旅の記録 1992年7月4日〜10日 SanFrancisco
Windows 32 PDC

7月4日(土)

 14時30分、京成上野駅で同行の佐々木君と合流し成田へ向かった。昨年8月のSeattle、10月のLas Vegasと一人旅が続いたが、今回はイーストのバリバリの技術者と道連れである。昨年のSeattle同様「No Neckties, No Sales Pitches, No Beginners」と歌っているため2人ともポロシャツ姿で、佐々木君は小さな布袋を下げただけの、高尾山へハイキング程度の格好だ。私はSan Franciscoのみ7泊滞在で動かないので、久々に大きな旅行鞄を下げている。鞄の中はDynabookV486。最強のカラーノートを持参した。
 15時30分成田空港駅着。土曜日のためかひどい混みようで、ちゃんと2時間前に着いたのに、チケットの入手、荷物預け、空港税支払、通関、手荷物検査とすべてが長い列で、飛行機に乗り込んだのは出発20分前であった。
 UA852便は満員で定刻通りに17時45分に成田をたち、San Francisco国際空港にも定刻通り11時に着陸した。ここでも荷物の受取りと通関で30分以上かかってしまった。トランクを持ち込んだ分、時間がかかった。手荷物だけでの旅も快適だが、今回はノート型にしては少し厚めでバッテリー込みで3.6Kgのパソコン持参なので仕方がない。1.1Kgのバッテリーをもって行くか否かを迷った挙げ句、トランクにしてしまった。つまりパソコンは手荷物検査で確認のためにパワーオンさせられるが、そのためだけに1.1Kgの重いバッテリーを持ち歩くのがつらいのである。
 United航空のハブ(中核空港)であるSan Francisco空港は日本人で溢れている。空港とダウンタウンのホテル街を結ぶシャトルバスSFO Airporterで市内に入った。コンファレンスの申込み確認の書類と一緒にこのバスの割引券が入っていたので、往復11ドルと、1ドル安くなった。
 昼過ぎにGrand Hyattにチェックイン。Windowsロゴのバッチと明日のRegistrationでのパーティーの招待状が用意されていた。最上階に近い32階のジョイントルームに入ったが、コンファレンス特価$145で7泊もするため良い部屋をくれたのであろう。San FranciscoはHilton Squareを良く使っていたが、Hyattのほうがこぢんまりとして落ち着いているし、場所もUnion Squareの前で買い物に便利だ。Egg HeadやDulton Books地階のSoftware ETC.などのパソコンショップにも近し、中華街もそばなので気に入った。
 15時頃から市内をブラブラ。無料の週刊新聞Bay Guardianを道端の新聞ボックスから取り出し、先ず催しものをチェック。San Francisco Symphonyは夏休みに入ってしまったし、オペラもやっていない。American Music HallではMr. Borjunglesのギターで有名なDavid Brombergやフランス系移民の音楽と黒人奴隷の歌が融合した、ZadigoのおばさんQueen Idaなどのコンサート情報が載っていたが、日程がうまく合わない。料金は10数ドル。日本では考えられない値段である。486マシンの価格と同様、4〜5倍の価格差だ。
 近くのスーパーでDr. Dobb's Journalを購入した。特集はMultimedia Programming。日本のセブンイレブンには「ログイン」はあっても、「ウィンドウズマガジン」や「The Windows」は置いてない。Dr. Dobb'sは10数年の歴史を持つパソコン誌で、昔はBASIC関連の記事が多かった。BASICのソースリストがたくさん載っていたが、読者の成長とともに、今では Capturing Digital Video using DVI, Audio Compression, Programming Quick Timeなんて記事がのる雑誌となった。最近がんばっているM&T社が出版してしており、立派な体裁になっているが、昔しの2色刷りの表紙が懐かしい。AmigaやMacはともかく、この手のコンピュータ技術誌やUnixの本まで、Play Boyと並んでスーパーで売られているのには驚かされる。
 夜、佐々木君は出荷直前のベクターグラフィックスソフト hDraw(アッシュドロウ)をDyna Bookで試験していた。今回は日本のWindows World Expo Tokyoと日程が重なり、イーストでは新製品を4本も発表するので、本来であれば幕張で商品説明を行わなければならない立場だが、Win32のコンファレンスとあれば参加せざるを得ない(などと書いてみたりして)。佐々木君はhDrawの開発責任者のためこの2週間ずいぶん仕事をこなしていた。私もこのところ幕張向けの4新製品のカタログ作りに翻弄されていた。幕張で良い評価が得られといいのだが。Windowsコンソシアムでのセミナー企画、Hands Onコーナーの運営などの仕事も事務局にまかっせきりでSan Franciscoに来てしまい心苦しい。
 今日7月4日は米国の独立記念日。花火がたくさん上がるらしい。Bay Guardianを見ると南のシリコンバレーで祭典があるとのこと。夜、花火の音だけが聞こえてきた。

7月5日(日)

 朝からオプショナルツアーのワインカントリー巡りへ。バス3台に今回のコンファレンス参加者を乗せてSan Francisco近郊のNapa ValleyとSonoma Valleyへ。ワインをたくさん試飲して4時半にMoscone Centerに戻った。
 コンファレンス会場のMoscone Centerは初めてだが、San Francisco市が力をいれて開発している地域のため、広くまたきれいに整備されている。
 Registrationの受付も、昨年の第1回より3倍ほど長いカウンターとなった。昨年が2000人なので、今年は6000人となるのだろうか。資料もちゃんと3日に分けて3分冊されている。昨年より1日多いが、資料は倍以上だ。CD-ROMも3枚に増えた。

1. Microsoft Windows International Versions
  (3.1 European,3.1 Hebrew and Arabic,3.0 Far East Edition)
2. Win32 Professional Developers Conference Developer Resource Kit
3. Win32 Software Development Kit for Windows NT

