旅の記録 1992年11月12日〜23日 Seattle、LasVegas、SanFrancisco
COMDEX Fall 1992

11月12日(木)

 京成の特急で成田へ。7月の Microsoft Windows32 Developer's Conference 参加のためのサンフランシスコ出張では、手続きに時間がかかり2時間前でぎりぎりだったので、今回は2時間半ほど前に成田空港に到着した。今日は平日のためか、不況で海外旅行どころではないのか、人はまばらでスイスイと手続きが進み、2時間前に出発ロビーに着いてしまった。
 今回はシアトル、ラスベガス、オレンジカウンティ、サンフランシスコと4箇所を10日で回る強行軍のなので大きなバッグが邪魔になる。バゲッジクレームで待たされるし、トランクを引きずって歩くのは格好が悪い。そこで、機内持ち込みの手荷物2個にしたのだがこれが重たくて参った。今回は商談が5、6件もあり背広とネクタイも必要で衣類がかさばるのと、大型のノートパソコンを持っていくのが原因である。
 パソコンは日本IBMの PS/55note C52 486SLC、米国で ThinkPad C700 として販売している最新のノート型である。10.4インチの大型カラー液晶が付いているが、その分重くなっている。電源を含めると3Kg以上である。
 結局手荷物2個合わせて15Kgとなってしまった。さすがに重い。

●[「マイクロソフト」を読んで]
 荷物をなるべく減らすためいつものウォークマンを持ってこなかったので、出発ロビ−での2時間、久しぶりに本を読んだ。「マイクロソフト−ソフトウェア帝国誕生の奇跡−」というアスキー出版の訳本である。成田空港、サンフランシスコ行きの機内そしてサンフランシスコからシアトル行きへの乗り替えの待ち時間を使って、430頁を読み終えた。マイクロソフトの生い立ちがよくわかるし、ソフトウェアの開発体制も垣間見ることができる。【Windowsコンソシアムの事務局ミーティングに参加されているソフトバンクの長坂さんに紹介された本で、】誰にインタビューして書いたかがわかる記述が多いが、ビル・ゲーツの少年時代から設立そしてWindows3.0の大ヒットまでが良くまとまっている。
 ポール・アレン、スティーブ・バルマー、チャールズ・シモニーのマイクロソフト社での位置付けも理解できた。アスキーの西社長は思いのほか深くマイクロソフトにかかわっていたようだ。マイクロソフト=ビル・ゲーツの構図も良くわかる。この本の前半はMITSオルテアから、ティム・パターソンの86DOSがMS-DOSとなるまでが述べられているが、MS-DOSの完成によってマイクロソフト社の現在は保証された感がある。後は順風に乗り、風を集めて今に至ったようだ。
 Windows3.0 開発チームは20数人、Excelも最初のバージョンは「プログラムマネージャ」と呼ばれるスペックの責任者の下、7名のプログラマが開発したとのこと。プログラマ15人以上のプロジェクトは作らないことなど、共感するところが多い。ソフトウェアは結局ひとりの仕事のため、1人のプロジェクトがいちばん効率がいい。10人が1年かけて作るより、1人の才能あるプログラマが1年で作ったプログラムの方が絶対に優れている。特にWindowsのようなGUIのソフトウェアでは、良かれ悪しかれ1人の思考で統一されているべきだと思う。IBMが当時数10人のソフトハウスに言語とOSの開発を依頼した判断も正しかった。
 完全フレックスタイム、そしてはだしで仕事をする伝統には共感した。ソフトウェアに限らず、創造力か必要な仕事にネクタイは合わない。パジャマにハダシがいちばん仕事に集中できる。本というものを久しぶりに読んだが、これからマイクロソフト社へ行くこととも合間って、おもしろい読み物だった。

