旅の記録 1991年8月11日〜16日 シアトル、ボストン
Windows 3.1 PDC と Windows & OS/2 Conference

8月11日(日)

 14時45分成田発のUA820でサンフランシスコへ向かった。UAのシアトル直行便がなくなってしまった為、シスコ経由で同日13時30分シアトルに到着。シャトルバスでダウンタウンへ。知人に予約してもらったStouffer Madison ホテルでいっぷく。すぐにコンファレンス登録のために円筒型の Westin ホテルへ向かった。
 登録は、こちらの予想通りできていなかったが、Work-In Registration で何とか登録完了。

 そもそものはじまりは、英語版のMSJ(Microsoft Systems Journal)で見た、マイクロソフト社の広告である。Windows3.1のプログラマ向けセミナーを開催するとある。特に気に入ったのが広告のヘッダにあった「No Neckties, No Sales Pitches, No Beginners」のテーマ。これは良い。同じ時期、ボストンで「Windows & OS/2 Conference」もあるし、是非参加しなければ。と思い立ったのが7月中旬。それから航空券の手配、シアトルのセミナーとホテル、ボストンのセミナーとホテルの手配を行なった。お盆と重なった航空券の入手が出発の1週間前、シアトルのホテルは2日前にやっと取れるという状況であったため、トラブルは予想していた。MSJの広告は、問い合わせ先として800番のフリーダイアルであったため日本からかけてもKDDのコンピュータが「おつなぎできません」と繰り返すのみである。知人を介して登録用紙を入手し、FAXを入れたのが4日前であった。

8月12日(月)

 いよいよ、Windows3.1セミナーの開始である。朝8時から夜9時半までの強行スケジュール。まず驚いたのが参加者の多さ。2000名と発表されたが、シアトル最大の劇場 5th Avenue Theater がほぼ満員である。テーマ通り、ほとんどが No Necktie。プログラミング以外、何の興味もないといった顔付きの連中がたくさん居る。名刺交換などヤボな事をやる者はまったくいない。
 この劇場は、入り口は何のへんてつもないが、場内は高い天井に龍が飛び、龍にまわりを鳳凰が舞っている。大きな龍の口からシャンデリアが下がり、多数の木彫りの彫刻も東洋風で、オリエンタルムードがあふれている。

 セミナーは開口一番、マイクロソフトの上級副社長で DOS、Windows、OS/2、NT などの責任者である Steve Ballmer の大声でスタートした。この大柄な自信家は1時間にわたって DOS、Windows、そしてNT(New Technology)とよばれる新しいOSについて概略を説明した。話題の中心はNTと次の次のWindowsであるWindows32である。NTはOS/2を新規に作り直したようなもので、これをIBMとは無関係に開発し、まずMIPS社のRISCチップに載せるという。UNIX同様、システムのほとんどをC言語で記述し、移植性が高いため、i486や他のRISCチップにも順次対応させていくとのこと。NTはプリエンプティブなNTカーネル部と、DOS、WindowsなどのAPIモジュールから成り、OS自体のモジュール化が行なわれている。

Win32 APIPOSIX APIOS/2 APIWin16 API
Trunk
NTカーネル
R3000、R4000、386、486、x86

 DOSまたはNT上でWindowsの32ビットAPI版、Win32を稼働させる。これは、現行Windowsの16ビットAPIもそのまま動くように作られている。
 この後は、本題のWindows3.1の話となったが、「3.1は3.0をサンドペーパーで磨いたもの」というバルマー副社長の説明の通り、大ヒット作となった3.0をブラシュアップしたものである。OLE、TrueTypeなど派手な機能強化は日本でも話題となっているが、セミナーでは、ユーザインタフェースの改良、性能の向上、そしてデバックツールの強化など、プログラマ向けの機能強化に重点を置いた説明に時間が割かれた。
 3.1での強化事項はほとんどがDLL提供であり、OLEのように、3.0でも動いてしまうものが多い。日本では大歓迎のコア部分のDBCS化や、マルチメディアで必須の「時間」の概念の導入もさらりと説明があった。
 午後の部ではOLEやTrueTypeの話があったが、OLEのオブジェクトとして Voice や Animation、Video なども意識していること、TrueTypeの登場により、現行のフォント名が変更されることなどが目新しい発表が多数行われた。ユーザインタフェースも拡張され、Common Dialogs、Drag and Drop、Open and Print Associations という機能が追加された。Common Dialogs では、ファイルのオープンやセーブ、印刷、フォント選択、カラー選択などの標準ダイアログを表示するAPIが追加された。GUI OSの問題点として、「どのレベルまでを共通化、標準化してアプリケーションにサービスするか」があるが、いよいよダイアログまで規定されてしまった。次バージョンでは ToolBar まで、操作性統一の旗印のもと、標準化されてしまうのではと危惧してしまう。アプリケーションソフトのメーカはGUIのユーザインタフェースで何の特徴も出せなくなる。
 また、この会場でWindowsの新しいロゴマークも発表された。4つの窓がカラーで美しく流れているデザインで、好感を持った。

