電子書籍ケーススタディ 24
 大当たり日記
イースト株式会社 下川 和男

 毎年、1月15日の「成人の日」は、休日出勤していた。この日、郵政省からお年玉付き年賀はがきの当選番号が発表され、それを、イーストのチェックサイト「大当たり」 http://www.est.co.jp/oatariに設定するためである。
 成人の日が1月の第2月曜日に変わり、郵政省が郵政事業庁になった頃から、この仕事は担当者に引き継いだが、10年近く当選番号チェックソフトの開発と運営を行っている。
 この時期、大当たりに関するメモを書いていたので、それをもとに、日記風にご紹介する。

1993年7月
 大当たりは、Windows版毛筆はがき印刷ソフト「Mr.Postman v3」のおまけソフトとして企画した。
 抽選番号の下2桁を入力すると4等の「お年玉切手シート」が当たった場合は「大当たり」と表示されて「ピン」と鉄琴のような音が鳴り、1等から3等に該当する下2桁の場合は「大当たりかも?」と表示されて「ピンピン」と鳴る仕様を考えた。2桁の数字をひたすら入力し、音が鳴ったら、顔を上げて画面を見れば、当選を確認できるというものである。
 現在のような、Webサーバで動くソフトではなく、単なるWindowsアプリだし、Mr.Postmanは年末のはがき印刷ソフト商戦で販売していたので、15日に当選番号をユーザが入力してから動かすものであった。
 今思えば、この時に特許でも出願しておけば良かった。開発は新入社員の腕試しとして、C言語とWindows SDKを使い、当時の最新OS、Windows 3.1上で稼動させた。
 Mr.Postmanは、Windows版、初のはがき印刷ソフトだったので、Windows販売の伸びに応じて飛ぶように売れ、当時、低価格化が進んでいたレーザー・プリンターやパソコンにもバンドルされて、イーストのドル箱ソフトとなった。しかし、DOS版からWindows版に移植されたクレオの「筆まめ」や、毛筆フォントの製作から、はがきソフトに進出した、富士ソフトの「筆ぐるめ」に押されて、1996年で開発を終了した。

1996年12月
 Mr.Postmanは敢え無く討ち死にしたが、大当たりのユーザ・インタフェースは、我ながら気にいっていたので、Web版を開発した。
 一般のホームページでは、郵政事業庁のページのように、単に当選番号を表示するだけである。折角のインターネットなので、ブラウザーに簡単なJavaアプレットを送り込んで、「2桁入力ピン!」の操作を実現させた。プログラミングには、Visual J++という、当時マイクロソフトが販売していたJava開発ツールを使用した。

1997年1月16日
 15日に発表された当選番号を入れ、その日にプレス・リリースを行った。インターネット関連のニュースは、日刊のメールニュースで当日深夜、配信されるので、16日には多数の方がサクセスされ、毎時200人くらいになった。
 しかし、社内のサーバを使用していたので、128Kの細い線が満杯になり、社内外から苦情が入った。また、ブラウザーのバージョンや種類によってはJavaの仕様の違いで漢字の文字化けが発生した。
 17日に5000アクセスを突破し、毎日新聞のWebサイト「AULOS」で、本日のお勧めサイトとして★★★★を頂戴した。「インターネットWatch」も高い評価で紹介してくれた。
 Web版は予め当選番号が設定されているので、ひたすら、下2桁を入れれば良い。しかも、数10キロバイトのJavaアプレットを受け取れば、回線を切断してもチェック作業が行えることが評価されたようだ。
 常時接続、ブロードバンドが当たり前の現在では、6年前の貧弱なインターネット環境を忘れがちだが、ダイヤルアップで繋いだ線は、たとえ10分や20分のチェック作業中でも、もったいなくて切断していた。
 この年、自宅の200枚ほどの年賀状をチェックしたら、3等の「ふるさと小包」が2枚も当たった。下4桁が2つなので5000分の1の確率である。郵便局からご褒美を頂戴したような気がした。

2001年1月
 大当たりのユーザ・インタフェースはそのままで、当時台頭してきたドコモの携帯電話、iアプリ版を開発した。iモードではなく、Javaアプレットを電話に送り込むiアプリ対応機種で、同じ操作が行える。
 5年目なので、サーチ・エンジンで簡単に見つかるようになった。Googleで「大当たり」や「年賀状当選番号」と入れるとトップ、「年賀はがき」や「当選番号」でも10位以内に表示される。定番サイトとなったので、アクセス数も飛躍的に伸び、毎時1000アクセス、10日間で20万アクセスを超えた。

2003年1月13日
 「大当たり」の右下のアクセスカウンターは、午前11時ごろから、グングン上がっていく。Webマスター宛てには「早く発表しろ」などという脅迫めいたメールまで届く。イーストが発表するわけではないのに。
 この時点で、カウンターは182万。これは、1996年からの累積数で、同じ人が数日以内に続けて入ってもカウントされないので、ユニーク・ユーザ数に近い数字である。
 12時過ぎに設定を完了。それまでに1万人以上が訪れる。毎時1万以上で急速にカウンターがアップする。サーバも増強したし、回線は100Mなので、安定して配信を続けている。
 しかし、困ったことも起こった。Norton Internet Securityというソフトを入れたユーザから、URLを入れると「有害サイトです」とメッセージが表示されて、ページが見られないとの苦情が来た。
 調べたら、シマンテック社の勘違いで、ギャンブルサイトだと思って「有害URL」に登録してしまったようだ。解除に1、2週間かかるとのこと。ギャンブルサイトかどうか、見ればすぐ判るのに、全く嘆かわしい。また、ギャンブルサイトは果たして有害か?という疑問も残った。
 1月27日現在カウンターは243万、公開から15日間で61万人が訪れた。


 郵政事業庁のサイト大当たりを比べていただきたい。これが、紙をWebに置き換えただけの電子出版と、コンテンツの中身に応じて、インタラクティブな機能を加えた電子出版の違いである。
 今年、Adobe eBookがリニューアルして登場する予定だが、「常に最新の統計情報が表示されるページ」や「数値を変えるとグラフが動くページ」、「どんどんハイパーリンクする本」、「動作をシミュレーションするページ」など、インターネットの双方向性やプログラマブルを活用した電子書籍の登場に期待したい。

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Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]