 今、元イーグルスのグレン・フライが「デスペラード(ならず者)」をテレビで歌っている。ここはアメリカ、ウェストコースト。シアトル、ヒルトンの21階。いつもは時差ボケに悩まされるのだが、今回はユナイテッド、サンフランシスコ便のエコノミーがガラガラで3席を独占して靴下も脱ぎ、横になってゆっくり休んだため、快適だ。11時。そろそろ寝るか。

11月13日(金)

 13日の金曜日で仏滅。なにかあると思ったが、大過なく終わった。昼過ぎまで市内をブラブラ。シアトルは5回目だがあまり変化がない。相変わらず霧が多く晴れ間が少ない。マーケットには海や山の幸があふれている。
 夕方から打ち合わせのためマイクロソフト社へ向かった。タクシーに乗り「Redmond」と言ったら、マイクロソフトかと聞かれた。87年にもマイクロソフトへ行ったが、その時は「Microsoft」と言ったら知らないといわれ困った。パソコンメーカの人がベルビューヒルトン泊まる話しを思いだして「Bellevue」と説明し、何回も道をたずねてやっとたどり着いた。前回はグルグル回ったため80ドルだったが、今回はスムーズに到着し25ドル、チップを含めて30ドルであがった。
 5年前はビルディング6までだったが、入り口の表示版にはビルディング21まで書いてある。87年は社員1800人。現在は全世界で6000人近くになっている。
 社内には「プログラマのガソリン」と呼ばれる20数種類の清涼飲料水やコーヒー、ミルクなどが用意され自由に飲めるようになっている。7月にたずねたAdobe社も同じサービスを行っていた。プログラマに自由な環境を与えようという姿勢が見受けられる。

11月15日(日)

 朝3時に起きてこの原稿を書き、気付いてみたらもう5時。シャワーを浴び、急いで荷作りを済ませ、チェックアウトをして外に出たら5時40分。5時36分のバスはもう出てしまっていた。タクシーに乗ろうとしたら、ベルボーイのおじいさんが1ブロック先にバスはいるはずだという。15Kgの重いかばんを持って走ったら、何とかシェラトンホテルで荷物を積みこんでいる空港シャトルバスに間に合った。
 シアトルからロスまで2時間半。飛行機の中でThinkPadを取り出し、この文章を書いている。下界は霧が立ちこめまったく見えない。上は雲。その間にレーニエ山(タコマ富士)が朝日に輝いている。早朝のせいか、ボ−イング727の乗客は10数名。スチュワーデスがコーヒーはどうだ、オレンジジュースをもう1パイさし上げましょうかと、暇なぶん世話をやいてくれる。
 ラスベガスのFlamingo Hiltonは日本人だらけ。特に北側のツアーロビーは日本人であふれている。業者経由でしかホテルが取れなかったため、部屋の鍵は4時にならないともらえない。2時過ぎに着いたため、2時間ほどロビーにいたが、10数人の知人に合ってしまった。皆ツアーで来ている。2時間で10組300人程度が通り過ぎていったが1組を除き、Comdexツアーであった。Flamingo Hiltonは2000室の巨大ホテルだが、2〜3割りを日本人が占める勢いだ。

11月16日(月)

 朝8時にホテルを出てメイン会場のラスベガスコンベンションセンターへ。
 情報収集が目的のため、プレスエントリーをしたので登録は無料。プレスキットをもらったが、それによると昨年の入場者数は132,545名、海外からの参加は19,000名、出展社数は11,356社とのこと。今年は各々135,000名、20,000名、11,800社の予定とのこと。ラスベガス在住の人はいないはずなので、13万5千人がホテルに泊まることになる。
 今年のキーノートスピーカーはBorlandのPhilippe Kahn。一昨年のBill Gatesはここで「Information at You Fingertips」と言う概念を発表した。昨年がIntel社のAndrew Glove、今年はどんなキーノートとなるのだろうか。
 登録を済ませ、重いガイドブックと昨年同様Folioの検索ソフト付の出展社一覧の5インチディスクをもらった。昨年、これが3.5インチでWindowsの検索ソフトに変わると予測したがそうはならなかった。来年こそは3.5になって欲しい。ノ−ト型で使えれば、会場内で活用されると思う。
 先ずはLas Vegas Hilton内の展示場から見て回ったが、昨年と比べあまり変わりばえがしない。主なブースを紹介する。