 夜の部では、会場をウェスティンホテルに移し、3部屋に分かれてセミナーが開催された。現地では、この2000人の移動を「ソフトウェア・ディベロッパ・パレード」と報じ、シアトルの市長が、今週を「ソフトウェア週間」と宣言するなど、過熱気味に盛り上がっている。
 夕食はウェスティンで立食パーティー。ローストビーフやスパゲッティと並んで、すしのコーナーが人気だ。海沿いの町では「すし」はすっかりアメリカ人の食生活の中に定着したようである。とろもイカも旨い。日本の文化が定着するのは良いことだと思う。各国の優れた文化が理解され融合して、平和な世界を作らねば などと、ついつい海外に出ると力んでしまって、ジョン・レノンにでもなった気がしてくる。
 6時過ぎから、DDEML(DDEのManagement Library)やQuick C for Windows、OOP(Object-Oriented Programming)ツール、新しいC(生成されるオブジェクトコードが60%も縮小される Packed Code 機能を持つ)やC++、Universal Printer Driver と呼ばれるカスタマイズ可能な汎用プリンタドライバ、そしてWindowsのマルチメディアとペン拡張機能などの発表が行われた。APIの数は以下の通り。

Windows2.0458
Windows3.0578
Windows3.1771
MultiMedia拡張部197
Pen拡張部78

 これだけ増えてくると、そのうちAPIも「RISC」がもてはやされる時代がやってくる気がする。

 現地でWindowsソフトの日本語化や、日米間のコンピュータ技術の橋渡しをしている Global Vision社の千葉さんに会い、席を並べてセミナーを聞いた。アメリカでの生活が10ヶ月ほどのはずだが、スピーカのジョークで千葉さんが笑うのについて行いてないのが辛かった。

8月13日(火)

 朝から真打ちの登場となった。話題のWin32をNTグループのディレクタが説明した。WindowsNTということばも使っていて、NTとWin32は戦略プロジェクトとして、マイクロソフトの社内では合同で推進されているようである。
 Win32は、従来のスタンダードモード、エンハンストモードに、NTモードが加わり、NTではプリエンプティブ、マルチスレッド、各アプリケーションで2GBのアドレス空間を提供している。NeXTのようにサウンドも標準サポートしている。APIでは、INT21相当機能や長いファイル名なども可能となっている。テキストには載っていないが、現行WindowsのGDI、OS/2プレゼンテーションマネジャのGPIいづれもサポートすると解説していた。前日のバルマー副社長のスピーチでも、OS/2vsNTという構図で、NTの良さを強調していた。

スタンダードモード2861MBDOSから起動ノンプリエンプティブ
エンハンストモード3862MBDOSから起動プリエンプティブ(予定)
NTモード386/RISC8MBDOSエミュレートプリエンプティブ

 簡単なデータベース機能、うわさの Unicode の採用なども話題となるであろう。
 午後はより具体的な3.1の特徴が説明された。UAE(Unrecoverable Application Error)を3.0の大きな反省点と位置づけ、これを逆手にとって3.1の信頼性や、新しいテストツールWATT(Windows Automated Test Tools)などが発表された。UAEにはワトソン医師が(Dr. Watson)が親切に診断してくれるようである。
 ヘルプ機構も改善され、日本でも問題となっているアプリケーションのインストールプログラムについても新しいサンプルソースが提示された。

