Requirements for an Open Electronic Book Exchange Standard
電子書籍交換の条件

 以下は、Glassbook社Len Kawell社長の「Electronic Book '98会議」での講演「Requirements for an Open Electronic Book Exchange Standard」を翻訳したものです。翻訳と掲載を快諾してくださったLen Kawell氏に感謝します。
 Electronic Bookを「電子書籍」としました。

 こんにちは。私はグラスブック社社長のレン・カウエルです。オープンな電子書籍標準の条件についてお話します。


 まず最初に、グラスブック社について少しお話させていただきたます。我々は、個人向けの高機能電子書籍用ハードウエアとソフトウエアの製造を専業とする会社です。出版社と卸売り業者を対象とした携帯型電子書籍読書端末用ハードウエアおよびソフトウエアの両方を作製しています。既存の出版社、卸売り業者、書店、図書館、消費者へ、テクノロジーを提供しています。

 このデバイスは、我々が試作した消費者向け書籍読書端末です。ここは、我が社の試作品について話すべき場ではないのですが、ちょっと見ていただこうと思いました。[電子書籍読書端末の試作デバイスを披露する]

 次に、私自身について少し触れさせてください。私は、新進企業アイリス・アソシエイツの創設者の一人でした。アイリスは、ロータスとIBMのためにロータスノーツを作製している会社です。アイリスで、私はノーツの最初の設計者の一人でした。退社するまでの13年間、チームを率いていました。

 私と現在グラスブックで働いている数人の元アイリスの社員は、アイリスでは分散ネットワーク環境でのドキュメント保護のために公開鍵暗号のパイオニアです。現在、我々は2000万人のノーツ・ユーザから学んだことを電子書籍に応用しています。


 オープン電子書籍交換標準(Open Electronic Book Exchange Standard)は、正確には何でしょうか? この場合、この新しい電子書籍業界に関わる全員が同意しなければならない特定の標準が2つあることを意味します。”全員”というのは、グラスブックのようなハードウエアとソフトウエアを作製している会社を含め、書籍出版社、書籍卸売り業者、書店を意味します。更に、図書館だけでも米国での書籍の売上げのおよそ10%を占めるので、研究に携わる人々と図書館も含めなければなりません。

 すべての人の同意が必要な二つの標準とは、すなわち電子書籍フォーマットの標準と、それに関連した電子書籍の著作権保護および頒布のための標準です。次に、これら二つの標準のために必要な条件として我々の考えをより詳しく述べます。

 まず最初ですが、なぜ電子書籍標準規格が必要なのでしょうか? 電子書籍社会で最も重要な存在は消費者です。消費者が電子書籍読書端末と書籍を購入しようとする際、決心しやすいものとする必要があります。電子書籍読書端末の購入を考えている人の脳裏にある一つの大事な問いは、”自分が購入した読書端末で読める本のうち、自分がほしい本はどれほど多くあるのだろうか?”です。もしすべての出版社が同一のフォーマットで出版し、すべての販売者、書店、図書館が単一フォーマットで頒布すれば、消費者は入手できるすべての書籍を読めることが保証されます。実際、誰もが望まないことは、皆さんも良く知っている VHS 対 Beta のケースです。最終的に二つの標準のうち一方(恐らく劣った方)が勝ち残るまで VTR 市場に大混乱をまきおこした二つの事実上の標準です。電子書籍市場では、この混乱は皆が回避したいと考えています。さらに、HDTVが経験した10年もかかる標準化の事態は避けたく思います。

 最後に、”オープン”が意味するのは、この標準は電子書籍社会のすべての関係者が使用できることです。これは、彼らの作製する製品の特徴と機能で競争でき、消費者はどの会社の書籍でも入手でき、好みの読書端末で使用できること意味します。


 必要条件が厳密に何かということについて話しましょう。最初に、フォーマット標準の必要条件について話します。このスライドで電子書籍社会のいろいろな構成要素を表の上部にならべています。それらは消費者、出版社、著者、書店と卸売り業者、図書館です。表の側面に沿って必要条件を並べ、それぞれのボックスで各構成要素の視点で必要条件を検討します。

