電子書籍ケーススタディ 22
 液晶、一歩前へ =Comdex Fall 2002 報告=
イースト株式会社 下川 和男

 1990年からずっと、コンピュータ業界最大の展示会「Comdex(コムデックス)」に参加している。1993年から数年は業界団体で出展し、ブースでの説明なども担当した。最近は見学のみで、夜、日本からの同業者とホテルで酒を飲むのが恒例となっていたが、この数年、日本からの参加者も少なくなってしまった。(http://www.est.co.jp/ks/tabi/0211cmdx/)

今年のComdex
 Comdexは、Computer Dealers Expoの略で、プロのコンピュータ販売業者が、毎年11月、ネバダ州の砂漠の中にある歓楽都市ラスベガスに集まり、展示会やセミナーに参加するものである。
 10年前の最盛期には、30万人のコンピュータのプロがこの街に飛来し、商談を行っていたが、インターネットの普及による情報収集方法の革命や、度重なる経営者の交代などで、2000年は20万人、2001年は9月11日のテロとそれに続く炭素菌騒動で、12万5千人に参加者が減少した。

 コムデックスは、インタフェース・グループという会社が長らく経営していたが、10年ほど前にコンピュータ関連メディア大手のジフ・デービスが購入し、それを孫さん率いるソフトバンクが購入、その後2000年に現在のキースリー・メディアに売却ということで、大変、不安定になっている。開会の三日前には、キースリー・メディア危機説が流れ、来年の主催者が誰なのか、すら判らない状態となっている。

 米国のIT不況のなかで、シスコ、ソニー、インテルといった常連が出展を見送り、昨年、巨大なブースを出していたNTTドコモも見当たらない。しかし、マイクロソフトは相変わらず元気に、斬新な商品を発表し続けているし、台湾や韓国のデバイス・メーカーや携帯電話のノキアなども頑張っている。

 ビル・ゲーツ氏は、1994年から毎年、月曜日から始まるコムデックスの前夜、ラスベガス最大のMGMグランド・ホテルのアリーナでキーノート・スピーチを行っている。先月ご紹介した、「Information at your fingertips」はその記念すべき第一回の日曜スピーチであった。
 今回、彼は、次世代サーバOSであるWindows.NET Server 2003や、出荷を開始したタブレットPC、来春出荷予定のスマート・ディスプレイ、XML対応で2003年夏に出荷予定のOffice11そして、どこでもインターネット・デバイスという発想の「SPOT(Smart Personal Object Technology)」などを紹介した。

液晶が前面に
 台湾や韓国、そしてマイクロソフトのブースを見て、強く感じたのは、画面がドンドン、近くに来ていることである。具体的な機器をご紹介する。
 韓国サムソン(Samsung)のNEXIOはOSにWindows CEを搭載した、ザウルスより一回り大きなPDAで、画面はWVGA(800×480)、250グラムという超軽量である。無線LAN標準搭載なので、アクセスポイントを設置するだけで、インターネットの閲覧や電子メール、プリンタ出力などが手のひらで簡単に行える。

 CEをベースにしたポケットPCは、デルから199ドルという低価格版が発表された。しかし、ポケットPCは画面がQVGA(320×240)なので、読書端末には適していない。

 マイクロソフトのタブレットPCは出荷を開始したので、ハードメーカ各社のブースに展示されていた。ノートパソコンからキーボードを取り去り、液晶画面が前面に露出している。読む機能を強化したパソコンだし、画面解像度はXGA(1024×768)以上なので、二段組みの書籍も縦長に表示できる。新入生にパソコンの所有を義務付けている大学も多いようだが、タブレットPCなら図版や表が入った技術書も表示できるので、お勧めである。

 米国のベンチャー、エスタリ(Estari)の2-VU(ツービュー)は名前の通り、液晶画面が見開きで二ページ付いたパソコンである。「タブレットPCに画面がもう一枚」または「ノートパソコンのキーボード部分も画面!」という製品である。13.3インチと15インチの二種類があり、15インチが二画面だと、ピタゴラスの定理で計算すると、22インチに相当する。45万円のアップル・シネマ・ディスプレイと同じサイズである。
 たくさんの判例を参照する法律家、レントゲン写真や電子カルテを見る医者、辞書を引きながら難しい教科書を読む学生、CADを操作するエンジニアなどをターゲットにしている。これは、まさしく電子書籍である。試作品はかなり重かったが、量産すれば3kg以下にできると言っていた。マルチ画面は、WindowsがOSとしてサポートしているが、フェニックス社と提携してBIOSレベルでの二画面サポートを行うとの事。

 最後に、マイクロソフトのスマート・ディスプレイとメディア・センターをご紹介する。スマート・ディスプレイはMiraという開発名称で今年1月に発表されたデバイスで、簡単に言えば「無線ディスプレイ」である。パソコンのディスプレイをバッテリ駆動にして電源ケーブルをなくし、信号ケーブルは無線LANにして取り除いたもので、ソニーAirBoardに似たコンセプトのデバイスである。
 メディア・センターはこのスマート・ディスプレイのパソコン本体に入るOSで、Miraと同時に発表された、FreeStyleというリモコン操作のユーザ・インタフェースを持っている。ホーム・サーバのOSなので、ワープロや表計算だけではなく、ホーム・ビデオの編集や音楽ファイルの集中管理なども簡単に行える。


子供の頃、親から「テレビは、もっと離れて見なさい」とよく叱られていた。一家団欒の中心にテレビがあり、皆、14インチの白黒テレビを2メートル以上離れて見ていた。
 ところが、今、私はIBM ThinkPadの14.1インチSXGA(1400×1024)の液晶画面を60センチの距離で、毎日8時間以上見ている。電車に乗ると、皆、30センチの至近距離で携帯電話の液晶画面に見入っている。イーインクなど、紙と同じ反射光で見る表示デバイスも来年、登場の気配がある。

 新宿のオフィスに行く道筋には、週刊誌やコミック誌がうず高く積まれ100円で売られている。新聞も毎日大量のゴミとなってリサイクルに回される。しかし、電子書籍は森林を伐採することも、紙をリサイクルする必要もない。液晶は「Information at your fingertips」を実現する表示デバイスとして、一歩一歩、人間に近づきつつある。

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Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]