 各セッションは、平均1時間。最後の10分ほどがQ&Aとなっているが、毎回多数の質問者がマイクの前に並び、会場は拍手やヤジが飛び交い、活発な議論が展開された。いちばん拍手が多かったのは、バルマー副社長の「3.1にはリアルモードがありません」との発言の時であった。洋の東西を問わず、みんな泣かされているようである。
 質問でおもしろかったのは、フランス人から、「フランスのマイクロソフト社はわれわれに、まだ3.0のSDKを提供していない」との発言であった。会場からはため息とブーイング。
 米国とその他の国とでは、マイクロソフトの技術情報の流れに格段の差があると思う。
 今回のセミナーも、現地法人からの数名を除き、日本からの参加者は、某パソコンメーカの人と私の2人だけ。充実した内容のセミナーであっただけに、より多くの日本のWindowsプログラマに参加して欲しかった。次回チャンスがあれば、Windowsコンソシアムからでも、案内や登録資料を配布できるようにしたい。ツアーを組んでも良いが、同時通訳者の近くに日本人がまとまって席を取っている光景ほどみっともないものはないので、できれば個人参加をスムーズに行なえるように手助けしたいと考えている。
 マイクロソフトの第一線の技術者約20名による2日間のセミナーは成功履に幕を閉じたが、今回の主旨は、多くのスピーカが言っていた「We Need Your Help」にあると思う。IBMと対峙し、現在のDOS、Windows、OS/2そしてUNIXの領域までも包含した新しいコンピュータ環境(ACE:Advanced Computing Environment)作りのために、プログラマの助けが欲しいと訴えていた。
 会場では、Windows3.1のシステム、SDK、Pen拡張が配布され、出荷は年末とのこと。来年にはWin32、NTも登場するらしい。

 会場の近くでパソコンショップEggHeadを見つけたので、そこで PostScript の新しい本や、「Object Vision」、「Just Write」などのWindowsソフトを購入した。外箱に Not Export. US and CANADA Only.と記載されている。ユーザサポートの関係と思われるが、ちょっと買うのをためらった。
 6時でセミナーが終了し、ホテルに戻ってひと休みした後、11時発の夜行便でシカゴを経由しボストンへ向かった。

8月14日(水)

 9時にボストン着。空港から直接コンファレンスの会場である World Trade Center へ。入り口で数人の知り合いに出会った。こちらは、日本人が結構来ている。シアトルで参加者に配布されたWindows3.1のロゴマークが刺繍された立派なポロシャツを着ていたので、皆から振り向かれてしまった。

 大きなバインダに入ったコンファレンス資料をもらい、10時半からの「Open Systems at Crossroad」を聞いた。マイクロソフトのバルマー氏、IBMのOS/2の開発責任者 John Soyring 氏、そしてHPの NewWave の技術者 William Crow 氏のパネルディスカッションである。司会進行役の雑誌編集者の技術レベルの低さにはあきれたが、それ以外は満足のいく内容であった。参加を見送った話題の Metaphor/Patriot Partners 社の副社長も入れば、もっと面白くなったと思う。シアトルでの「全世界のプログラマと共に歩むマイクロソフト」という印象で私は気をよくしているため、パネル討論はバルマー氏に軍配を挙げた。100名ほどの参加者は皆同じ感想を持ったと思うが、IBMの抽象的なコンセプトと、将来の Object Oriented OS 構想に対し、2、3年先までの具体的なOS供給計画を説明したマイクロソフトに好感を持った。
 NewWaveについては、これをOSと位置づけてWindows批判、OS/2批判を展開したが、あまりそのすばらしさは伝わってこなかった。個人的には、NewWaveはPascalやTeX同様、学者の作ったソフトのようで好きになれない。思想や理論はしっかりしているが、性能やサイズは考慮されていないと思う。CやPostScriptのように技術者が作ったものの方が安心して使用できる。最近NewWaveのサポートを表明しているソフトハウスが増加しているが、これはUNIXマシン上でのアプリケーションを稼働させるための Migration(移行)に使うものと思われる。
 1時からロータス社の特別プレゼンテーションを聞いた。上級副社長の Frank King 博士によるロータスのGUIと、オブジェクト指向操作への取り組みの話の後、1−2−3 for Windows、AmiPro for Windows、Freelance for Windows を使ったデモが行なわれた。古舘伊知郎のような饒舌なプレゼンタの説明と軽快な画面の動きに感心した。よい出来である。特に1−2−3は、この発表で株価が大きく上がったのが良くわかる。Excelを研究し、Excelの弱点を突く説明を行なっている。AmiPro、Freelance共にOLE(Object Linking and Embedding)を使用しオリジナルの「Icon Palette」で操作性を統一している。既存の1−2−3のコマンド操作、キーストロークに慣れたユーザ向けに「1-2-3 Classic」というモードを持っている。旧来のコマンドメニューがウィンドウ表示される趣向となっている。センスの良い遊びだと思う。GUIに「遊び心」は不可欠である。
 2時からは「GroupWare Under Windows & OS/2」、4時から「Cross Platform Development」というセッションを聞いたが、いづれもハズレ。一般的なマーケティング系の話ばかりで、技術的に踏み込みが足りない。各セッションの始めに聴衆の職種アンケートを行なうが、参加者の半分以上が「企業の情報システム部門」の時に手を上げる。「プログラマ」など数人しかいない。このコンファレンス自体、マーケティング寄りのもののようである。
 クロス・プラットフォームの話には期待していたが、成果はなかった。イーストは、Windows用とOS/2PM用の2種類の日本語ワープロを作っているが、そのソースプログラム管理で悩んでいたので、良い解決策でも見つかればと思っていたのだが。
 Aldus社やBorland社はC++を採用し、ソースの一元管理に成功しつつある。マイクロソフト社でもExcelのWin版とPM版でCソースの90%が同じと聞いている。これからのマルチプラットフォーム環境において、上手いプログラム開発手法の解を見つけたソフトハウスが生き残っていくことになるだろう。
 会場で配布していたオブジェクト指向プログラミングやC++関連の雑誌の方がよほど得たい情報が多かった。何と4種類もの雑誌が出ている。これからC++のクラスライブラリ戦争が勃発するが、その兆候は雑誌かも読み取れた。