●Fractal Design
 昨年感動したFractal Design社のPainterもByte誌の表紙を飾って意気揚々、昨年2コマ程度の小さなブースが5倍程度に広がったが、新作のColor Studio、Sketcherはあまりパットしない。Aldus社やAdobe社と競合しないよう、商品の差別化は図っているが、モノクロのSketcherは地味である。Fractal Design社とイーストは製品企画が似ていて、イーストのペイントシミュレーションソフトVinceはPainterと似た技術を使っているし、Vinceの次で計画中のエッチングシミュレーションソフトがSketcherと符合する。作っているソフトウェア技術者の感覚が似ているのであろう。

●Adobe
 Comdexには初登場(と思う)である。ComdexはIBM PC系強い展示会であるが、いよいよAdobeも参加した。今までは、Macの世界の会社としてMac Worldにしか出展していなかった。
 社内にデザイナーを多数抱える会社らしく、カタログのデザインも一新され、格好いい。MacのQuickTime上で稼動するマルチメディアオーサリングツールPremiereや3DツールのDimensionが目についた。IllustratorやPhotoshop同様、「Adobeはプロが使えるソフトを提供します」という姿勢が出ていて好感が持てる。品揃えのためにいくつもソフト会社を買収し、マ−ケティングを重視し商社的になってしまうソフトハウスが多い中、技術力で勝負する一貫した姿勢が表われていた。QuickTime for WindowsおよびMicrosoft Video for Windowsサポ−トの意向表明も行われやる気充分と見受けられた。
 Super ATMも独自技術が光っている。フォントのWeight(太さ)、Width(幅)、Style(書体)、Size(大きさ)を調整可能なMultiple Master Technologyを使用し、アプリケーションの期待するフォントが無い場合に、自動的に作ってくれる仕組みが入っている。デバイス独立を漂傍?するあまり、結局デ−タ依存となってしまった現在のフォント環境に対する解決策を提示してくれた。

●IBM
 IBMはいくつかブースを持っていた。IBMから別れたIBM Personal Systems社はOEMで部品を提供しますと盛んに宣伝しており、「When You Think OEM Think IBM」と書かれたブルーのアタッシュケース型の紙袋を皆に配っている。OS/2の展示もそこそこにして、当面の売り上げを優先して部品供給で収益をあげる魂胆のようだ。DECなども部品を展示していたが、部品展示は日本メーカのやることで、米国の企業はコンセプトやシステムの展示が多かったが、なぜこの時期に米国の大メーカが部品を展示するのか理由がわからない。売り上げ優先策なのか、それとも米国の製造業もここまで立ち直ったことを示しているのであろうか。
 IBMのOS/2の展示は、コンベンションセンタ−北側の大きなミ−ティングル−ムを使ってアプリケ−ションソフトを50種類以上展示していた。規模的にはマイクロソフトブ−スのWindowsアプリケ−ション展示と同程度だが、LotusやBolrandの製品などWindowsと重複するソフトも多い。数年前に噂になった、OS/2とWindowsのブリッジソフト、Micrografx社のMirrorsも出ていた。

●DEC
 DECも部品を多数展示していたが、一角にWindows NTのコ−ナ−があり、あのAlphaチップ上でNTが動いていた。しかもAlphaチップのNTで、数本のアプリケ−ションベンダ−がソフトウェアを出展しているのには驚いた。高機能のフルカラ−グラフィックスソフトやDTPソフトなどが高速でスクロ−ルしている。

11月17日(火)

