電子書籍ケーススタディ 18
 真ん中にInDesign
イースト株式会社 下川 和男

 2001年5月号のケーススタディ4「PDFかXMLか」、6月号の「DTPからXMLへ」について、時々お問い合わせをいただいている。書籍のデジタル化が各所で本格的に検討されているようだ。そこで、今回はその続編を書いてみた。
 十年一昔というが、インターネットの世界では一年一昔、出版を取り巻くDTPやインターネット、XMLの環境は、この一年で大きく変化した。

InDesignとは

 アドビのシアトルチームが作ったInDesignには、個人的な思い入れがある。
 10数年前、デスクトップ・パブリシィングの創成期、アルダスPageMakerの日本での代理店を一年間だけ担当した。打ち合わせでシアトルに行き、創業者のポール・ブレーナードさんや販売担当役員のマイケル・ソロモンさんと日本市場について、何度か話をした。開発責任者だった、ジェレミー・ジェイチさんには、1メガバイト以下のプログラムサイズで、よくもこれだけのソフトを作ったものだと感心した。
 今では、どんなソフトでも数メガバイトは当たり前、数十メガバイトのアプリケーションもゴロゴロしているが、ジェイチさんが開発したWindows版PageMaker 3.0は、900キロバイト台で立派なDTPソフトとして動いていた。

 1994年、アドビがアルダス社を購入して、三人は億万長者になり、ソロモンさんはワイン貯蔵室付きの豪邸を建て、ジェイチさんはヴィジオ社ピボタル社など、シアトル近郊のソフトウェア・ベンチャー企業で活躍を続けている。

 アドビは、2000年に買収したグラスブック社の開発陣もボストンのままにしているし、アルダスの連中もシアトルに残っている。そのシアトルチームが満を持して発表したのが、InDesignである。

 デスクトップ・パブリシィングというPageMakerとPostScriptそしてAppleのMacとLaserWriterが10数年前に作り出した印刷革命は、既に確立されたものであり、今さらDTPソフトを新たに開発する意味があるのか、とInDesign1.0の発表に疑問を持った。PageMakerのソースプログラムが古くなって機能拡張が容易ではないので、新規にコーディングしているのかな、程度に考えていた。しかし、2.0あたりから、その製品コンセプトが明確に見え始めた。

 インターネットの中で、テクノロジーが目まぐるしく進化しているが、DTPソフトウェアも、新しく設計されたものほど、最新の思想が盛り込まれ、XMLやインターネットとの相性も良い。紙に印刷するだけではなく、インターネットに掲載し、電子書籍を作成し、コンテンツをしっかり保管するための中核ソフトのような役割をInDesignは標榜しているようである。

真ん中にInDesign

 2001年5月号で、XMLを真ん中に置いた図を使って、XMLの効能をご説明したが、その際、「どの時点でどのツールを使って編集を行うか」を提示できなった。
 XMLのエディタはXML Spyを筆頭に数種類が市販されているが、出版社や印刷会社の担当者がXMLエディタを駆使してコンテンツを編集するのは難しい。
 InDesignなどのDTPであれば、WYSIWYG(なつかしい言葉だなぁ:筆者独白)つまり、出力と同じイメージで編集作業が行えるし、今、儲かるのは紙の出版なので、書籍をしっかり作り、その後、ホームページや電子書籍へという風潮にも合っている。

 図でご説明する。

 (1)は、InDesignを使った一般的な編集作業である。既存のテキスト・エディタやワープロ文書から、テキストをカット&ペースしてレイアウトできる。
 (2)は、Microsoft Wordの文書をそのままInDesignに読み込むもので、Wordテンプレートなどの文書構造定義をそのままインポートできる。(3)はQuark XPressだけではなく、PageMakerなどのDTP文書もインポートすることが可能である。

 InDesignの下に、XMLファイルと双方向の矢印が入っているが、これが、InDesignのXML変換機能である。InDesignの個々のスタイル定義をXMLのタグに対応させることにより、XMLファイルのインポート(読込み)とエクスポート(書出し)が可能である。
 残念ながらXMLの構造を定義するDTDや、文書内の書式などを表すインラインタグには対応していないが、双方向変換が行える。

 2001年5月号の「PDFかXMLか」では、PDFを中心にするか、XMLを中心に据えるかで、その長所、短所をご紹介したが、InDesignを中心に置くことにより、XMLであれ、PDFであれ、必要なときに、InDesign文書から生成できる。また、強力な編集機能を使って、改訂版の作成も容易である。

 InDesignのXML変換機能を、(2)や(3)と組み合わせると、既存DTPファイルのXML化が可能となる。つまり、InDesignをXML変換フィルタにして、WordやPageMaker、Quarkの文書をXMLにするのである。但し、テンプレートやスタイル定義をしっかり行わず、外見の書体やサイズだけを指定したDTP文書の場合は、当然のことながら、XMLに変換する際に、文書構造の定義が必要となる。

 (4)は、写研やCTSなどからテキストファイルを取り出した場合など、機械的なタグ付けを行って、XMLを作るルートだが、(1)の編集処理でInDesignにテキストファイルを流し込んで、再編集しても良い。また、(5)のように、様々なXMLドキュメントをXSLTで変換することも容易である。
 InDesign文書は、(6)のように従来のDTP工程でフィルムに出力し、印刷、製本して書籍や雑誌を作ったり、DTPソフトからダイレクトに書籍を作るオンデマンド印刷に持っていく、というルートもある。

 InDesignはPDFとの相性が抜群に良いので、(7)のようにPDFをインターネットで配信したり、(8)のアドビeBook用の電子書籍の作成など、簡単な操作で行える。
 InDesignから生成したXMLファイルでは、(9)のように他の電子書籍用のXMLやHTMLに変換したり、(10)のルートで練習問題や動画を追加して、eLearningコンテンツを作ったり、(11)のように大量XMLドキュメントの場合は、弊社のBTONICでフルテキスト検索を行うなど、コンテンツの多次元利用が可能となる。

 InDesignは、紙からインターネット出版への移行期の出版界において、貴重なコンテンツをワンソース・マルチユースで編集するエンジンとして、重要な位置を占めつつある。

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Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]