1.は前回、少し前のバージョンをもらった。ヘブライ語やアラビア語が3.1なのにFar Eastは3.0のままである。
 2.は前回、ディスク6,7枚であったのがCD-ROMに変わっている。内容はCode Sample, API Reference, Technical Backgrounders, Design Specificationと書いてある。パソコンは持参したが、CD-ROMドライブまでは持ってきてないので詳細はわからない。謎のディスクだが、日本で見るのが楽しみだ。
 3.が今回の目玉。別の封筒に資料とともに入っていたが、386/486用の3.5インチと5インチのBoot Disk(mips社のRISCチップR4000はCD-ROMから直接ブート可能)や60頁のRelease Note、Windows NTの稼働に必要なハードウェアを掲載したHardware Compatibility List、そしてCD-ROMドライブの$400での割引購入券まで入っている。

Windows NT 386/486版 稼働環境
本体 80386/486のATバス、MCAまたはEISAマシン
RAM16MB(最低12MB、Retail版は8MB)
DISK70MB(NT System and SDK)、20MB(メモリとのページング領域)
ビデオVGA640x480x16
Super VGA1024x768x16/800x600x16
IBM XGA1024x768x256
DELL DGX1280x1024x256

 表1に本体とビデオの仕様をまとめたが、このほかディスクコントローラ、ネットワークアダプタ、CD-ROMドライブ、サウンドカードなども規定されている。SVGAカードは今後もどんどんサポートを追加すると書いてある。
 Win32SDKのCD-ROMには、386/486用およびR4000用のWindows NT Operating system

Win32 SDK
C compiler
Development Tools

 そして7500頁もの仕様書がPostScript形式で入っている。

[SDK Documentation]
Win32 Programmer's Reference - Overview
Win32 Programmer's Reference - API Part 1
Win32 Programmer's Reference - API Part 2
The Windows Interface: An Application Design Guide
RPC Programmer's Guide and Reference

[Compiler Documentation]
C Language Reference
C++ Language Reference
C/C++ Tutorial
Class Library Users Guide
Runtime Library Reference
Tools
Programming Techniques

 つまり、C/C++7.0のあの膨大なマニュアルと、日本で1冊10,000円もする、Win32APIの2分冊の本がそのままPostScriptファイルで収まっている。ToolsとProgramming TechniquesはNTで追加されたものである。
 このCD-ROMは米国内では$69、仕様書込みでも$399で購入できる。期間は7月20日から9月30日までと記してある。10月には「Preliminary」が取れるのだろうか。
 Win32SDKのRelease Noteの巻末には、Trademarkについての記載があり、仮に商品名をhDrawとすると、「hDraw for Windows NT(TM)operating system」を正式名称として認定し、「hDarw NT」、「hDraw/NT」、「NT hDraw」、「Windows NT hDraw」などの名称は使ってはならないと記されている、「WinNT」などの略称や「Windows NT株式会社」などもダメ。Microsoftも大企業になってしまった。
 セミナーテキスト以外に以下の資料も入手した。

Conferenceの日程表&メモ帳
Microsoft Developer Network News(12頁の新聞)
Windows NT と Win32SDK Preliminary のカタログ
The Unicode Consortium の Workshop開催のパンプレット
Windows NT An Overview(16頁の小冊子)
A Special Preview of Inside Windows NT(37頁の小冊子)
Win32 Development Tools Guide(67頁)

 Developer NewsはVolume1,Number1でWin32、Win32s、Windows NT Architecture、WOSA、ODBCなどプログラマ向けのキーワードが見出しにあふれている。Microsoft Systems Journalの速報ニュース版のような作りだ。各種の技術情報をCDにまとめたDeveloper Network CDも$30で販売するとのことだが「Offer good only in the United States」とある。ただし、今回の参加者には、無料で9月に送付してくれるらしい。34,000頁もの資料が入っているとのこと。
 「Inside Windows NT」の予告版もおもしろい。Inside MacでMacのプログラム開発が急速に広まったように、Inside Windows NTも質の高い本に仕上がるだろうか。副題に「The Architecture and Design philosophy of Microsoft's "New Technology" Operating system」とある。「Inside Windows」を切望していたが、NTが先になってしまった。第1章は An Operating System for the 1990s。BTROMも昔、同じことをいっていた。「Design Goals」には「拡張性、移植性、信頼性、互換性」とある。
 昨年同様、白のポロシャツもセミナーバッグに入っていた。Windowsロゴの下にWin32 Professional Developers Conference と入っている。

 6時から予定にはなかったCOMPUTERWORLD誌主催のWelcome Reception。皆、ビール片手に歓談している。日本から来た知り合いも、数グループ見かけた。前回、日本からの参加者は2人だったが、今回はかなり増えそうである。

7月6日(月)