 フォーマット標準の第一の必要条件は、テキストとグラフィックスを正確に再現できることです。
 消費者は、永らく親しんでいる紙の書籍のようなページを望んでいます。言い換えれば、テキストは鮮明でさらに複数書体のサポート、くっきりしたグラフィックス、カラー読取端末を購入している場合はカラー表示、そして各ページは工夫された、興味を持たせるものでなければなりません。
 出版社にとって、高品質のテキストおよびグラフィックスは電子書籍読書端末で見たときに、従来の本のデザインが保たれることを意味します。
 著者にとっては、文章と画像が美しく快い方法で読者に示されることを意味します。
 書店にとっては、もちろんお客様を満足させることに関心がありますが、飾ったきれいなカバーと(特に著名な著者の場合)著者の写真などを含む電子書籍を正確に再現して消費者に見せることに関心があります。
 最後に、図書館にとって、この正確さ(高い忠実度)は必要です。図書館の多くは紙の書籍を購入し、貯えるのを避け電子的に同等なもので置き換えることができる日がくるのを夢見つづけています。

 フォーマットの第二の必要条件は、出版社にとって製作が簡単なことです。
 消費者にとって、出版社が電子書籍の新刊を市場に出すことが簡単になればなるほど、より早く読むことが可能になります。
 出版社にとって、簡単な電子本の製作の究極は、本質的にデザインやフォーマットの変更とか延期なしに、ただ単に印刷にかける前の書籍ファイルに著作権保護の暗号化を施せば、卸売り業者に出荷できるようになることでしょう。出版社を見つけ出せない一部の著者にとって、製作が簡単になれば自費出版が可能になるかもしれません。
 書店も消費者と同じ必要条件が当てはまります。それはできるだけ早くベストセラーを入手できることです。出版社と書店の多くは、ベストセラーの在庫可能期間は以前とは異なること、最新本を消費者の手にはやく届けることができればできるほど、より多くの部数を伸ばせること気づいています。

 フォーマット標準の第三の必要条件は、既存の試されたフォーマットを基礎にしている必要があることです。HTMLとPDFの二つが適切な例です。この基本的なテキストフォーマットは両方とも、長年の開発と使用で過酷な試練を受けてきています。消費者は実証されたフォーマットを望んでいます。バグのあるソフトウエアには我慢できなくなっています。ましてやバグのある書籍は当然買いません。出版社と図書館にとって、職員の再教育を避ける意味で既に使用しているデザインと作成ツールを使えることは特に重要です。

 フォーマット標準の第四の必要条件は、多種のハードウエアデバイスで使用できる必要があることです。標準的なデスクトップとノート型パソコンに付随している書籍読書端末から、専用携帯型電子書籍読取端末、PDA、さらに現時点では想像もできないデバイスにいたるまでサポートする必要があります。ある者は特殊なデバイスを喜んで購入するする一方で、既に所有しているデバイスを使用したいと思う者もいるので、移植可能なことが必要です。


 さて、著作権保護と頒布システム標準の必要条件について話しましょう。

 まず最初に、著作権システムは安全なものでなければなりません。電子書籍を購入する時、間違いなく本物であることを望みますから、消費者は当然安全なシステムを要求します。さらに、購入の秘密が守られ、特に誰にも知らないたくない本を購入する時にはなおさら秘密の厳守を望みます。出版社は収入に関わるので著作権保護システムが安全性の高いものであることを強く要求します。著作権システムは、一つの電子タイトルの購入につき、一冊しか使用できないことを保証する必要があります。著作権侵害者やハッカーが簡単にシステムを悪用できる場合、出版社は電子書籍から収益が得られないのは明白です。著者に電子書籍のことを話すと、まず最初に尋ねられることは、”支払いはどのようにおこなわれるのですか?”です。電子書籍を成功させるには、このシステムの安全性に関して著者に不安を抱かせてはならないことです。

 著作権保護システムの第二の必要条件は、電子書籍の譲与と貸し出しをサポートしなければならないことです。このことは消費者に対して、一度購入すれば家族とか友人に上げたり貸したりできる紙の本と電子書籍が実用上の価値で同等なものであることを保証します。このことは、出版社が電子書籍を紙の本と同じような価格であることを望む場合、特に重要です。出版社に対しては、譲与と貸し出しの機能は、使用できるのは一回の購入に対して一冊だけであることを保証する必要があります。本を他の人に譲与するまたは貸す場合、もとの所有者は使用できなくする必要があります。著者は、出版社と同じくただで本が出回らない保証を望みます。書店にとって、譲与と貸し出しは著作権侵害から守られていなければなりません。図書館にとって、電子書籍の貸し出しは認めざるを得ない事実です。この機能が無ければ電子書籍社会で彼らの存在はありえません。

