電子書籍ケーススタディ 17
 本が売れるために =Books.or.jp= (下)
イースト株式会社 下川 和男

 今回は、前号に続き、社団法人日本書籍出版協会(http://www.jbpa.or.jp、以下書協)の本のサーチエンジン「Books」の新機能についてご紹介する。
 電子書籍の連載で、紙の本を売るための仕組みをご紹介するのも妙だが、将来のBooksは電子書籍のカタログ集になる可能性もあるので、お読みいただきたい。

携帯電話とPDA対応
 新しいBooksの最大の特徴は、前号でご紹介した、XMLドキュメントの全文検索エンジンBTONICの採用だが、もう一つの大きな特徴が、携帯電話である。
 1997年の初代Books開発時に、書協の前田副理事長(三修社社長)から、「Books開発の目的はただ一つ、我々の本が売れることである」と指示された。今回の改訂では、その主旨にそって、パソコンなどの固定デバイスからのインターネット接続数を凌駕している、移動体インターネット・デバイスに対応することにした。移動体デバイスなどと難しく書いたが、iモードなどの携帯電話やザウルス、Palm、ポケットPCなどのPDA(小型情報端末)である。

 先日、新宿ルミネの書店に行ったら、「ぴあ」などの情報誌コーナーの柱に「携帯電話による情報伝達をお断りします」という貼り紙があった。つまり、情報誌を立ち読みして携帯電話で「武蔵野館のスパイダーマン、7時15分からョ」などとやる人が増えているのである。
 それでは、これを逆手にとって、書店で本を眺めながら、慣れた親指運動でBooksを検索してもらい、欲しい本を携帯電話の小さな画面に出し、印籠のよう店員に見せて、「すみません、これください!」と言って欲しいと思っている。

 まだ、宣伝が行き届いていないので、移動体からのアクセスは、全体の一割以下であるが、徐々に増えている。
 携帯電話は、機種によりHTMLの仕様が異なっており、WAPという別体系のタグを採用している携帯メーカーもあるので、機種ごとにURLを分けているサイトが多い。天ぷらの「てんや」なら、http://www.tenya.co.jp/i (iモード)、tenya.co.jp/j (J-Phone)、tenya.co.jp/e (EZ-web)といった具合である。

 これをBooksでは、http://m.books.or.jpに統一している。しかも、三種類の携帯電話だけではなく、ザウルスもPlamもWindows CEを使ったポケットPCも同じURLである。クライアント・デバイスのHTML仕様が異なっているのに、URLを統一できる理由は、Booksサーバ側で最初のアクセス時にブラウザーの種類やデバイスの情報を読み取り、それに合わせてHTMLの種類を変えて送信するからである。
 この部分は、マイクロソフト社の.NET(ドットネット)フレームワークという最新のサーバソフトの付加機能である、モバイル・インターネット・ツールキットを使っている。

 下図の通り、BTONICの上に、.NET Frameworkが乗り、m.books.or.jpというURLが打たれた場合のみ、Mobile Internet Toolkitが動きだす。このモジュールがサポートしているデバイスは、http://www.microsoft.com/japan/msdn/vstudio/device/mitdevices.aspの通り、80種類以上に達している。

(Mobile Internet Toolkit)
        ↑↓
Microsoft .NET Framework
        ↑↓
検索エンジンBTONIC
        ↑↓
Books書誌情報 DicX (XMLデータ)

広告とオンライン書店リンク
 今年4月からBooksの運営が、凸版印刷とイーストに委託されたことにより、Booksで収益を上げる方法を模索しはじめた。その第一弾がオンライン書店へのリンクであり、第二段が広告掲載である。
 オンライン書店へのダイレクトリンクは、現在、
アマゾンhttp://www.amazon.co.jp
e-honhttp://www.e-hon.ne.jp
イーエス・ブックスhttp://www.esbooks.co.jp
紀伊國屋BookWebhttp://bookweb.kinokuniya.co.jp
ジュンク堂http://www.junkudo.co.jp
ブープルhttp://www.boople.com
ブックサービスhttp://www.bookservice.co.jp
楽天ブックスhttp://books.rakuten.co.jp
の8書店に対して行われている。

 Booksの詳細画面に表示される、これらの書店ボタンを押すと、オンライン書店の該当する書籍のページが表示され、すぐにその本を購入できる。先月号でご紹介したBooksLinkの書店版である。
 詳細画面で、ブラウザーの更新ボタンを押すと書店ボタンの位置がランダムに変わるのをご覧いただけるが、固定位置だと「どの書店を先頭にするか」など議論になるので、このような小細工を行った。
 このリンクを使って、実際に読者が書籍を購入した場合、一定の紹介料が我々に支払われるという、いわゆるアフィリエート契約を各オンライン書店と締結している。
 本の検索エンジンからのリンクなので、書店ボタンを押す確率が約一割もあり、非常に効率の良い宣伝媒体となっている。

 バナー広告はこれからの営業となるが、サーチエンジンなどのバナー広告とは異なり、本を探している人が訪れるサイトなので、ターゲットが明確な分、クリック率が高くなると見込んでいる。そのため、一般のバナー広告代理店から、「美容整形」や「消費者金融」などの広告を入れるのではなく、凸版印刷さんが、代理店となって書籍を中心とした広告営業を行っている。
 今後の展開としては、.NETフレームワーク上で稼動しているので、XMLを使ったWebサービスには既に対応済みであり、このインタフェースの公開を検討中である。時期尚早かもしれないが、SOAPを使ったサーバ間連携も、徐々に機運が盛り上がりつつある。

 毎年、フランクフルトのブックフェアに行くが、ドイツの国鉄「Deutsch Bahn(DB)」では、駅の窓口で時刻表がもらえる。都市ごとの携帯版からドイツ全土の大型時刻表まで、すべて無料である。DBのホームページhttp://www.bahn.deでは、ドイツのみならず、フランスやチェコの都市までの時刻表がたちどころ表示され、詳細画面ではホームの番号や料金まで出てくる。DBの新幹線ICE3の車内では、同じ画面が車内の液晶タッチパネルに表示される。
 ドイツのみならず、鉄道先進国のヨーロッパ諸国では、ローカルなバスの時刻表もインターネットで検索できる。
 Booksもこのように無料で、良質な情報を様々なデバイスに配信し、書籍がもっと売れること貢献すべく、更なる機能強化を行う予定である。

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Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]