 8時半からBill GatesのKeynoteスピーチ。Moscone Centerで一番大きなHall Cを使ったがそれでも入りきれずに、登録が遅かった人は他のホールでビデオ中継となっている。Hall C は幕張のコンベンションルーム程度の規模があり、3,000人以上がゆったり入っている。昨年のSeattleの5th Avenue劇場でのセミナーとは異なり、大きなテーブルがあるので、資料を見ながらゆっくり聞くことができる。ホール内にビデオプロジェクタが8台。中程の席なので、Billの顔が小さくしか見えない。
 Bill Gatesのスピーチは、2部構成で、前半の20分ほどがMicrosoftの生い立ちからNT開発までの経緯、後半は昨日のWelcome Receptionで配っていた「Billへの質問用紙」を使ったQ&Aを行った。前半では BASICの開発から1985のWindowsの出荷、1988年のOS/2、そして今回のNTのSDK出荷までを手短にまとめていた。ゲート数が5,500の8080から1,200,000の486へ、そしてVisiCalcからExcelへと時代は変わったと説明し、次に「Unixってたくさんありますよね」というMicrosoftのいつもの切り口でMicrosoftが単一のサプライヤであるWindows NTの優位性を説明した。
 UnixはHP, DEC, SCO, SUN, NeXT, Apple, IBMなど(各社のUnixの名称を言えますか?)が出していて互換性もとれていない。それにワークステーション用のOSである。NTは「Scalable Family」という考え方で、ペンコンピュータからメインフレームまで1つのアーキテクチャ、1つのサプライヤで統一できることを強調していた。つまり「Microsoftが世界で唯一の、独占的なOS供給元」となることを目指しており、それがコンピュータ文化の発展に対する最良の手段であると強調している。
 後半のQ&Aはまじめな技術者の顔にもどって真剣に質問に答えていた。日本、中国、韓国などDBCS(2バイト文字)圏の扱いに関して、「Single Binary」にしたいと答えていた。Unicodeの採用やTrueTypeなど着々とその準備がなされているが、彼の口から聞くと重みがある。NTの次バージョンでは、文字コードやメッセージなど、文化の違いはDLLやSub Systemレベルで吸収されるのであろう。
 昨年のKeynoteは筆頭副社長で、当時システム部門の責任者であったSteve Ballmerが行ったが、販売部門の責任者となったため、今回は彼の出番がない。たしかにBallmerは昨年の春から秋にかけてやり過ぎた。自分が率いるOS開発部隊がすばらしいOSを開発したことで頭に血が上ったのであろう。打倒IBMとあの大声で叫びすぎたようだ。もう少し抑えていれば、このサンフランシスコの晴れ舞台にBillと並んで出られたはずである。あのしゃがれ声がなつかしい。BallmerやSteve Jobsの持つカリスマ性をBill Gatesは持っていない。ただの優秀なプログラマに見えてくる。

 9時半からの90分はシステム部門のSenior Vice President、Paul MaritzによるWin32とWindows NTのデモと概要説明。彼は、Yシャツにネクタイ姿で登場した。スピーカや事務局などMicrosoftの社員は赤いポロシャツを着ている。赤と言ってもWindowsロゴの4色に入っているようなオレンジに近い洒落た赤である。会場は昨日配られた白地にWindowsロゴが胸にワンポイントで入ったポロシャツ着た連中が多い。私は昨年のコンファレンスでもらった「3.1」と大きく刺繍のしてあるポロシャツを着て行ったが、同じような目立ちたがりやを数名見かけた。
 Paul Maritzは淡々とWin32の説明を行った。要約すると
・ユーザおよび開発者がWin16とWin32のふたつのAPIによりスムーズな成長が行える。
・Win32は386/486およびRISCのパワーを引き出すことができる。
・基本的なWin32APIはWindows3.1(Win32sライブラリ使用)およびWindows NTで使用可能。
となる。
 同じアプリケーションがいろんな形で動くデモとして、Bill Gatesの顔のイメージデータを486WindowsNTのWin16APIモード、Win32およびRISCのNTで回転させて見せた。RISC(mipsR4000)は格段に高速だった。
 Windows Familyの説明で以下の4系統の製品体系が紹介された。

LAN Manager for Windows NT 3.1
Windows NT 3.1
Windows for Workgroup 3.1
Windows 3.1

 目新しいのは、LAN ManagerをWindows NTから独立させたこと、NetWareレベルのLANに対応した for Workgroup という製品を出すことである。いずれもネットワーク対応の製品である。バージョンはすべて3.1。for WorkgroupはWindows4.0と開発名称が付いていたものと思われるが、1993年前半に$300以下で出荷するらしい。Mailを標準装備し、MAPI(Message API)を使用している。
 将来構想として、Windows3.1でのWin32APIのサポート、Cairoという開発名のObject Orient OSも1994年には出荷すると発表された。Windowsが32ビットAPIを持つということは、DOSも32ビットになるのであろうか。勉強不足で詳細を知らないが、DOSの次バージョンも少し気になる存在である。
 NTの歴史の紹介ではWindows、OS/2、UnixそしてVMSの開発経験を持つDave Cutlerのグループで開発したとある。噂のDEC西海岸開発チームだ。VMSの次OS開発のためにBostonではなくCaliforniaで集められた技術者は結局DECでは花が開かず、MicrosoftのもとでOS/2そしてWindows NTとして実を結んだ。元社員が開発したOSをDECはAlphaチップで採用するわけである。10数年前の、DOSのときはSeattle Computer Products社から86DOSを購入したが、NTでは優秀な開発チームを傘下に収めての開発である。これがBill Gatesのすごさだと思う。
 MaritzはWindows3.1でも稼働するWin32sを強調していた。MSKKの川合さんが先月、東京でのOlivetti M700発表会で言っていた「MS-DOSのシステムコールは10年間サポートし続けました。Win32APIも今後10年間保証します」という言葉を思いだした。
 NTより身近にあるWindows3.1で、Win32APIを使用したアプリケーションの開発と実行が行える「Win32s」は、プログラマ思いのMicrosoft社らしい概念である。実行には32ビットのメモリ管理を実現するライブラリ(Win3.0にも同種のものが入っている)と32ビットのVxD(デバイスドライバ)を使用する。つまり前出の4系統のWindows Family中、NT系はWin32API、Windows3.1系はWin32sライブラリを使用する。もちろんWin32sAPIはサブセットなので、NTでも稼働するがUnicodeは使えない。
 NTについては、300万行のCおよびC++のソースコードより成り、ほとんど新規にプログラミングしたと説明された。今回配布したCD-ROMにはMS-DOSおよびWin16APIや新しいファイルシステムであるNTFS、ネットワーク管理機能は含まれていない。9月に最終β版を提供しPOSIX APIやWin32sライブラリも整備し、今年12月に正式出荷する。次のステップでは、Windows3.1とNTでのグラフィカルな開発ツールや、C/C++7.0のクラスライブラリMFCの第2バージョンそしてx86、mips間でのクロス開発ツールも提供するとのことである。一部で噂のあるWindowsでのMacアプリケーションのクロス開発環境については言及されなかった。
 続くLou Perazzoliは昨年のSeattle同様、Win32APIの概略説明を行った。
 午後の個別セッションでは、「Testing Tools for Windows」、「MAPI」、「Multimedia」そして「Borland: Object Oriented Programming」を聞いた。
 雑誌の広告を見られた方も多いと思うが、「Microsoft Test」という製品が出荷されており、Windowsアプリケーションのテストが2回目以降機械的に行えるようになっている。Win3.0にも入っている、Recorderと画面用、キーボード、マウス用、各種制御用の支援モジュールで構成されている。日本と米国での開発環境の違いを見せつけられた。
 Borlandは飛び入りで、セッションを持ったが、プログラマに人気の高い会社だけに広い会場が満員で立ち見も出ている。6月にWindowsコンソシアムの技術セミナーで講師をしてくれたEugene Wangが自信たっぷりにC++によるクロスプラットフォームでのソフトウェア開発を紹介していた。