 アメリカに来ると、どうも食事が合わない。大きなステ−キを食べる気にはならないし、脂っこい食事に辟易している。海外に出るといつも安くて旨い中華料理店を捜しているが、ラスベガスには中華街もなく困っていた。今回、Flamingo Hiltonの離れのカジノ内に中華のファ−ストフ−ドの店を見つけたので、ワンタンを2日連続して食べた。
 海外に出張すると仕事とホテルの往復だけになり、食事くらいしか楽しみがなくなってしまう。高くて旨いのは当り前、$4.95のワンタンの旨いス−プは旅の疲れを癒してくれる。

●Lotus
 Lotus主催のInternational Luncheon(11月17日昼)に参加したので、その模様を含めて報告する。
 Lotusは昨年登場したキャッチフレーズ「Working Together」に、ついに「in Windows」が付いた。デスクトップアプリケーションである、123 for Windows、AmiPro、Freelanceに加えて、NeXTでデビューしたデータ解析に重点を置いた表型ソフト「Implov」がWindows版のラインアップに追加された。解析力、性能そして使い勝手を重点にして作ったとのこと。デモは行われなかったが、123のバ−ジョン2.0も発表された。
 第2の柱であるグループウェアアプリケーションとして、Notes、cc:Mailの拡販に力を入れている。デスクトップ系が従来の流通ルートからの販売で派手な広告合戦を展開しているのに対して、グループウェア系は大口ユーザへのロット販売が中心の為あまり目立たないが、着実に売れているようだ。cc:Mailは湾岸戦争でも標準採用れ、電子メールのトップシェアを持っている。
 この2つの柱を繋ぐ共通操作環境として、Smartシリーズのツール群が昨年にも増して強調されていた。SmartIcon、SmartHelpなどの操作環境ツールの整備を行い使い勝手の向上を目指す考えである。

11月18日(水)

 Comdex 3日目はBally's CasinoのマルチメディアとLVCC(ラスベガスコンベンションセンター)のマイクロソフトブースなどを見て回った。

●マルチメディア
 Bally'sのMultimedia Showcaseは昨年の倍以上の規模となった。Video for Windows 対応ソフトの脇にはそのパッケージが並び、スピーカからRockやJazzも流れて騒然としている。観客の入りも良く、Comdexの全会場の中でいちばん混雑している。
 Tandy、AmigaそしてWindowsのアクセラレータで名をはしたS3も個室に陣取っている。コンピュータの老舗であるIBMとDECもマルチメディアの波に乗ろうと、大きなブースを持ち、法人ユーザのニーズに沿った現実的なマルチメディアシステムを提案していた。特にIBMは、昨年から使い始めた「ultiMedia」のロゴの元、会場にメインフレームES/9000を持ち込み、AS/40、RS/6000、PS/2と結んで、エンタープライズマルチメディアなるクライアントサーバ型のデモを披露していた。
 ビデオカード、サウンドカードは山のように出展され、オーディオファンにはお馴染みのAltec Lansingからは、Multimediaスピーカまで登場した。Compaq DeskPro/iなど一部のパソコンしか標準サポートしていない、Windows3.1のオーディオ機能が、これで活用できることになる。サウンドボードをヒットさせたCreative Labや復活したAdLibは、Sand's Expoに大きなブースを構え、Creative Labは、ここBally'sにもSoundBlaster対応ソフトを集めたサードパーティーコーナーを設けていた。
 ソフトウェアではMultimedia ToolBookのAsymetrix社、Animation WorksのGold Disk社などの大手に混じって、無名の会社がMIDIやビデオのエディタやオーサリングツールをたくさん出している。マルチメディアのソフトはMM PlayerにRIFFを渡せばしゃべったり、動いたりしてくれるし、Video for Windowsの力を借りると、派手なプレゼンテーションソフト容易に作れてしまう。優秀な技術者が半年で作ったようなソフトもあり、そのうち淘汰されて、結局大手しか残らないと思う。

