旅の記録 1993年9月15日〜19日 Santa Crala
Windows Solutins 1993


 1993年9月15日から18日まで、シリコンバレーの中心サンタクララで「Windows Solutions」という展示会が開催された。主催は、ジフデービス系のシーボルト社。マイクロソフトが後援している。PCマガジン誌などに数回案内がのっただけなので、米国でもあまり話題となっておらず、日本からの参加者はほとんど見かけなかった。
 内容は、コンファレンスと併設の展示会に分かれ、コンファレンスが450ドル、展示会のみが75ドル。もっとも展示会は、エンドユーザであるという証拠の簡単なアンケートに答えれば、無料となる。コンファレンスは3日間昼食付きで、内容も充実しており、割り安に価格設定されている。
 コンファレンスは約70セッション。その他、テクニカル・クラスルームと称する、出展社主催の説明とQ&Aを主体としたセッション、そしてソリューション系の展示会ならではの事例研究のセッションも用意されている。
 今回は、雑誌に例えれば、創刊準備号。本番は、来年9月7日から9日まで、サンフランシスコ、ダウンタウンのモスコーニ・コンベンションセンターで開催される。
 年2回サンノゼとボストンで開催していた「Windows & OS/2コンファレンス」が「Windows」の名称使用でもめた為か、「Software Development」と「Bussiness Software Solutions」に変更された。Windowsの適当な展示会がないので、「Windows Solutions」はきっと成功するであろう。来年(94年)のモスコーニは、数倍の規模に膨れ上がる可能性がある。

マイクロソフトのソリューション戦略
 Windows Solutionの開催に先立ち、9月14日に、マイクロソフト社のソルーションに関する発表があったので、簡単に紹介する。以前から噂されていた、エンドユーザ向けに、Windowsのカスタマイズを行なう仕組みで、マイクロソフト製品を使ったアプリケーション開発を支援するものである。「Microsoft Solution Provider(MSP)」および「Microsoft Certified Professional(MCP)」の2種類についてキーノートスピーチで、製品担当の上級副社長Mike Maplesとコンサルティング・サービス担当の副社長RobertMcDowellが説明を行なった。
 Solution Providerは、マイクロソフトの認定SI業者で、エンドユーザシステムの構築を行なう。システム・インテグレーション、ソフトウェア開発、ユーザ教育、技術サポートが主な仕事で、全世界で募集を行なう。認定サポートセンター(MSP ASCs)、認定トレーニングセンター(MSP ATCs)も設置される。
 マイクロソフトは、この組織に対して、デベロッパー・ネットワーク、およびテックネットを使った技術情報の提供、個別の問い合わせへの対応、共同マーケティング、ロゴ使用の許諾などの支援を行なう。
 Certified Professionalは、SI技術者認定制度である。Word、Excelなどを担当するプロダクトスペシャリスト、OS系の技術を持つ、システムエンジニア、教育を担当する認定トレーナの3種類に分かれている。
 また、DECが世界規模で、マイクロソフト製品の技術サポートを行なうという共同声明も、14日に出された。数年前には、考えもつかない出来事である。
 日本では、ノベルの技術者認定が有名だが、マイクロソフトもネットワークOSであるNTの出荷に伴い、クライアント・サーバー・コンピューティンクでの、すべての基本ソフトウェアの独占を狙った仕組み作りに乗り出したようだ。マイクロソフトが自社内で、サポートやSI技術者を養成しないのは、この分野に自分で手を出してしまえば、結局、社員が10万の桁で増えてしまい、IBMのように、身動きが取れなくなる事を恐れたのであろう。

マイクロソフトのディベロッパ戦略
 マイクロソフト社の開発者向けのサービス体制が、固まってきた。昨年までは、DOS/Windows系、アプリケーション系、LAN系など、各部門で勝手に行なっていたディベロッパへのサポートや、技術情報の提供ルートを統一し、2つにまとめつつある。
 CDおよびニュースレターで情報を提供する「Microsoft Developer Network」と、技術情報をパソコン通信でやりとりする「Microsoft TechNet」である。
 Developer Networkは、ソフトウェア開発キット、デバイスドライバー開発キットなどに添付されているマニュアル類をそのままCD-ROMに入れ、Windowsで稼働する検索ソフト「Viewer」で、キーワード検索が行える。次期ウィンドウズの中核機能となるOLE2や、新しいアプリケーションインタフェースとなるクラスライブラリのMFC、そしてC、VisualBasicなどの言語仕様、米国で開催されるコンファレンスの技術資料などが詰め込まれている。このCDは年4回のペースで提供される。米国では、Vol1が92年に出され、会場には最新のVol4が展示されていた。Vol3までは創刊準備号のようなもので、不定期刊であったが、今回からは年4回そして、料金が年195ドルとなった。
 CDとともに、ニュースレターも発行される。米国の新聞サイズの大判の新聞で、言語やOS関連製品の最新情報が載っている。
 TechNetは、パソコン通信による、CD以上のリアルタイム情報の提供と、双方向での技術的なやりとりが可能である。この内容をCDにまとめたTechNetCDも出すようだ。