 併設のHands Onコーナーでは、Compaq、DELL、mips、NCR、NECなどのNTマシン数100台が並び、Excel、CorelDraw、Frame MakerなどのWin32対応のβ版も入っており、勝手に使うことができる。Microsoftの技術者がプログラマの質問に答えるQ&Aコーナーも作られている。いろんなマシンをさわってみたが、やはりmipsのRISCマシンが速い。比較してしまうと、386の33MHzマシンは触る気になれない。今月号のPC magazineが特集していたが、「Windowsマシンは486から」と体感してしまった。米国のWindowsは「386、VGA、Win3.0」で立ち上がったが、日本では漢字の数とストロークの多さを考えると、「486、ハイレゾ、Win3.1」からとなるのであろう。大きなシェアを持つNECが486、ハイレゾマシンを投入しなければ日本のWindowsは本物にならないと最近痛感している。コンソシアムが流行っているので、「98、486、ハイレゾ、3.1コンソシアム」でも主宰しようかと思う。そこで勝手に3.1対応の98のスペックを決めてしまうのである。希望通りの98が出た時点で解散する期間限定コンソシアムだ。

 夜はレセプション。大きなMoscone Centerに所狭しと食事と酒が並んでいる。このレセプション、当初はMicrosoftの主催であったが、急遽Borland、Oracleの協賛となった。Borlandも5,000人近くの技術者が集まるこの会を無視できなかったのであろう。Oracleは技術者に何かをアピールする必要のない会社だが、お金持ちなので協賛したに違いない。Unixデータベースの雄Oracleは、最近NTやWindowsの方向に目を向け始めた。SQLサーバで競合するが、Microsoftは大歓迎であろう。
 言語Pascalの考案者Nicolus Wirthの弟子でサックス吹きのPhilippe Kahn、日本というより京都趣味でポートレートの背景はいつも障子のLarry Ellison。Californiaには役者が揃っている。
 ちなみに、Lotusはこのコンファレンスに一切顔を見せなかった。セミナーも商品展示もなしである。

7月7日(火)

 8時30分から「Windows NT Kernel Architecture」をNTの開発責任者であるDavid Cutlerが説明した。真打ち登場である。頭がはげ上がったガッチリした体格のおじさんで、マウスの操作も下手だし、講演時間を20分も上回るし、スターの素質を持っている。
 NTのシステム構造、Dispatcher Objects、Control Objects、Threads、Priority Level、Schedulingなどを説明したが、残念ながら私の理解力が不足しているため、サッパリ解らなかった。初日にLou Perazzoliが説明したException Handling、Heap Managers、Synchronization、Memory Management、Memory Mapped Fileなどもまったく理解していない。「がんばって作ってください」と声援を送りながら聞いていた。NTについては、日本の「Super ASCII」に力の入った記事が連載されているのでそちらを読めばいいだろう。
 昨日に続くPerazzoliの「Windows NT Executive and Subsystem Architecture」では、以下のグループに分けて、NTの特徴が説明された。

NTの特徴
移植性複数アーキテクチャサポートIntel386/486、mipsR3000/R4000、DEC Alpha
ハードウェア依存部分の部品化Hardware Abstraction Layer、kernel、VM
機密性DOD(国防総省)のC2レベルの機密保持機構
互換性MS-DOS、Windows3.x、Win32API、OS/2、LAN Manager、FAT&HPFS File System、POSIX
拡張性サブシステム化、デバイスドライバ、Installable File System、Installable Network
信頼性システムプロテクト、ユーザ単位のリソースプロテクト、全APIでのエラーリターン、例外ハンドル
多重性マルチプロセッサ symmetric、uniform memory access model
2cpu(Compaq System Pro)、4cpu(NCR3450)、8cpu(NCR3554)
接続性LAN Manager(NetBEUI、Net BIOS、TCP/IP)、3270、NetWare
国際性OS内文字列、Win32API、C run time でのUnicodeのサポート

 続く「Windows NT I/O Subsystem」ではファイルシステムとして、FAT、HPFS、NTFS、CDFS(CD-ROM)、NPFS(Named Pipe)、MSFS(Mail slot)、RDR(LAN Manager redirector)があるとの説明、そして皆が期待しているUnixサーバとWindowsクライアントを結合するライブラリ「Windows Sockets」以外何も覚えていない。実は時差ボケで睡眠不足となりウトウトしていた。英語はわからないし、場内は暗いし、睡魔がおそってくる。冷房が利いているため、グッスリとは眠れない。今日はTrueTypeの話も予定されているため、Adobe Japanでもらった「TYPE」と大きく印刷されたTシャツを着てきたが、もっと厚着をしていればと悔やまれる。会社を代表して来ているので、まじめに聞かなければ思うのだが、眠たさには勝てない。大きなテーブルに顔を伏せて、まともに寝ようとするが、寒い寒い。

