電子書籍ケーススタディ 10
 一般書を読む 「Adobe eBook」
イースト株式会社 下川 和男

 アドビ eBook Readerについては、事例7「読書ソフト比較」で、そのビュアーとしての機能をご紹介したが、10月23日に日本語版のダウンロードが開始されたので、そのサーバ側の機能と、前号でご紹介したオンライン書店:イーブック イニシアティブ ジャパン社と、eBookの取次:イーストが共同で推進している、電子書籍のホスティング・サービスについて解説する。

Adobe eBookのサーバ・システム

 電子書籍は、著作権管理を行う目的で、専門の配信サーバ・システムを必要としている。マイクロソフトReaderの場合は、DAS(デジタル・アセット・サーバ)という名称は公表されているが、価格は付いておらず、非売品というかケースバイケースでの販売を行っている。

 アドビの場合は、ACS(アドビ・コンテンツ・サーバ)という名前で販売されており、誰でも購入できる。価格は年間5000ドル。サーバ製品の値段で「年間」というのに驚かれたかもしれないが、欧米の大手ソフトウェア・メーカーは、マイクロソフトを先頭にして、インターネット時代に即したビジネス・モデルを模索しており、収益構造を見直して「製品」ではなく「サービス」で売り上げる方式に移行しつつある。

 毎年5000ドルの支払いも、「サービス」への対価である。この他、電子書籍の販売価格の数%もアドビに支払うことになっており、ACSの内部に、販売本数と販売価格を記録する仕組みが入っている。
 マイクロソフトのDASも「サーバ使用料+販売マージン」という、同じビジネス・モデルである。9月のサンフランシスコ、シーボルト・セミナーでは、マイクロソフトの説明員が、「Readerはタダ、電子書籍の制作ツールもタダ!」と叫んでいた。

Adobe Content Serverの著作権管理

 昨年、音楽のMP3ファイルを世界中にバラ撒き、レコード会社が勝訴したNapster問題以来、インターネットで配信するコンテンツについて、著作権管理をしっかり行うシステムが増えてきた。欧米ではDRM(デジタル・ライツ・マネージメント)と呼んでいるが、簡単に言うと、ファイルのコピープロテクトである。ACSには、最先端のDRM技術が入っており、以下の通り、信じられないような各種の設定が可能となっている。

●テキスト抽出回数
 対象期間にその電子書籍をコピーできる回数を指定。無制限コピー可、コピー全く不可、指定回数だけコピーできる の三通りが選べる。普通は、コピー全く不可を出版社が指定してする。
●コピー対象期間
 無制限、日数を設定の二種類がある。
●印刷部数
 対象期間に印刷できるページ数を指定。無制限に印刷可能、印刷不可、指定回数印刷 の三通りが選べる。
●印刷対象期間
 無制限、日数を設定の二種類。
●譲渡と貸し出し
 譲渡と貸し出しを許す、譲渡と貸し出しともに不可の二種類。
●有効期限
 電子書籍を読めるトータル時間を、無期限または時間数で指定できる。

 これらの機能で何ができるかというと、有効期限を2時間間とすれば、図書館のように読み始めてから2時間だけ読める本となる。譲渡可能と設定すると、eBook Reader間の書籍転送機能をつかって、赤外線やネットワークで書籍を他のパソコンに譲渡すると、自分のパソコンではその本が読めなくなり、転送先のパソコンのeBook Readerでは、ライブラリとして一覧表示され、読書が可能となる。この転送時に「譲渡」ではなく「貸し出し」を選択し、日数を3日と設定すると、3日間だけその本は読めなくなり、転送先のパソコンでは、3日間だけ読めるようになる。

 DRMは、コピーがいとも簡単に行えるコンピュータのファイルに対して、コピーしても「オープンできなくする」ものである。オープンする方法は、電子書籍なら読書ソフトだし、音楽や映像ならMedia PlayerReal Playerなどの再生ソフトということになる。

 ACSでは「シングル・コピー・ライセンス」つまり、「読める本は常に一ヶ所にしか存在しない」というかなり厳しい著作権管理を行っている。マイクロソフトReaderの場合は、彼らのOffice製品と同じように、「シングル・ユーザ・ライセンス」という概念で、個人が自宅と職場に2台のパソコンを持っていることを想定して、一回だけコピー可能となっているが、アドビのような譲渡、貸し借り、有効期限といった高級な機能は付いていない。

電子書籍のホスティング・サービス

 イーストは書籍の取次と同じよう機構を持つ、アドビeBookのホスティング・サービスを行っている。本来、アドビeBookを販売したい出版社は、自社でACSを購入し、サーバのハードウェアやOSも購入してシステムをインストールし、巨大なサーバ・システムを構築しなければならない。ACSは毎年5000ドルだが、このサーバ・システムの購入と設定には、数100万円規模の経費がかかる。

 ホスティング・サービスは、このサーバ運営を二社が代行し、参加する出版社は、販売金額から一定の利用料を支払うというものである。参加出版社はノーリスクで電子書籍の販売を行うことができる。ノーリスクといっても、アドビeBook用のPDFファイルを作ったり、それが正しいファイルかどうかの検証を行うなどの作業や知識が要求される。

 この仕組みを図にしたが、出版社は、インターネットに繋がったパソコンから、電子書籍の書誌情報や価格の登録、更新、そしてPDFファイルのアップロードまでが行える。
 このホスティング・サイトは、書籍のデータベース検索からバスケット処理、クレジットカード決済、購入確認メールの送信そして電子書籍のダウンロードまでをやってくれる。つまり、出版社のホームページに「電子書籍の販売」というボタンを付け、このホスティング・サイトをリンクするだけで、販売がスタートできる。

 どの本を、いつ、誰が買ったかという販売情報も、ブラウザー画面で見ることができ、そこには、氏名やメールアドレスも入っているので、出版社は、改訂版を電子メールでセールスしたり、アンケート調査を行ったりと、読者に直結した販売戦略をとることができる。
 図にダイレクトURLとあるのは、個々の書籍を示すURLをホスティング・サービスの一環として提供するので、そのアドレスを書評のホームページや読書サークルのメールニュースなどに埋め込んでもらえれば、ワンクリックで、その書籍の説明画面が表示され、購入ボタンを押せば、「数秒後には」本が読めるわけである。


 肝心の「アドビeBookで本を読む」ことについては、まさに百聞は一見にしかず。以下の手順で、体験していただきたい。
1.アドビeBookのサイトに行き、日本語eBook Readerをダウンロードする。
 http://www.adobe.co.jp/products/ebookreader/
2.上記の「eBookコーナー」をクリックし、下のほうにある「無料サンプル」をクリックして、平井和正や陳舜臣の小説をダウンロードする。

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