 夕方6時、資料をたくさん抱えて、ボストン Copley Place の Marriott Hotel にチェックイン。昨日の朝7時から35時間ぶりのベットである。8時からマルチメディア系の日米セッション「Jumps」で来られた方々と歓談し、ホテル2階のすしバーで遅い夕食を取り、長い一日が終わった。

8月15日(木)

 朝8時から、宿泊しているマリオットホテルでIBMによる特別セミナー「OS/2 Strategy Briefing」を聞いた。IBMは、マイクロソフトが参加しない今回のコンファレンスに非常に力を入れている。展示会場にはOS/2の大きな垂れ幕が下がり、この特別セミナーでも軽食を用意し、1000名以上の人を集めた。
 テーマは「OS/2:DOS Better than DOS. Windows Better than Windows.」つまり、DOS以上のDOS、Windows以上のWindowsとの事。
 2時間のセミナーでWindowsに対するOS/2の優位性を説明し、最後には200インチ近くの大画面を2つ並べ、同じWindowsアプリケーションを片やOS/2 v2.0、片やWindows3.0上で稼働させ、OS/2の性能の良さを強調していた。同じハードウェアでも、32ビットOSであるOS/2のほうがWindowsネーティブよりも高速で動くことを実証していた。OS/2のパッケージ価格も安くして、コストパフォーマンスで差をつける戦略である。
 IBMは「Customer」という言葉を連発する。昨日のロータスもしかり。顧客を大切にする販売重視の姿勢が目につく。マイクロソフト社はほとんどこの言葉を使わない。
 ちょっと気づいたことだが、IBMやロータスのプレゼンテーションの文字は非常に美しい。たぶんATM(Adobe Type Manager)とPostScriptプリンタを使用しているのであろう。それに対し、マイクロソフトのスライドやそのハードコピー資料は文字間隔(プロポーショナルスペーシング)が悪くて読みづらい。TrueTypeを使用しているかどうかは知らないが、一考を促したい。

 10時過ぎにコンファレンス会場に移動し、午前中は、併設されている展示を見てまわった。
 ワードパーフェクト、マクロマインド(Action!というマルチメディアエディタを出展)、ロータス、ボーランドなどに人だかりがしている。WordPerfect for Windows もすばらしい出来となっている。Mac版、UNIX版などを開発した実績があるため、GUI系のワープロには自信を持っているのだろう。プログラミングの用語で「Information Hiding」情報隠しというのがあるが、GUIでの操作方法ではこれが重要だと思う。CUI環境に較べ、機能が豊富にできる分、あまり使わない機能をうまく隠す必要がある。ワードパーフェクトはうまくやっている。
 罫線編集や画像張り付けの操作性が良いし、完成度が高い。ワープロとDTPの境界もなくなっている。PegeMakerでおなじみの2段組みの文書の任意の場所に多角型のイメージを貼り付ける(すると、テキストがサッと避ける)デモをやっていた。
 ここでもツールバーが特徴となっている。「Button Bar」という商標の美しいデザインのボタンがユーザインタフェースの要となっている。マイクロソフトの Tool Bar、ロータスの Icon Palette など、各社GUI環境での操作性の統一を競っているが、これらのメニューやボタン類と、メインメニューの関係など、まだ過渡期のようで、整理して考えなければならないことが多数残っている。WindowsのユーザインタフェースもIAYF(Information at Your Fingertip)インタフェースなどという言葉も飛び交っており、Win32あたりで大きく変更されるのではないだろうか。

 米国のWindows市場も、やっとアプリケーションが売れる時勢となり、各社、初回ロットの製品は定価を下げて販売している。ボーランドの ObjectVision は99ドル、Action! が199ドル、WordPerfect for Windows はDOS版を持っている人には5ドルと、半額以下の価格設定で、市場を握ぎってしまおうと躍起になっている。