 難しいマルチタスクの話が今回の主題のようだ。期待していたPathやBezier CurveなどGDIの拡張や、Application Style Guideなど外見の説明はほとんど行われなかった。昼休み、山崎さん(俊一さんです)に「難しくてよくわからない」とぼやいたら、「Unixですね」と返事がかえってきた。Bill Gatesのキーノートの通り、「打倒Unix」がコンファレンスのテーマのようだ。GUIでMotifやOpen Lookに先行しているWindowsとしては、「しっかりしたOperating Systemに仕上げました」と表明したいのであろう。

 午後のセッションでは、Writing Unicode Win32 Application、International Features of Windows NT を聞いた。関連したテーマなので、同じ場所でセッションが行われた。Unicodeは、私の参加テーマのひとつである。TrueTypeやWindows NT OS部の標準コードに採用されているため興味を持っている。米国人でも興味を持つ人が多いようで、個別セッションにもかかわらず、参加者が多かった。
 Unicodeは16ビット幅の新しい文字コード体系で、全世界の文字を表現可能なコード系である。SGML(文書構造の規約)など、他の標準とも互換性を保つためのMapping Tableという概念も取り入れている。

Unicodeの概要
ASCII0000-007FASCII文字
Latin0080-01FFラテン文字
Greek0370-03FFギリシャ文字
Thai0E00-0E7Fタイ文字
Symbols2000-303F各種シンボル
Kana 3040-30FFカタカナ、ひらがな
Hangul3130-318Fハングル
Ideographs4000-8BFF漢字(中国、日本、韓国) 約20,000字
Private UseE800-FDFF

 1988年Apple、Xeroxが設立し、Unicode Consortiumとして、現在ではAdobe、Aldus、Borland、DEC、IBM、HP、Microsoft、NeXT、Novell、Sun、Unisysなどが参加している。事務局はMetaphor内に置かれている。参加と採用は別だが、NTでの採用により急速に米国で広まるものと思われる。
 NTでは、旧来のANSIコードとの互換性も保たれており、OS内に変換ルーチンが入っている。日本語版NTではここにシフトJISとの変換も入るのであろう。コンパイラも#define UNICODE でUnicodeとなる。TEXT("hello")はL"hello"、'A'は0x41ではなく、0x0041となる。Cの文字I/O関数も LPWSTR wsprintfw() などが追加され、Run Timeの処理も追加されている。
 CD-ROMが普及すればすべてのUnicodeフォントが入った、全世界共通のWindows NTが出現するであろう。International Featureのセッションでは、中文フォントの米国での出荷も発表された。
 Unicodeは、米国の企業が各国語の対応に困った挙げ句考えついたものなので、日本からみると文句をいいたいことがたくさんある。
 まず、「漢字コードが飛んでいる」。カタカナ、ひらがなと漢字(Ideographs)は別になっており、Ideographsの中は、中国の標準であるGBコードを主体にし、欧米人が見た字面からの判断で、例えば「JIS漢字コードは'中'はGBのこれ、'亜'はGBにないから後ろに追加する」という方式で標準化されている。JISとシフトJISは簡単に変換ルーチンがプログラミングできるが、UnicodeではMapping Tableが必要となる。何かと使いづらい。せっかく慣れ親しみ出し、漢和辞典にもコードが振られるようになった、JIS漢字コードの意味がなくなってしまう。「Unicodeは内部コードです」との公式見解であろうが、内部コードのままとも思えない。
 次に、「漢字は20,000のアドレスには入らない」という大問題がある。JISの第1(2965字)、第2水準(3388字)x0208と、中国のGBコード、韓国の標準コードは入っても、今後の拡張には16ビットでは耐えられない。諸橋轍次博士の大漢和辞典が50,300字、漢字の源、康煕字典が49,000字ある。漢字は文化であり難しい字も残すべきだと思うが、なぜ誰も反対を唱えないのだろうか。米国主導のUnicodeが日本に浸透する数年後、反対の声があがっても取り返しがつかない。誰か、中国、韓国と連携してAnti Unicode Consortiumでも推進して欲しい。どうせ書体やサイズ、文字属性でのシフトが発生するので、Countryコードでのコード系のシフトでも良さそうな気がするのだが。
 会社としてはUnicodeの出現で、新たなビジネスチャンスが生まれたので、色々なソフトウェアを企画しているが、個人的にはひっかかりがある。

 どうも最近GUIの世界で米国の押しつけが目だつ。Windows3.0のショートカットキーの「ファイル(F)」も扱いづらい。Win2.1の「F/ファイル」で良かったと思う。たしかにWin3.0のMan Machine Interfaceの規約となったIBMのシステム体系SAAのCUA(Common User Access)には、そのメニュー文字列に無い文字を使用する場合は()でくくるとあるが、あれは英語圏での仕様であって、漢字圏にはそぐわない。ロータス株式会社の「Fファイル」がすっきりしていて気に入っている。()の無駄な2バイトのために、ウィンドウを狭くするとすぐにメインメニューが2段になり、使いづらい思いをしているユーザは多い。Excelでもしかたなく、最後のヘルプのは(H)を付けていない。たまにはマイクロソフトがロータスに習っても良いだろう。誰の考案か知らないが「Fファイル」は見識だと思う。
 CUAにはもう一つ文句がある。「カット&ペースト」が「切り抜き&貼り付け」となった件だ。CUAの英文マニュアルには日本語でこのように明記してあるため、Windows 2.1で定着しつつあったカット&ペーストがWindows 3.0で消えてしまった。何でも日本語にする、欧米人の日本語感覚で仕様を決められてはたまらない。カタカナも日本語である。IBMと別れたWindows 3.1でもこのあたりの規定は改善されていない。

