う。このサイトには、ユーザIDとパスワードを要求されるRocket Bookユーザ専用のホームページがあり、そこが、書棚となっている。読書端末はハードディスクを搭載していないので、数冊の本しかメモリに入らない。そこで、このWEB上の書棚から、読みたい本をダウンロードすることになる。
 書棚なら、他人に見せたくない本を裏にしたり、奥に押し込んだりできるが、電子書籍のe書棚は、読書端末のメーカやインターネット書店、サーバの管理者などの第三者から丸見えとなってしまう。

RCA 1100
 この読書端末は、Rocket BookのNuvoMedia社が、Gコードで有名なGemStar社に買収された後、デザインしたマシンである。
 GemStarはGコードで有名な会社だが、テレビ番組のビデオ録画を予約するGコードという数字のマジックで得た莫大な利益を、この15年間で三回、大きく投資している。
 第一弾がTVガイド誌の購入で、この週刊誌は毎週1000万部が発行され、米国のテレビガイド誌市場を独占している。第二弾がEPG(電子テレビ番組表)で、日本でも電通、東京ニュース通信社と合弁で、会社を設立している。第三弾として2000年1月に西海岸の読書端末ベンチャー企業である、NuvoMedia社とSoftBook Press社の二社を同時に買収した。
 昨年11月のフランクフルト・ブックフェアで1100とSoftBookのデザインによる1200の2機種が展示され、1100は直後に出荷された。
 1100の購入は簡単で、前出のBarnes and Nobleのサイトから、洋書を買うのと同じ要領で購入できる。送料は30ドル程度なので、330ドルほどをクレジットカードで支払えば、数日で手元に届く。
 電子書籍の購入は、パソコン経由でBarnes and Nobleのサイトで購入し、USBケーブルを繋いで、1100に送り込むこともできるし、本体に電子カタログが入っているので、そこから電子書籍を選択して、本体からダイヤルアップでインターネットに入り、直接、ダウンロードすることもできる。

RCA REB 1100RCA REB 1200eBookMan-911
重さ500g930g208g
ディスプレイ5.5"モノクロ8.2"カラー4"モノクロ
解像度320×480480×640240×200
メモリ8MB+Smart Media8MB+Compact Flash16MB+MMC
バッテリー寿命20-40時間5-10時間単4×2、10時間
周辺機器Modem,IrDA,USBModem,LANUSB、イヤフォーン
販売価格US$ 299.00US$ 699.00US$ 229.95


左からRocket Book、REB1100、eBookManeBookManのインターネットからのダウンロード方法

eBookMan
 フランクリン社のeBookManという小さな読書端末を知ったのは、昨年10月、フランクフルトのブックフェアの直前だった。米国のeBookメールニュースにフランクリンが小さな読書端末を発表すると書いてあった。フランクフルトの小さなブースには、店番のような営業マンがポツンといるだけで、何も説明してもらえなかった。
 11月に出荷との事で、期待してラスベガスのComdexに行った。フランクリンは大きなブースを出していたが、出荷は、クリスマス頃にずれ込むとのことであった。しかし、フランクリン社の技術部長が日本人だったので、詳しく話を聞くことができた。
 Palmが300ドル以上するのに、なぜこんなに安いのかと聞いたら、32ビットのRISCチップやOSなど、すべて自前で開発したので、他社へのロイヤリティ支払が極端に少ないとの事。
 フランクリン社は小型辞書機器のトップ企業で、セイコー電子カシオソニーなどが日本で凌ぎを削っている携帯型辞書デバイスの市場を米国で独占している企業である。しかも、辞書や百科事典以外に、電子聖書という大きな市場があるので、2200万点の販売実績を誇っている。
 年末にJEPA(日本電子出版協会)でセミナーを行う関係で、実物を借用したが、ハードウェアもソフトもすばらしい出来栄えであった。eBookManは、以下の五つの機能を持っている。

小説を読む電子書籍を読む
朗読を聞くAudible.comの12000点が聞ける
音楽を聴くMP3の再生
個人情報管理予定表、ToDo、電卓など(Palmはこれだけ)
メッセージの録音・再生マイクとスピーカー付き

 結局、クリスマスには出荷されず、今年3月、フランクリンのサイトから直販が開始された。私は、2月に開発者向けバージョンを購入したが、これは、完全スケルトンつまり透明なケースに入っており、基板が丸見えとなっている。
 肝心の読書端末としての機能は、リーダーソフトであるMicrosoft ReaderのeBookMan版の出荷が春過ぎとなっているので、それ以降となる。Readerの出荷が始まれば、Amazon.comのeBookのページから、eBookMan対応の電子書籍が購入できる予定である。
 日本語に対応するのは、少し先になると思うが、今の画面解像度では、日本語での読書は無理である。Palmの160×160は論外だが、Zaurusの320×240または480×320くらいの解像度を期待したい。
 eBookManは、電子書籍のダウンロード方法も見事である。写真の通り、インターネットに繋がったパソコンを経由して、デスクトップ・マネジャーというソフトが仲介役となって、インターネットから直接、USB接続されたeBookManに電子書籍がダウンロードできる。
 2月に入手した開発者向けeBookManには、一切のソフトが入っておらず、フランクリンのサイトから、先ず、デスクトップ・マネジャーをパソコンにダウンロードし、次に、OS自体を、パソコン経由で、eBookManに流し込むという方法だった。この仕組みには感動した。
 早い時期に日本語化されることを期待したい。

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Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]