コンファレンス
 コンファレンスは、「OLE2.0」と「Multimedia Madness:Charles Petzold」を聞いた。OLE2.0で、黒い服を着た女性が観客の方を向いて、しきりに手を動かしている。「手話」であった。
 OLE2.0は技術的な話なので、ペゾルトおじさんを紹介する。「プログラミングWindows」の著者で、2.0時代からのWindowsプログラマにとっては、英雄扱いされている存在である。4、5年前、Windowsソフト開発しようとすると、参考になるのは、SDKのサンプルソースとこの本しかなかった。1988年、Comdexの帰りに、ニューヨークであのあずき色の5cmもある厚い本を6冊買い込み、トランクに入れて持ち帰った思い出がある。
 最近、彼はマルチメディアに凝っており、「ノン・プリエンプティブ(簡単に言えばマルチタスクではない)OSでマルチメディアをやるなんて」とブツブツ言いながら、PCマガジンに発表した、自作のマルチメディアツールを駆使して、現在の環境で、何が表現できるのかを教えてくれた。
 使用機器構成、および使用したソフトウェアは、別表の通りだが、パソコンはコンパックと同じ縦型のポータブル機で、CD-ROMドライブが内蔵されている。持ち運んで、どこでもマルチメディアプレゼンテーションが行えるものである。YAMAHA WX-7は、クラリネット風の楽器。音色は自由に変えられるので、ドラムのような音を出していた。こうなると、金管、木管、鍵盤、弦などの違いが音色の違いではなく、入力装置の操作方法の違いになってしまう。
 マルチメディア・ベートーベンの第2弾である、マルチメディア・ストラビンスキーからヘビー・メタル、そしてマイクロソフト・ブックシェルフの地理辞典、日本の項に入っている、琴による「君が代」などを、サウンドの説明で披露したが、音楽の趣味もなかなかである。マルチメディアには、ベートーベンよりストラビンスキーのほうが合っていると思う。第3弾はラベルかな、サティかな。
 ストラビンスキーのCDに入っている、2つ折り、6面の小さな解説書を取り出し、「これが、ソフトウェアのマニュアルに最適な大きさだ」とジョークを言っていた。
 最後には、モーツァルトのトルコ行進曲に合わせて、ビル・ゲーツが踊り回るという、自作のマルチメディアタイトルも紹介し、100分のセミナーが終了した。
 彼は、本来Windowsプログラマであり、別表のPCマガジン掲載のツールソフトの作者であるが、自己の表現手段としてマルチメディアを巧みに使い、楽しいショウを見せてくれた。コンファレンスというよりライブパフォーマンスと呼びたくなるようなステージであった。

展示会
 展示会は、約100社。ソリューション、つまりエンドユーザ向けアプリケーションシステムの構築をテーマとしているので、ネットワークやクライアント・サーバー系、NTアプリケーションが多い。初回で、様子眺めか、ソリューションに無くてはならない、オラクル、イングレスなどのデータベース会社は参加していない。両社ともNT版が完成しているのだが。
 会場のサンタクララ・コンベンションセンターは、新しい建物で、シリコンバレーの太陽に合った、明るいデザインである。入場者もプロ、つまりパソコンメーカ、ソフトハウス、大手企業の情報処理部門の人が主体のため、技術的な難しいコンファレンスにも客の入りが良い。展示会も、ゆっくり見て、じっくり商談する姿が目につく。
 展示会では、入り口にInformation KIOSKというパネルを乗せたNEC製のパソコンが並び、会場案内を行なっている。Windows版のDTPソフト「フレーム・メーカー」を使用したもので、画面数が50以上もあり、ビジュアルで良くできたシステムである。
 ロータス、ノベル、クラリス、SGI/MIPSそしてDECなどの展示が目についた。この展示会の初日に発表されたマイクロソフト社のソリューション戦略である「SolutionsProvider」のロゴマークを付けた展示も多い。
 会場案内にAppleと書いてあったのでブースへ行ってみると、CILという聞き慣れない名称に替わっていた。CILはComponent Integration Laboratoriesという組織で、アップルのクロスプラットフォームでのアプリケーション連携機能OpenDocや、オブジェクト格納フォーマットBento、IBMのシステム・オブジェクト・モデルSOMなどの普及を行なう機関である。アップル、IBM、ノベル、オラクル、タリジェント、ワードパーフェクト、ゼロックスの7社が参加している。今回がお披露目である。展示ではなく、3日間フルに、概要から各社の標準仕様との関係などを説明するセミナーを開催していた。この組織の活動は、日本でいえば、AXやOADGと思えばよい。アップルもQuickTime、AppleScript、そしてこのOpenDocと、コアテクノロジーのマルチプラットフォーム化を進めている。AT互換機用のマルチメディア・アップグレード・キットも発表しWindowsに擦り寄ってきている。

Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]