●Bolrand
 18日の昼に行われたBolrandのInternational Luncheonに参加した。軽いビールと昼食の後、Phillp Karnが登場。ステージにはサックスも置いてあったが、時間がなくて演奏は行われなかった。International Lunchのため、フランスから参加した人には母国語のフラフランス話していた。
 30分のスピーチでは、「オブジェクト指向という考え方がいかに優れているか」がテーマであったが、 「オブジェクト指向がなぜ優れているか」についての説明は行われなかった。オブジェクト指向の言語やDBの第一人者として旗振り役に徹している感があった。
 それに初日のキーノートスピーチで発表した「IDAPI」(Integrated Database Application Program Interface、アイダッピと読む)の説明が行われた。会場から「ODBC」(Open Data Base Connectivity)との差を質問されたが、「Appleはこっちだ」、「IBMもこっちを重視している」という以外に今のところ差がないらしい。Q+EのPioneer SoftwareがODBCからIDAPIへのブリッジソフトを作ると言っていた。OracelなどのサーバDBメーカはいずれものサポートを表明しており、Data Driver部は容易に作れるので、まずは模様眺めとなっている。Bolrand社は、C++のクラスライブラリを見ても分かるように、「やってから考える」傾向がある。一昨年のAshton Tate社の吸収でデータベースに本格参入した時点で「Object Database Layer」という考えを提唱していたので、IDAPIもSQLとうまく共存したオブジェクト指向のインタフェースに育っていくと思う。

●Microsoft
 Microsoftは相変わらず、いちばん良いロケ−ションに大きなブ−スを構えている。昨年同様の総花的な展示で、ここでMicrosoftの現在が全て把握出来る。
 OSは、Windows3.1と出荷したての Windows for Workgroups(WFW) そしてWindows NT。
 WFWはpeer to peer(サ−バなしの簡易LAN環境)を作るためのシステムでファイルやプリンタの共有、ワ−クグル−プDDE、電子メ−ル、スケジュ−ル管理などが可能となっている。
 NTはIntel x86版、mips R4000版に加えてDEC Alpha版も稼働している。マルチプロセッサ機能を使って、486 16個をつないだシステムも作られている。
 アプリケ−ションはマルチメディア系とデ−タベ−ス系に力が入っている。マルチメディアではVideo Brusterなど市販のビデオボ−ドとも統合可能で、単独でもウィンドウにデジタルビデオを表示する Video for Windows そしてMPC(マルチメディアパソコン)用の2つのCD-ROMタイトルが発表され、即、出荷された。Encartaはマルチメディア百科辞典で7時間分の音デ−タ、数千の画像、動画、地図、45ヶ国の言語が入って定価$319.99。Cinemaniaは映画、俳優の事典で定価$69.99。いづれも元となる出版物があるが、出版社ではなくMicrosoftがパッケ−ジ販売を行ったことが気になった。日本では岩波書店やぴあが手掛けている分野に、Microsoftが自ら乗り出している。MPCを軌道に乗せるための特別措置なのか、Bill Gateの事業意欲の現われで、この種の電子出版の市場にまでMicrosoftが手を出したと見るべきなのか、まだ判断できない。
 デ−タベ−スのフロントエンドとして前評判の高かった Access も出荷された。これと吸収したFoxProのWindows版で、出遅れたクライアントデータベース市場に参加することとなる。
 Visual BASICにも力を入れており、VB対応のツール類を集めた80頁ほどの小冊子まで作っている。Excel4.0のSDK(ソフトウェア開発キット)を書籍として出版したり、Wordのカスタマイズ方法を紹介したパンフレットを作るなど、従来のC言語ではなく、「ひとつ上位の」プログラム開発を提案している。数年後のWindows5.0あたりでは、ExcelやWordがWindowsに含まれ、共通のBasic風スクリプト言語で、ほとんどの業務プログラムが作れてしまうような予感がする。

