電子書籍ケーススタディ 20
XMLはヘッドライト =Seybold Seminars 2002報告= イースト株式会社 下川 和男
毎年、秋になると急に忙しくなる。
夏は労働意欲がわかずノンビリ気味だが、9月になると「サァ仕事をするか!」という気分になり、それと共に、サンフランシスコのSeybold Seminarsに行く。
10月はフランクフルトのBook Fair、11月はラスベガスのComdexということで、毎月一週間ほどの出張となる。出張の前には仕事を片付けておきたいので、秋風と共に大忙しである。
ということで、今回はSeybold Seminarsをご紹介する。
Seybold Seminarsとは
ジョナサン・シーボルドが20数年前に始めたコンファレンスつまりセミナー+展示会で、デスクトップ・パブリッシング(DTP)の立ち上げに大きく貢献した。Seybold Seminarsと冠している通り、セミナーが充実している。
パトロン企業はDTPを創造したアップルとアドビで、アップルはMac Worldに次ぐ新製品発表の場としているし、アドビも、最も力を入れているコンファレンスである。以前はWindows DTPやマルチメディアなどの関係でマイクロソフトも大きなブースを出していたが、年々縮小し、今年は出展していなかった。
1995年のサンフランシスコでは、私も漢字処理についてのパネル・ディスカッションに参加した。この頃がピークで、DTPもカラー技術が確立し、セミナーのテーマがなくなってしまった。Seyboldのスピーカーというと聞こえがいいが、実は誰でもなれる。Seyboldのホームページにスピーカーの募集要項が載っているので、それに応募し認められれば、誰でも立派なスピーカーである。
1997年からはインターネット、特にWorld Wide Webの台頭に呼応して、ウェッブ・パフリッシングやeBook系のコンファレンスに模様替えした。
1999年、マイクロソフトのディック・ブラス副社長のeBook宣言や、2000年のMicrosoft eBook ReaderとAdobe Acrobat eBook Readerの出荷やAdobe InDesignの発表など、最近もいろいろな話題を提供してくれたが、昨年は9月11日のテロの一週間後ということで、ガラガラであった。
今年のSeybold
最初から、大きな期待はしていなかった。
eBookは、Seybold ReportのE-Book Zoneが、今年2月から更新されていないので、大きな動きは何もない。それにしても、昨年1月に鳴り物入りでスタートし、年会費195ドルを徴収していたサイトを停止させるなど、いかにもアメリカ的である。
以下、メモ風にご紹介する。
・キーノート・スピーチ
W3CのXML策定メンバー、ティム・ブレイとジョナサンの娘パトリシア・シーボルトが登場した。カナダ人なのにカウボーイ・ハットで登場したティムは、インターネットや検索エンジンの進歩とWebサービスの動向などについて話した。パトリシアは自らのWebマーケティング会社の宣伝に終始していた。彼女、技術は苦手のようで「SQL、HTML、XMLなどのタグ型言語」と発言し、ティムが苦笑いする場面もあった。
・セミナー
四つの大きなセミナーが行われた。「エンタープライズ・パブリッシング」、「XML」、「PDF」と「コンテンツ管理」である。昨年は「XML vs. PDF」みたいなセッションがいくつかあったが、もっと突っ込んだPDFやXMLの議論が行われていた。
「XML」は、ICE、PRISMなどコンテンツの配信プロトコルやメタデータを提唱するIDEAlliance社、「PDF」はAdobe、「コンテンツ管理」は調査会社のGilbane社が主催していた。
他の一般セッションでは、Webサービスやデジタル著作権管理(DRM)などが目についた。
・XMLコンファレンスのキーノート
大手新聞コングロマリットのトムソン(Thomson)社クリス・ウルフとXMLコンサルタントのローレン・ウッドがスピーチした。トムソンは、カナダ、イギリス、アメリカで多数の新聞社を経営しており、昨年の売上は$7.2ビリオンつまり8640億円という大企業である。この売上の60%がオンラインからと豪語していた。社員44000人中、技術者が7000人もいる。
以前はコンテンツをSGML化して、書籍、CD-ROMなどのワンソース・マルチユースを行っていたが、現在はすべてXML化しているとのこと。
ローレン・ウッドは、XML2002の議長も務めるやり手の女性で、SoftQuadやTextualityなどXML関連企業にも席をも持っている。
サーバを繋ぐWebサービス、ベクターグラフィックのSVG、レイアウト情報XSL-FOなどについて説明した。
・アップル、フィリップ・シラーのキーノート
アップルは、マーケティング担当の副社長、フィリップ・シラーがスピーチを行った。
毎年、夏のSeyboldではスティーブ・ジョブスがキーノートを行い、10000名収容の会場が満席になるが、今年はその10分の1程度の入りで、会場も狭く仕切ってある。昨年もジョブスは不参加の予定だったが、テロの影響で予定が変更され、急遽、キーノート・スピーチを行い、喝采を浴びた。
ジョブスは、Pentium vs. PowerPC、Windows vs. MacOSという毎回、同じ話をするが、フィリップは、新製品である、OS X Jaguarの機能強化項目を丹念に説明していた。
「PDFの作成、編集、表示が可能」、「Unicodeフォントをすべて内蔵、日本語も中国語もハングルも複数書体」、「メールソフトの強化」、「カレンダー機能」、「JPEG2000対応」、「MPEG4対応」などである。年内に500万ユーザ、5000アプリケーションの稼動を目標にしている。
しかし、10.2という0.2のマイナーチェンジに「Jaguar」という名前を付け、$129で販売することには抵抗を感じる。
肝心のハードウェアについては何の発表もなかった。来年1月のMac Worldでどんなマシンが登場するか興味津々だが、「タブレット型Mac」を予想している。ポケット型に再参入の可能性もあるが、Newtonの失敗を活かしてPalmやPocketPCが登場しており、割り込むのが難しい。11月に世界同時出荷されるマイクロソフトのタブレットPCの二番煎じとなるが、市場が広いし、iBook、PowerBookの次に、本当に本のような「DynaBook」が登場というシナリオも、アラン・ケイとの関係でありうると思う。
・アドビ、シャンタヌ・ナラヤンのキーノート
アドビは創設20周年で、気合いが入っていた。勤続18年の社員がアドビの歴史を紹介し、InDesignやAcrobatの次バージョンが説明された。最後に、参加者全員に20年史の書籍が配られた。
展示スペースは半減し、Seyboldは衰退しているが、デジタル・ドキュメントは勢いを増している。最後にトムソン、クリス・ウルフの発言をご紹介する。
『我々は3年前、XMLにスポットライトをあてた。そのXMLが今やヘッドライトとなって、我々の将来を照らし出してくれている。』
Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]