電子書籍ケーススタディ 
 読書ソフト比較 Microsoft Reader、Adobe eBook ReaderそしてT-Time
イースト株式会社 下川 和男


 パソコンの画面で本を読むための読書ソフトの世界が、アドビの参入で慌しくなってきた。欧米ではマイクロソフト対アドビという比較になっているが、日本の電子文庫パブリで多くの出版社の支持を得ているボイジャー社のT-Timeを加え、現状を比較することにした。

Microsoft Reader
 はじめにお断りしておくが、今回の比較は、マイクロソフトに分が悪い。なぜなら、2000年8月に出荷されて以来、バージョンアップされていないからである。パソコンソフトの場合、半年に一回はマイナーチェンジやサービスパックの提供など、何がしかの改訂が常識だが、この激動のインターネット時代に、一年間も1.5というバージョンで放置されている。
 パソコンソフトの世界では、「3.1からが本物」という通説がある。Windowsなどのオペレーティング・システムも、ワープロもブラウザーも、三回の大改訂の後、最後の0.1の微調整を経て、良い製品に仕上がるというものである。Readerの1.5は、「取りあえず作ってみました」という表明である。
 しかも、Windows CEをベースにした携帯型PCである、ポケットPC向けに開発したソフトをWindowsに移植したものなので、マウスの右クリックやメニュー表示という考えが入っておらず、PC上での使用には違和感がある。
 この秋、発売される次世代オペレーティング・システムWindows XPにバンドルされる予定なので、そのバージョンを楽しみにしている。アドビのReaderが現在2.2となっているので、2.5くらいのものを出荷して欲しい。もちろん二頁表示、縦書き、外字、ルビなどにも対応しているであろう。

Adobe Acrobat eBook Reader
 マイクロソフトReaderの出荷時には、大きく水をあけられたアドビだが、この一年で急速に巻き返しを行った。アドビという会社は、今ではIllustratorPhotoshopの会社と思われているが、彼らはページ記述言語という独自のコンセプトでPostScriptを発明し、DTPの基盤を提供した会社である。
 画面で本を読むeBookは彼らの得意分野であり、この分野でマイクロソフトに負けることは、許されないハズなのだが、一年前まで全くのていたらくであった。PDFがあったのだから、それをマイクロソフトよりも先に読書ソフトに仕上げることなど簡単なのに、「画面で本を読む」という大潮流を、理解できないでいた。
 結局、マイクロソフトReader発表に遅れること一年、2000年8月にAdobe Acrobat eBook Readerを発表したが、これも、ボストンのグラスブック社が作っていた、PDFのビュアーソフトを買い取るという形で行った。これにより、10年以上前にロータスにNotesを売って巨万の富を築いた、レン・カウエル氏を再度大金持ちにしたが、レン・カウエルと同じ発想を、なぜアドビが出来なかったのか不思議である。大企業病なのであろうか。
 アドビのReaderは、現在2.2というバージョンがadobe.comからダウンロードできる。もちろんUS版であるが、日本の書籍の右開きにも対応しており、日本語版の出荷も間近に迫っている。
 PDFをベースにしたeBookは、ファイルサイズが大きくなるのではと心配したが、プレーン・テキスト300KBのファイルが700KBのPDFになっても、今のインターネットやパソコンでは誤差範囲である。それに、PDFを作るにはQuark XpressInDesignなどのDTPソフトが必要なので、縦書き、ルビ、禁則、外字など日本語固有の大問題がすべて、5、6年前に解決済みとなっている。
 生い立ちの問題で、Acrobat ReaderとAcrobat eBook Readerは別のソフトとなっているが、同じようにPDFを扱い、DRMと頁の表示方法の違いだけなので、たぶん、近い将来、この二つのソフトは統合されるであろう。

Voyager T-Time
 ボイジャーのT-Timeは、読書ソフトとしては、マイクロソフトReaderの発表より一年以上も前の1997年7月に出荷が開始された。このソフトは完全に日本製だが、ボイジャーは10数年前に米国で旋風を巻き起こした、マルチメディアCD-ROMの制作会社Voyagerの流れをくむ日本の企業なので、電子書籍については年季が入っている。
 米国Voyagerは、デジタル・コンテンツの世界で、本以上の表現を追求し、Expand Bookというビュアーソフトで数々の秀作CD-ROMを制作したが、今は消滅している。
 T-Timeは、Expand Bookつまり本以上ではなく、画面でテキストを主体とした本を読むためのソフトである。設計が早かった分だけ、マイクロソフトやアドビのReaderに比べて、ブラウザー機能の内蔵、ライブラリ(蔵書一覧表示)そしてDRM(著作権管理)などの機能が無いが、縦書き/横書きや流し込み表示など、しっかり作られた読書ソフトである。

読書ソフト戦争の結末は
 1998年、米国の政府機関NISTは、「インターネット上の書籍のフォーマットは統一すべき」という観点からOpen eBookプロジェクトを展開したが、マイクロソフトとアドビの対立や、DRMの標準化はありえないという問題で、Gem Star系、Net Library系などデータフォーマットが乱立している。この中から、デファクト・スタンダード(事実上の標準)が出てくるのが、W3Cが登場する以前のパソコン業界の常である。今、我々は何のためらいもなくマイクロソフトWordやExcelのファイルを添付してメールを送信しているが、電子書籍のデータフォーマットも、WordやExcelと同様、徐々に統一されるであろう。
 米国では、読書ソフト戦争をマイクロソフトとネットスケープのブラウザー戦争になぞらえてマスコミが伝えているが、電子書籍は単にHTMLを表示するだけのブラウザーほど単純ではない。データ形式やDRM技術そして配信用のサーバソフトなどが複雑にからむ代物なので、決着には時間がかかると思う。

読書ソフト比較

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Microsoft Reader 1.5固定××××
Adobe eBook Reader 2.2固定
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Voyager T-Timeユーザ名表示アンチエイリアスMac型

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