Windows HeartBeat #3 (1993年9月)
小説Windows World Expo/Tokyo'96

 1996年6月18日(火)から22日(土)まで5日間にわたって開催された第5回のWindows World Expoは、海外からの4万人を含め、来場者15万人を集めて成功履に幕を閉じた。

 幕張メッセの全フロアはWindowsコンピュータで満ち溢れ、キーノートスピーチでマイクロソフト会長のBill Gatesは、「今や、世界のコンピュータはすべてWindowsで統一された。そして、すべての情報が瞬時に得られる巨大ネットワークサーバシステムも構築できた。Information At Your Fingertips はこれにて完成とする。次のテーマは World On Your Mind である」と、新しいコンセプトをここ千葉県幕張から世界に向けて高らかに謳いあげた。
 1991年、Comdex/FallでのInformation At Your Fingertips の発表同様、マスコミが勝手に様々な解釈を行っている。「世界はあなたの心の中」つまり人間の意思を脳細胞から直接感知して作動するコンピュータを作るのではないか。いや、人間と同じ思考回路を持つコンピュータを発表するつもりでは、など意見はまちまちである。中には、あれは World On My Mind の言い間違いで、「世界は私の意のままに」という意味であるというものまで現われている。

 会場近くの路上では、おなじみとなったM某社の若い社員が安売りパソコンのビラ配りに精を出している。作りの良さでは定評のある台湾Hoicer社製のPontium機が48000円。 究極のグラフィックスアクセラレータカードであるEmerald社のWiperが9800円など思い切った値付けをしている。

 広い会場は、最初の3ホールが「コンピュータゾーン」、次の3ホールが「ビジネスマシンゾーン」、最後の2ホールが「ホームゾーン」に分かれ、それぞれコンピュータのOS、事務機のOS、電話とテレビのOSとしてのMicrosoftWindows関連製品が展示されている。

 「コンピュータゾーン」では、Haittel社 PontiumをCPUに使ったA5サイズサブノートやペンコンピュータ、最新のMPUであるHexatiumを使ったデスクトップマシンなどが幅をきかせている。NECは、IBM PC、Macと共に今や世界の3大アーキテクチャと呼ばれるに至った、98シリーズのPC-9861をメインで展示している。漢字アウトラインフォント生成機能をワンチップ化した、話題のFAchipを搭載したモデルである。FAchipには欧文35書体と漢字5書体のフォントデータが入っており、参考出品ではあるが、UNICODEフォントセット付きのものも展示され、バイヤーの注目を集めていた。CompaqのサーバマシンはHexatiumの8個または16個のパラレルプロセッサ方式となっている。富士通はMessage'90sの総仕上げの時期とあって、大規模システム構築のツール群が人目を引いている。三菱、沖電気などもWindows2.1時代からの実績を生かしたシステム系の展示である。ノート型ではWindows4.0をROMで搭載した東芝のDynabookWシリーズのEZモデルが好調である。EZには、WordとExcelの6.0もROM化されて入っている。

 マイクロソフトは32ビット版のWindowsである5.0を発表した。Windows4.0「Chicago」とWindowsNT4.0「Cairo」を統合したもので「Calcutta(カルカッタ)」の開発名称で呼ばれていた製品である。CD-ROM版と3.5インチMO(光磁気ディスク)版の2種類で販売が開始された。UNICODEの漢字系2書体、欧文系60書体を含み160MBの容量がある。従ってMOは2枚組である。
 昨年開発された「MightyDrive」は、3.5インチディスク、5インチディスク、ミニディスク、MO、CD-ROM、電子ブックを自動判定して読み書きするディスク装置で、これを各メーカが政策的に安価でユーザに提供したため、フロッピィディスクでの供給が不要となった。「だまって入れれば、ピタリと読める」勝れ者のドライブである。

 Calcuttaは、オブジェクト指向OSでOS自体がC++のクラスライブラリとしてモジュール化されている。このため、インストールプログラムが、Plug & Playによる接続デバイスの認識、CPUやメモリ容量の把握、使用しているアプリケーションの種類などに合わせて、最適な構成でOSを自動生成してくれる。世界同時出荷され、言語の問題も、インストール時の使用言語定義により、指定された言語でのシステムがハードディスク上に作られる。

 「ビジネスマシンゾーン」には、キャノン、リコー、ゼロックスなどが大きなブースを構え、Microsoft At Workでコンピュータに結合された事務機器がたくさん並んでいる。無線でデータを飛ばしているものが多いため、混線してプリンタやFAXから無駄紙がどんどん出ていた。面白かったのはAtWorkタイムレコーダ。管理職が、課員の出勤状況をリアルタイムで把握できるようになっている。

 「ホームゾーン」には、松下、シャープ、三洋の関西家電系が勢力を持っている。1994年6月に発表された、Microsoft At Home という共通インタフェースにより、テレビ、ケーブルテレビのボックス、電話、ステレオ、冷蔵庫、クーラーなどの電化製品が統合されてしまった。 マルチメディアパソコンMPC4の仕様公開に伴い、最終日には「マルチメディアグランプリ'96 ターミネータ5 を作ろう」が行われた。MPCを使って、ターミネータの次回作のストーリーを競うもので、優勝者の映像がそのまま映画で使用される。日系のベティー中村嬢が優勝した。コマンダー対ターミネータの決闘シーンがコンピュータ映像とは思えないリアルさで、高速に動いていた。ホームゾーンには、「ミュージックサーバ」からの音楽が鳴り響き、騒然としている。これは双方向の有線デジタルオーディオシステムで、At HomePCと呼ばれる端末からリクエストを送ると、瞬時にその曲が流れてくる。世界中の音楽を貯えたこの巨大サーバの出現で、CDなど情報の個人所有の時代は終わろうとしている。

 Windows World Tokyoがなぜこのように発展したのかを分析してみよう。

 最初の要因はWindowsの成功である。Mobile Computerから大規模サーバまでスケーラブルWindows戦略が成功し、「コンピュータのOS = Windows」という図式ができ上がった。
 2番目の要因は、例の「銀座合意」である。2年前、通産省と電子協加盟企業が、帝国ホテルでマイクロソフト社と締結した技術契約で、「マイクロソフトの標準化仕様をすべて日本の標準規格であるJISとして受け入れる。その見返りとして、標準化の早期から、日本企業が検討作業に参加する」というものである。この合意の裏には、日本企業側には、支払うロイヤリティの低価格化、マイクロソフト側には、日本を味方につけてOS戦争に勝つ、という思惑があった。その通り、マイクロソフトは勝利した。日本企業は、研究開発への投資を大幅に削減でき、何より商品開発や販売での試行錯誤による無駄がなくなった。世界市場を相手として、製造と販売に集中できたため、不況を克服し、80年代の活況をまたたく間に取り戻すことができたのである。

 3番目は中国の発展である。改革開放路線が順調に推移し、所得、物価ともに1990年の10倍になり、国際市場の仲間入りが可能になった。中国への窓口としての日本が評価され、会場では中国簡体字のカタログやパネルも目についた。この展示会のためのツアーも多数企画され、中国からの参加者は3000人を越えた模様である。

 こうして、Windows World Expo/Tokyoは、毎年ラスベガスで開催されているComdex/Fallに次ぐ、世界第2のコンピュータショウに成長した。主催者は、来年の世界一を目指して、千葉県および関係省庁に対する水面下での交渉を開始した。そう。会期中、幕張のホテル街全域をギャンブル公認とする交渉である。


#4「VisualBasicあんびりーばぶる」