電子書籍ケーススタディ 1
 インターネットを使った教育システム NetLearning
イースト株式会社 下川 和男

 今、「紙の本が消滅する」、「たまたま紙だった」などという議論が巷を騒がせていますが、紙面ではなく画面で読む「電子書籍」について、毎月一回、私がかかわったプロジェクトについて、事例をもとに説明させていただだきます。
 第一回は、教科書、参考書、実用書、新書などの紙面が画面に変わり、先生までサイバースペースに存在するWBT(ウェッブ・ベース・トレーニング)のベンチャー企業、ネットラーニング社をご紹介します。


WBTは第三世代の電子書籍
 WBTを電子書籍というジャンルに含めるかについては、異論があるかも知れないが、私は、最先端の電子書籍だと考えている。電子書籍や電子出版をその提供形態で分類すると、以下の三世代となる。

第一世代パッケージ広辞苑CD-ROM、SONY電子ブックなど
第二世代ダウンロードPDF、Microsoft Readerなど
第三世代インタラクティブHTML出版、WBTなど

 つまり、第一世代は「メディア(媒体)」を提供し、第二世代は「ファイル」を提供し、第三世代は「サービス」を提供している。ちなみに、第〇世代が「紙」である。
 この連載の中で、今時の電子書籍として、もてはやされているPDFやMicrosoft Readerについても紹介する予定である。しかし、これは個人がハード・ディスクに情報を所有する方式で、インターネットを使った出版の最終形態とは思えない。第三世代こそが、誰でも、何時でも、インターネットが自由に使える、数年後のインターネット環境を想定した、真に「インターネット出版」と呼べるものである。
 また、第三世代は、インタラクティブなだけではなく、コンテンツの一元管理という大きなメリットがある。一か所のサーバにコンテンツが蓄積され、それを世界中から見る方式なので、コンテンツの更新が容易で、常に最新の情報を提供することが可能となる。

XMLを使ったコンテンツ制作と配信
 弊社が開発と運営を担当させていただいた、第三世代に属するネットラーニング社の配信システムは、図のような構成となっている。
 下に並んでいる、「NLX:コースデータ」が、XMLで記述された各種のコース(教科書)である。このプロジェクトは二年前にスタートしたが、その当時、データ構造の定義にXMLを採用するのは冒険であった。しかし、その後、HTMLがXHTMLとしてXMLの一部に位置付けられ、またサーバ間インターフェースの共通言語としての地位を確立した現在、NLXはXMLの成功例と自負している。
 NLX(ネットラーニングXML)の仕様は非公開だが、ブラウザーへの画面表示以外に、「問題の提示と採点」、「採点結果による解説文へのジャンプ」、「目次、索引からのジャンプ」などのインタラクティブな機能を持っている。
 XMLを採用した利点は、この他にも「コース開発が容易」、「スタイルの変更が容易」などがある。
 コース開発は、新規に作成する場合と、既存の紙の教科書から変換する場合がある。新規に作成する場合は、簡易タグを使って基本部分を作成し、簡易タグをXMLに自動変換した後、詳細な指定を行っている。XMLのエディタやツールも揃ってきたので、直接、XMLで記述する著者も増えつつある。
 紙の教科書を変換する場合は、Quark XPress、Page Maker、Wordなど使用しているDTPソフトにより、変換方法が異なる。弊社が担当する場合は、avenue.QuarkによるXML変換や、HTML出力を行い、その後、各教科書の特性に合わせた変換ツールを自作して、なるべく個別の手作業を排除したコース制作を行っている。といっても、「静かな」紙から、「ダイナミックな」画面を作り出すことは困難で、「カラー画像」、「音声ガイダンス」、「問題とその回答」、「シミュレーション画面」、「アニメーション画面」などは、新規に制作することになる。

XSLの威力
 スタイルの変更は、ネットラーニング社のビジネスに大きく貢献している。ホームページを見ていただくと、Java、C++、SQLサーバ、ネットワークなどIT系のコースが並んでいるが、これはネットラーニング社のビジネスの一部である。この「カタログ・コース」以外に、これらのコースを再販売する「OEMコース」、企業内研修などのコースを受託制作し、その企業限定で配信サービスを担当する「カスタム・コース」、配信システム自体をASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)として提供する「プラットフォーム販売」という四種類のビジネスモデルが事業の柱となっている。
既存コースのロゴや体裁をOEM先に合わせて変更したり、カスタム・コース用に全体の画面デザインを改訂する際に、図の右側にある「XSLT:スタイルシート」を使って、極論すればファイルを一つ修正するだけで、すべてのコースの体裁を変えられるのである。
 図の右にある、XMLからHTMLへの変換は、XML未対応の4.0系ブラウザーに対応するためで、この部分を変更すれば、i-ModeやPalmなどのノンPCインターネット・デバイスへの対応も可能となる。これらの処理を、ASP(アクティブ・サーバ・ページ)という言語を使ってプログラミングしている。
また、ダイナミックな企業では、社内教育資料が半年でゴミとなり、無駄な印刷を繰り返してきた。WBT方式でカスタム・コースを制作する場合、コンテンツが一元管理されているので、最新の情報を即座に全社員に提供することも可能となる。

WBTから電子教科書へ
 図の左にあるデータベースには、受講者が「いつ、どの頁を、何分間見たか」、「どの問題を、何分間で、何問正解したか」などの情報が記憶され、これが、受講者やチューター(先生)、そして企業の教育担当者に情報として提供される。
 チューターには、何時でも、何でも、電子メールで質問でき、また、記述形式の問題については、チューターから細かな助言が行われる。実際のコンピュータ画面をシミュレーションしたり、音声でガイダンスが付いたり、インターネットを使ってその人に合った指導が行なえる。
紙の本が提供していた「感動」、「情報」、「知識」などのうち、知識を提供する方法は、「電子教科書」などの議論と共にWBT化していくであろう。


 「感動」を提供する小説もインタラクティブなものが主流になると思っている。XMLエディタを駆使した小説家が登場しハイパーリンクだけではなく、BGMや絵が入り、ストーリーが分岐する小説である。話題の田中康夫さんのデビュー作は、ブランド名がたくさん登場し、その注釈の多さで話題になったが、今だったら、ルイ・ヴィトンボートハウスのサイトにハイパーリンクする「何となくクリスタル」を書いたに違いない。

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Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]