 著作権保護システムの第三の必要条件は、電子書籍のオンライン頒布のサポート機能は拡張可能でなければならないことです。消費者にとって、これは、”即座の満足感”と言い換えられます。電子書籍のダウンロードは、技術的に可能な限り高速であるべきです。出版社と図書館は、書籍をクライアントへ届ける大きなサーバーを構築できる拡張可能な頒布システムが必要です。大規模なオンライン書店にとって、膨大な数のクライアントの同時アクセスのサポートへ拡張できる機能が必要です。

 著作権保護システムの第四の必要条件は、それなりの公正な使用(fair use) をサポートする必要があることです。消費者にとって公正な使用は、研究とか学校の勉強のため、電子書籍の限られた引用を許すことを意味します。出版社と著者に対しては、公正な使用は電子書籍の非常に限られた箇所のコピーだけを許可する必要があります。章全体の印刷とコピーを禁止する、あるいは恐らくページ全体までは許されるべきでしょうか。公正な使用は、図書館にとって節約および研究のために必要な重要な機能です。公正な使用における同意は、図書関係者の間でさえ今もって得るのは難しいことです。しかしながら、電子書籍がいたるところで使われるようになれば、公正な使用での歩み寄りは結局は達せられなければならないでしょう。

 著作権保護と頒布システムの最後の主要な必要条件は、すべての商取引の会計と会計検査機能を用意していなくてはならないことです。消費者にとって、会計機能にはプライバシーの尊重と保護が必要です。出版社、書店、著者にとって、会計機能は収益の証跡のために必要です。図書館にとって、それは支援者と貸付けの記録の意味合いの方が強いものです。


 それではこれまで、これらの必要条件について何をしてきているのですか?と尋ねられるかも知れません。まず最初に、我々はMicrosoftが提唱している、”オープン電子書籍出版構造”フォーマット標準ワーキンググループに参加することを約束しました。このワーキンググループのことはこの協議会で他の人が話すことでしょう。グラスブックは、著作権に関して率先的に行っています。著作権保護標準のための提案を創り出すため特別なワーキンググループを招集しました。このグループを”EBX ワーキンググループ”を呼んでいます。EBX は電子書籍交換 (Electronic Book Exchange) を表わします。それぞれの関係業界から優れた人が参加願えるよう努めています。現在、著作権保護標準で次の組織に属するそれぞれの個人が我々に協力することに同意しました:Adobe Systems、Amazon.com、CNI Houghton Miflin、Ingram Lightning Print、Philips Electronics.

 EBX ワーキンググループの任務は、スライドで概説した必要条件を満たす標準を作成すことにあります。著作権保護システムは、他のワーキンググループが開発するフォーマット標準と共に機能しなければなりません。最後になりますが、グラスブックはこのシステムに付加するテクノロジーを持っています。


 我々の目標はこの会議より60日以内に標準の草案を作成することです。この会議の後、ワーキンググループの WEB サイトhttp://www.ebxwg.com で付加的な情報を公開します。更に、ebx@glassbook.com でメールも受け付けております。


 要約すると、グラスブックは電子書籍テクノロジーに専心したプロバイダーです。この業界を正しく方向づけてスタートさせるためには、フォーマットと著作権保護のための業界内で一致した標準が必要だと強く信じています。我々は、著作権保護および頒布の標準を創り出すために一つのワーキンググループを招集しました。この分野で我々が一丸となって働きかければ、この新しい電子書籍市場をみんなのために大成功させることができます。

 ご静聴ありがとうございました。

 旧 DEC の友人から以下のようなメッセージをもらいました。

 彼は、遠い昔(1980年) DEC で NOTES という電子会議のプログラムを作った人です。最初は VMS 開発グループ内の連絡用ツールとして作られたのですが、全世界の DEC 内の情報交換ツールとして使われ、製品化もされました。
 彼はその後 Lotus で NOTES を作ったんですね。日本から DEC 全体のネットワークにつながったとき(1984年)、彼が作ったツールを見つけ、すでにたくさんできていた電子会議を読み始めた時に、世界中とつながっていること、そして議論されている内容の技術レベルの高さなどに感激したものです。
 Len Kawell という名前からそんなことを思い出しました。古き良き時代の digital の思い出です・・・

from Dec. 8th 1998 来訪者カウンター
Kazuo Shimokawa / Translated by N. Imade [EAST Co., Ltd.]