電子書籍ケーススタディ 19
 新聞・雑誌編集サービス =NewsBOX=
イースト株式会社 下川 和男

 今月、新聞や雑誌など、即時性を要求される記事の入稿、編集そして検索を行うNewsBOX(ニューズ・ボックス)というサービスを発表した。記者や編集者が10名から50名程度の業界紙や、一般紙の個別編集部門をターゲットにしている。

NewsBOXとは

 NewsBOXは、インターネットを使い「商品」ではなく「サービス」として提供する、記事編集・検索システムで、キーワードは「インターネット」と「NewsML」である。
 社内LANを使ったクライアント・サーバ型の記事編集システムは時々みかけるが、インターネットを使った編集システムは、たぶん、日本で初めてだと思う。インターネットを使うメリットは国際性、即時性、汎用性、標準化などである。

 国際性は、各国のホテルでも、会社でも、自宅からでも接続できるインターネットの利便性にある。海外のコンファレンスや、国内の取材旅行でも、現地から直ぐにデジタル原稿を送信できる。もちろん、写真や図版、表など、コンピュータで扱えるデータは、そのまま記事に添付して入稿できる。

 即時性は、まさしくインターネットはリアルタイム。記者や提携している通信社からのNewsML電文を即座にNewsBOXに取り込み、編集や校正が行える。NewsMLといっても、記者がXMLのタグを意識して原稿を書くわけではなく、穴埋め式に必要事項を記入し、記事テキストを本文ウィンドウにペーストまたは書き込めば、サーバ側でNewsMLに変換してくれる。

 汎用性は、インターネットという標準化された仕組みの上に構築されているので、共通のモジュールを使って、編集システムが500万円から、検索システムが200万円からという低価格を実現させた。
 インターネットは汎用的な分、セキュリティー面の問題も多いが、ID、パスワードの厳重な管理と、アクセスIPの制限が可能である。

 標準化は、次にご紹介するNewsMLや、Webサービスである。特に、インターネットの次世代基盤技術であるXML Webサービスを使えば、NewsMLの自動取り込みや、記事検索サーバからの自動配信などが行える。
 インターネットを使うことで、このサーバ自体、社内に置く必要がなくなり毎月の運営費負担だけで、安定した運用が行える。「大切な編集データを外部に置くとは」と思われるかも知れないが、しっかりしたセキュリティーと運用管理を行っている社外のサーバルームのほうが、社内のマシン室より数倍安全な場合が多い。

 NewsMLは、鳴り物入りで登場した、XMLのニュース配信用スキーマである。1998年にロイター通信社が中心となって策定し、2000年に国際新聞電気通信評議会(IPTC)が、ニュース配信の標準フォーマットとして承認し、リリースした。
日本の新聞社の団体である社団法人日本新聞協会で、日本語版の策定が行われ、2001年8月、上記のアドレスでその仕様が公開された。日本の共同通信社も本格採用しており、インターネット上を流れるニュースの標準形式として定着しつつある。

開発の経緯

 このシステムの開発は、日本印刷技術協会(JAGAT)のXMLセミナーが発端となった。私は、JEGATで年に数回、講師をつとめている。10数年前のPostScriptやDTPでお付き合いが始まり、最近は、XMLや電子書籍の講義を行っているが、官報XMLなどドキュメントのXML化を解説した際に、日本食糧新聞社情報システム室の金子室長が聴講され、その後、新聞記事検索システムについて、お問い合わせをいただいた。

 イーストのBTONICというXML全文検索エンジンは、すでに70種類以上の辞書コンテンツの配信が可能となっているが、大量のXMLドキュメントであれば、別に辞書や事典にこだわる必要はないので、食糧新聞の過去10年分144,000件の記事検索システムを開発した。


←食糧新聞の縦書き段組み表示 記事(c)2001日本食糧新聞社

 画面の通り、記事が縦書き表示されているが、これは、金子さんからの「印刷」での指示を、弊社の開発担当が、「画面」と勘違いして作ったものである。Internet Explorerの5.5以降には、縦書き機能が入っているが、これをサーバ側から制御し、段組み表示を実現させた。
 一般的な縦書きだと、横スクロールが発生し非常に読みづらくなるが、行数を制御し、多段化することにより、横書き表示と同じように、縦スクロールが可能となる。作ってみると、読みやすいし、使いやすいので、気にいっている。

 検索システムの試作は、いつものように、着手後一週間くらいで行ったが、その後、金子さんから、編集システムについても開発依頼があり、官報XML化の際に作成したvFolderという進捗管理システムを改造して、三ヶ月ほどで開発を完了した。

 話題の開発環境、VisualStudio.NETを使用し、開発言語はC#(シー・シャープ)、マイクロソフト社の.NET(ドットネット)フレームワークというサーバ上で稼動している。

 「インターネット」と「NewsML」をキーワードとしているため多数のお問い合わせをいただいており、業界新聞というのもの種類の多さに驚いている。
 また、50名規模ではなく、200名規模の地方紙向けの本格的なNewsMLシステムの引き合いもいただき、仕様検討を行っている。地方紙の場合、共同通信から配信される本格的なNewsMLを受信しなければならないので、そのあたりの改造に工数がかかりそうである。


 ということで、この「印刷情報」を発行する印刷出版研究所にも、NewsBOXを売り込みに行こうと思っている。日本食糧新聞社さんには、「日本食糧新聞」(月、水、金刊、ブランケット14頁)、「外食レストラン」(月刊、タブロイド20頁)、「百歳元気」(月刊、タブロイド16頁)の三紙の編集と検索が行えるシステムをご提供した。
 新聞3頁分の長い特集記事も扱えるので、「印刷情報」の記事は、NewsBOXで編集管理が可能である。しかし、進捗管理も行えるので、「下川はいつも遅い!」ということで、やぶ蛇になるかな?

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Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]