 コンファレンスでは、併設の展示会も開催されていた。EASTの製品も展示させてもらおう思ったが、Windows NTで稼働するソフトのみとのことで断られてしまった。しかたなく、日本から持ってきたVinceやhDrawのカタログを100部ほどカタログテーブルに並べておいた。日本語のカタログを興味深げに見る人が多く、1日でなくなってしまった。いずれも単純なグラフィックスソフトなので、画面写真を見るだけで、機能は理解できたはずだ。
 展示会にはハードメーカ、ソフトメーカ約100社が参加した。
 ハードメーカは、Digital、Compaq、Wyse、Olivetti、DELLなど。DigitalはGenesisという斬新なデザインのマシンや、話題のDirect Sales路線のATマシンを出していた。GatewayやNorthgateの向こうを張って直販に乗り出すとは思いもよらなかった。50頁の立派なカタログも用意している。6時からDEC Alphaチップの個別セッションを聞いたが、NTの搭載で気をはいている。副社長のBob Supnikが21世紀のコンピューティングと紹介している。64bitRISCチップでNT、OSF/1、VMSをサポートするらしい。このBob SupnikやDavid Culter、古くはGordon BellやApollo DomainのPodusuckなど、Digitalには良いコンピュータアーキテクトが育つ土壌があるようだ。社長が優秀な技術者だからであろう。そのKen Olsenも10月で退任。次の社長は、Alpha技術の責任者が就任するとのこと。
 Compaqの新型カラーノートも面白い。トラックボールが液晶パネルの右に出ており、ボタンが蓋側に付いている。ノートに小さなポインティングデバイスは必須だと思う。
 WyseはDyna Bookより小さな486マシンをショウ特価$2,159で販売していた。Cyrixの低消費電力486互換チップを使い、メモリ4MB、ディスク120MB、VGAモノクロである。
 日本のメーカはNTにどう対応するのだろうか。UnicodeやTrueTypeの採用で国境の壁が更に崩れてきている。差別化がますます難しくなる中で、Digitalのようにオリジナルチップで勝負に出るか、NCRやOlivettiのようにマルチプロセッサ技術を競うか、現状通り製造技術に頼るのか、3つの選択枝がある。独創的な技術を見せてほしい。
 ソフトメーカは、開発ツールやネットワーク関連製品が多かった。
 C言語はBorland、Zortech、WATCOM、DEC C++。オブジェクト指向のマルチプラットフォーム開発環境としてGUILD、EASEL、zAppが出ていた。通信ソフトでAccess、A-Talk、Dyna Comm、Hyper Access、LAN Auditor、NT Link、Micro Phone。DBアクセスソフトとしてOracle7、Ingres、Objectrieve、QBE Vision、XDB Serverなどが出展していた。2割ほどの会社でTシャツやバッグ、フリスビーなどの小物を配っており、一回りすると、小物がいっぱい集まってしまう。会社へのおみやげにもってこいの品々だ。
 MicrosoftのFar East Marketing部門がブースを出し、「Developer White Paper」という36頁の小冊子やWindowsコンソシアムが編集した日本語版「Windows Sopping」を配布していた。White Paperには日本、中国、韓国の市場規模や、Windowsの状況などが説明されており、最後に「Far East Edition SDK」の注文書まで付いている。米国の1/20の市場しかない日本に進出してもメリットはあまり無いと思うのだが。将来の中国市場をにらんでのことかも知れない。

 夜8時半から、Digital主催のパーティーが、Golden Gate Bridge近くのExploratorium(科学体験博物館)で開催された。11時まで、ポップミュージックに甘いデザート、ワインやビールという取り合わせのパーティーでSan Franciscoの夜を満喫した。

7月8日(水)

 今日は8時から始まるので、7時半に会場に入った。3日間とも、朝、昼の食事、夜のパーティー付きである。朝はミルク、ジュース、ヨーグルト、ドーナッツ、クロワッサンなどが山積みしてある。会場内にも、コーヒー、紅茶が置いてあり、スピーチの最中にコーヒーやドーナッツを取りにいって、食べながら聞いている。これでは太るはずだ。昼食はメイン会場の隣のHall B、Hall Cで取ったが、5,000人が一同に会食する様は壮観である。5,000人に一度に出す食事なので、内容はえらく乏しかった。脂っこい温野菜とチキンの料理が3日間続いた。昼からも果物やお菓子がたくさん置いてある。まさに飽食。

 3日目は具体的なプログラミングの話が主体である。開発ツールやC++のクラスライブラリ、そして最後の合同セッションは「Windows Future」。オブジェクト指向OS Cairoの説明があった。OSというよりLayerに近いもので、NTにオブジェクト指向データベースの皮をかぶせることになるのだろう。ユーザ側から見ると、LotusのNotesに似たソフトに見えるような気がする。
 開発名称Cairoについて「日本の諺、"待てば海路の日和あり"に由来するもので、苦節10数年、NTでUnixに対抗し、IBM、Apple連合のPinkをCairoで撃破する願いを込めたものです」との説明はMicrosoft側からは行われなかった!