 午後は、この出張唯一のフリータイム。ボストンは2度目だが、米国で一番歴史の古い町であり、ロンドンのような石造りの建物が並んでいる。地下鉄の古さも手伝って、ロンドンに居るような錯覚に陥った。トリニティ教会はウェストミンスター寺院のサブセットのようだし、チャールズリバーがテムズ川、パブリックガーデンがハイドパークに思えてくる。小沢征爾がボストンから離れないのもわかる気がする。
 まずオックスフォードに行った。目的はハーバード生協での書籍の購入。3階建ての大きな書籍部を見て回った。大学の生協らしくコンピュータ関連は充実しているが、オブジェクト指向操作やC++クラスライブラリなどの欲しい本は手に入らなかった。コンピュータ関連の書籍なら、サンフランシスコ、バークレイが一番充実していると思う。UCB(カリフォルニア大学バークレイ校)の生協とそれに続くテレグラフ通りの Cody Books でほとんどのものは手にはいる。大きなバッグに重いパソコンの本をたくさん詰めて、BART(Bay Area Rapid Transfer)に乗るのも出張の楽しみとなっている。
 夕刻から、水族館 New England Aquarium に行った。大きなウツボや3mを越えるグルーパー漁など見応えがあった。水族館や動物園はひとりで行っても面白い。夕食は中華街へ。欧米のあのパサパサした食事はどうも体に合わない。野菜も促成栽培のためか固くて資料のようだ。どこに行っても中華街があるので、いつも米か麺を食べている。シアトルではやわらかい野菜がたくさん入ったベトナム料理を食べたし、ボストンでもおいしい麺を食べた。中華街には、一人でも入れる店が必ずあり、それなりに美味しい。

8月16日(金)

 8時にマリオットホテルを出て、ローガン空港へ。
 ホテルでもらったアメリカ唯一の全国紙「USA Today」を待合室で何となく眺めていたら、カラー全面広告が疲れた目に飛び込んで来た。

386SX、16MHz、メモリ1MBのPCクローン機
40MBハードディスク、5"ディスクドライブ、3.5ディスクドライブ
  800×600のSuperVGAモニタ付き
DR−DOS5.0および8種のアプリケーションソフト付き

これで、999.99ドル(約13万円)とある。電話一本で購入できる。
 マイクロソフトは、顧客であり、パートナーであるはずのハードウェアメーカのことをほとんど気にかけていないのではないだろうか。DellやGateway2000の台頭を考えると、ハードウェアの製造も販売もベンチャービジネスで行えるまでに、ハードウェア技術は進歩してしまっている。
IBMとマイクロソフトのお互いゴールを認識した上でのOS戦争。10年前、CP/MやMS−DOSが登場した時と同じ、混沌とした状況が、10倍の規模となったのパーソナルコンピュータ市場で起こりつつある。ZortechやBolrandのC++が売れ、OS戦争が起こり、オブジェクト指向の新しいOSや開発ツールが出現しつつある。波瀾万丈の数年間となりそうだ。
 IBMがアップル、モトローラと提携し、SONYも関係してくる。マイクロソフトはコンパック、DEC、MIPSと提携し新しいOS作りに励んでいる。はじき飛ばされた格好のインテルは「Intel Inside」というロゴを作り、巻き返しの企業宣伝に追われている。
 NECはどうするのだろう。従来通りマイクロソフトと共に歩むと思われるが、NTと相性のよいRISCチップを作って大量生産に励めば、この機会に世界に飛躍できるかもしれない。富士通はどうするのだろう。10数年前に決定されたメインフレームでのIBM互換路線を堅持し、OS/2でもIBMと共に歩むのであろうか。それともこれを機会に富士通のソフトウェア開発能力を世界に見せつけてくれるのであろうか。
 500ドルのPCクローンから2000ドルのラップトップ、そして25000ドルのサーバマシンまで、10年でパーソナルコンピュータの世界は大きく広がった。ダウンサイジングは今やマスコミねたではなく、企業の情報システム構築の合言葉となった。5年後、パーソナルコンピュータがコンピュータのすべてとなることもあり得る。
 そのコンピュータすべてのOSをマイクロソフトは、一社で供給しようとしている。
 今までのWindowsやOS/2はマイクロソフトの試作品で、NTが本物のような気もする。我々プログラマは、ビル・ゲーツとスティーブ・バルマーのおおいなる試作ソフトの上で日夜格闘しているのではないだろうか。

Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]