 会場にはたくさんの資料が置かれているが、その中にAdobeの求人広告を見つけた。Windows NTのアプリケーションプログラムマネージャー募集と書いてある。AdobeはUnixとMacが主体のため、このWindowsの隆盛に焦りがあるのかも知れない。佐々木君がこの紙をじっと見ていたので、一瞬ヤバイと思った。
 昼休みに、山崎さんに誘われて、近くのMarriott Hotelの最上階にあるラウンジで話をしたが、Anti Unicode Consortiumで盛り上がった。
 夜、コンファレンスで知り合った方々をホテルに招待し、Napa Valley産のワインを飲みながら、カラーのDyna Bookを使って、EASTの新製品のデモと開発思想の説明を行った。
 EASTはWindows技術者が100名以上もいるという日本では貴重な存在のWindowsソフト会社で、システム受注8割、パッケージ販売2割程度の売上構成だが最近パッケージソフトをたくさん発表している。
 7、8、9日と、日本ではWindows Worldが開催されているが、気になっている。4本の新製品を出展したが、どれも思い入れのはげしい製品である。
 hDrawは、ベクターグラフィックスソフトで、簡単な図面や地図を作るものである。OLEサーバ機能(日本製で初めてだと思う)を持っており、単体で使用する以外に、WordなどのOLEクライアントアプリケーションから呼び出して使うことができる。Word添付のMS-Drawに較べ、部品登録、選択、平行線(道路、鉄道)描画などの機能が少し勝っている。一番の自慢はオブジェクトサイズで、MS-Drawの580KBに対し、hDrawは200KB程度である。もっとも、hDrawが小さいのではなく、MS-Drawが大きすぎるだけなのだが。
 Vinceは、一番売れそうなソフトである。見た人が皆、感心してくれる。絵を描く作法をそのままコンピュータに移し換えたソフトで、衛星放送の「The Joy of Painting」を見て感動した技術者が受注の仕事の合間に作ってしまった。パッケージソフトだが開発工数は表面上0人月、売れれば即利益となる。世界に通用する物作りを目指すEASTとしては、独創性にあふれたソフトが作れたと思っている。
 CARD for Excelは最初の発表から1年以上たってのようやくの出荷である。簡単なExcel Add-In ソフトを作ったのだが、画面制御や、フォーム定義などに欲が出てしまい、奥の深いシステムに仕上げるのに時間がかかった。価格もそれほど高くないので、Excelでラベル印刷を簡単に行うソフトと思って買って頂ければそれで良いのだが、結構な業務処理ができてしまう。第1版でも豊富な機能を持っているが、今後バージョンアップするごとに深い仕掛けが見えてくると思う。
 True Printは、6月中旬に開発を決めた新作である。2カ月ほどで開発を完了できそうだ。これは、WindowsのプリンタドライバをWindows側からみて開発した商品で、プリンタ側のコマンドはほとんど使わず、イメージデータのみで印刷を行うものである。画面出力と同じものがプリンタに出力できる。イメージにしては印刷速度も遅くない。ドライバという特殊なソフトだし、Windows 3.1ではunidrvとして同じ様なドライバが付きそうなので、その「すき間を埋める商品」として販売方法を検討中である。True PrintとVinceは英語版Windows 3.1上で開発しており、「たまたま日本語Windows3.0でも動きます」というスタンスの商品である。

7月9日(木)

 コンファレンスも終わり、今日はシリコンバレーの会社訪問。知り合いが、PostScriptで有名なAdobeで働いているので、彼を訪ねることにした。マウンテンビューまでリムジンで直行。アメリカでは車がないと動きがとれない。2年前にも訪問したが、そのときはCal Trainという汽車を使用した。Cal Trainは1時間に1、2本しかないし、駅も遠いので、大枚$100をはたいて、大きな図体のリムジンに乗ってみた。
 Adobeは2年ぶりの訪問だが、規模が倍に膨らんでいる。社員が増えるごとにビルディングが増えていくので、建物の推移でその会社の隆盛が判断できるが、ビルは2個から4個に増えていた。従業員が全世界で800名、この本社で600名が働いているとのこと。
 Adobe(アドビ)という変な名前の会社を知ったのは5、6年前だが米国のソフトウェア会社としてはMicrosoftとともに、気に入っている会社だ。販売主体の会社が多い中、技術力でまともに勝負をしている姿に好感を持っている。
 日本でも幕張で展示したらしいが、Windows上で漢字ATMが動いていた。Adobe Type Manager(ATM)は、画面上にアウトラインフォントを表示するユーティリティで、日本の「Font Pro」、「Font Gallery」、「c_Font」と同じ位置付けの製品である。ただし、これらのWIFEインタフェースの商品と違い、WindowsのDisplay Driver Interfaceをフックして、文字を表示している。一部に熱狂的な支持者を持つ、Display Dispatch Driver(DDD)と同じ切り口である。DDDのWIFEからフォントをもらうトリック部分を、まともにAdobeの美しいPostScriptフォントを使ってラスタライズ処理を行っている。
 UnixのX端末で稼働する、Display Post Script(DPS)もデモしてもらった。非常に強力なグラフィックスエンジンで、色や解像度、回転や移動などの、画面上の1頁内の表示を担当してくれる。かなり大がかりなシステムだが、話題のDevice Independent Colorにも対応しており、忠実な色表現が行える。X-Window内の表示のみを担当するので、メニューは各GUI(Motifなど)を使用している。Windowsでは重たくなるが、Windows NTでは手ごろなソフトになりそうだ。NTのグラフィックス処理がここまでの機能を持つのは当分先と思うので、早くNT版DPSがほしい。画面描画のプログラミングがずいぶん楽になるし、プリンタ出力はPostScriptプリンタであれば、いとも簡単に印刷できてしまう。Show PageというDPSを使用した簡単な表示ソフトもおもしろい。PostScriptを読み込み画面に表示するだけのソフトだが、今すぐWindows版が欲しくなった。コンファレンスでもらったNTのCD-ROMに入っている7500頁のPostScriptファイルを印刷する気にはなれないので、画面表示用に使ってみたい。

 午後から、パソコンショップFly's Palo Alto店へ。コンピュータのスーパーマーケットで、ハードやソフトが山積みされている。Windows関連だけで、2m近い高さの棚が20m以上続いている。少し買おうかとも思ったが、日本まで持って帰るのがたいへんなのでやめにした。本は見ないと内容がわからないし、種類も多いので購入せざるを得ないが、ソフトは日本の雑誌にも宣伝を載せ始めた、Compu Classic社などの通信販売で簡単に安く買えるので最近はこれを利用している。ある程度の本数をまとめて買えば、送料も負担にはならない。先月、FAX注文から5日で商品が届いたのには驚いた。
 ハードウェアも極端に安い。486SXの基本システム(マザーボード、1MBのメモリ、ディスクコントローラとドライブ、キーボートと筐体)で$350程度、これにメモリを4MB、200MBのハードディスク、SVGAカードにモニターを追加しても$1200で買えてしまう。486DX、50MHzを使っても$2000前後である。若い夫婦がスーパーマッケットの大きなカートにSonyのマルチスキャンモニターを乗せて、駐車場に向かう姿が印象的であった。
 夕方、ピザが大好きなもう一人の友人と合流し、おいしい中華料理を食べ、本屋が経営している喫茶店でカプチーノを飲んで、友人の会社の日本進出について、無料コンサルタントを行い、夜11時すぎまでシリコンバレーで遊んでしまった。
 シリコンバレーは物価が高く、一戸建ての家は4〜5,000万円。生活費も東京よりかかるとのことで、良い技術者が集まらなくなっている。Silicon GraphicsやGOあたりが最後のシリコンバレーベンチャー企業となるかもしれない。

7月10日(金)

 今日は1日、近くをウロウロ。まずBARTに乗ってBerkleyへ。前回の10月レポートと同じ道順で、UCB(カリフォルニア大学バークレイ校)の生協書籍部とTelegraph通りのCody's Booksを覗いて、以下の書籍を購入した。

Using MacDraw
個人的な興味で購入した。
Bit-Mapped Graphics
Mac Paint、GEM/IMG、PC Paintbrush、GIF、TIFFなどのファイル形式が紹介されているが、残念ながらTIFFは4.0。
The Windows Shareware Book
これも現在のところ個人的な興味。
Advanced Windows Programming
この本はお薦め。DIB、DDE、OLE、デバック手法などについてまとめてある。
The Windows Interface
Microsoft Pressの新しいアプリケーションデザインのガイドブック。Won3.0では、英語版アプリケーションスタイルガイドとしてIBM社SAAの「Common User Access」がそのまま入っていたが、3.1からはこの本がMan Machine Interfaceの指針となる。内容は、期待はずれ。2.0時代のスタイルガイドをやき直したような作りで新鮮味がない。さまざまなアイコンやツールバー、ダイアログが出現している今、新たな規定を追加しずらいのはよくわかるがもう少しMicrosoft色を出して欲しかった。
Writing Windows Device Drivers
主にバーチャルデバイスVxDについて説明してある。GDIやDisplay Driver、Printer Driverの記載は少ない。
The Unicode Standard,Version1.0
コンファレンスで興味を持ったUnicodeの唯一の解説書。レターサイズで$33もする割には、期待はずれだった。使っている漢字やひらがなの活字がきたないし、肝心の漢字文字セットがVersion2.0で説明と書いてあるだけで、抜けている。興味を持ってくれそうな技術者がいるので、帰ったら要約を作ってもらおう。
The Windows3.1 Secrets
3.0は日本でも出版されたが、その3.1版が出ている。ディスクが3枚付いており、Windowsのフリーウェアがたくさん付いている。Windowsの裏技が多数紹介されておりおもしろい企画でヒット中の書籍である。
 ソフトは結局、MicrosoftのTrue Type Font Packだけ、買ってかえることにした。40書体で定価$79が$40で売っていた。1書体$1.00となる。日本ではMacのTrueType漢字フォントなど1書体10,000円が相場となりつつある。ユーザから見ると、1書体2,000円程度が希望だろう。

7月11日(土)

 UA853便で日本へ。B747の60番なので最後尾に近い席(今回はホテルをリッチにして、飛行機はエコノミー)。少し席が空いていたので窓際に移り、2席を確保してゆっくり座って帰った。なぜか外を見るのが好きで、雲ばかりの窓の外をいつもジィーと見ている。
 この原稿は、DynaBookV486を持参して、いつもの通り出張中に書いた。時差ボケで眠れないため、毎日睡眠時間は2〜4時間。夜中に起き出して、朝までワープロに向かった。
 いつもの通り、ワープロはEAST製の「アシストワード」。マシンもWindowsが高速に動くし、そろそろWindows版のワープロが欲しいが、適当なものが見あたらない。Wordでは、重くて使いづらい。来年までには、「アシストワード」のWindows版のような軽快なエディタ/ワープロを社員の誰かに作ってもらおう。
 マシンも来年にはもっと軽くて持ち運びが便利になっているだろう。今回はホテルに戻って原稿を書いたが、会場に持ち込みその場で書いてみたい。そのためには、電池は、8時間は持ってほしい。会場で、Wordでメモをとっている人を見かけたが、昼休みに大きなバッテリーパックを交換していた。現在、DynaBookV486が3時間弱。4倍は無理かも知れないが、2倍にはなると思う。TI/Gatewayのノート型はモノクロだが、486DXで6時間の寿命がある。重さも3.6Kgはつらい。2.5Kg程度にならないものであろうか。現在のDynaBookV386と同じ大きさで、486DX、カラーVGA、200MBハードディスク、FAX/Modem標準装備、トラックボール付きの製品が1年後には出るであろう。


Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]