●Apple
 QuickTime for Windowsが展示され、Windowsとの融合が昨年以上に強調されていた。このWindows版QuickTimeの展示は今回のComdexの大きなニュースであるが、これに対応したWindowsマルチメディアアプリケーションはまだ登場していない。来年にはMacのマルチメディアソフトが多数Windowsで出荷されることとなる。ハードウェアメーカAppleとしては不利を承知の出荷である。Video for Windows vs. QuickTime for Windows の戦いが始まった。

●堀だし物
 昨年はPainterのFractal Design社とFar SideのカレンダーをWindowsソフト化したAmazing Inc社などがおもしろかったが、今年はPIM(個人情報管理)系のソフトが多数出展され興味を持った。従来のスケジューラ型から、顧客管理や管理者用など、より業務ソフトに近い、使いやすそうなソフトが多い。
 Windows3.1の影響でサウンドソースもディスクやCD-ROMで売られはじめた。パソコンに音が入り、デジタルビデオも簡単に実現できるため、そのソースがこれから溢れることになりそうだ。

11月21日(土)

 旅の終わりはいつもサンフランシスコからBARTに乗って、バークレーへ。最近は年2回のペースでUCB(カリフォルニア大学バークレー校)の生協の書籍部とCody's Bookstoreに行っている。バークレー行きは超満員。今日はUCB対スタンフォード大学のフットボールの試合とのこと。皆バークレーかスタンフォードのロゴの入ったTシャツかスウェットシャツを着ている。大きな書店のコンピュータ関連書籍売場を3時間ほどかけて見て回った。買った本は次の通り。

EIFFEL The Language (Prentice Hall 1992) $34.00 600p
言語仕様がPublic Domainとなっている、オブジェクト指向言語の言語仕様書。DOS版など処理系も出ており、C++よりまじめなオブジェクト指向で、型付きSmall Talkのような新規言語である。オブジェクト好きのヨーロッパでは広まりつつある。
Systems Programming with Modula-3 (Prentice Hall 1991) $25.00 270p
Niklaus WirthがPascalの次に考案したModula-2を、DECとOlivettiの研究チームが改定したもの。並行処理のModula-2をオブジェクト指向化した言語で例外処理に特徴がある。社内の言語好き向けに買ってみた。
Excel Software Development Kit (Microsoft Press 1992) $49.95 w/Disk 500p
Excel4のAPIの使用方法、API仕様、Apple版Excel4のApple Events仕様、表データ、チャート、ワークブックのBIFF仕様、DDE使用方法、Excel4.iniファイル仕様などを説明。
Undocumented Windows (Addison Wesley 1992) $39.95 w/Disk 715p
話題のWindows隠しAPIなど、タイトル通りの内容。社内に数冊あるが、やはり現地で買うと安い。
Supercharging Windows (Sybex 1992) $49.95 w/Disk 1110p
Windowsの中級プログラマ向け解説書。この手の本は他にも多数出版されている。
PenPoint Programming (Addison Wesley 1992) $26.95 385p
PenPoint2冊目の解説書。半分近くがソースリストで、クロスワードパズルなどのプログラム作成を初心者向けに説明。
The Graphic File Toolkit (Addison Wesley 1992) $29.95 w/Disk 335p
Mac Paint, GEM/Halo IMG, PCC and PCX, TIFF, GIF, IFF/LBM, PC Paint/Picture PIC, Truevision Targa, Microsoft Paint MSP, Windows BMP, Halo CUT, WordPerfect WPG, EPSF, CorelDraw CDR, AutoCAD DXF, GEM, CGM, HPGL, Lotus PIC, Macintosh PICT, Windows Meta と盛り沢山のグラフィックフォーマットの概説書。概論とアプリケーションソフトへの読み込みの話題に終始しており、肝心のフォーマット仕様はほとんど説明されていない。
The Font Problem Solver (Business One Irwin 1992) $39.95 w/Disk 330p
PostScript, TrueType, ATM などフォントについての概説書。
The Unicode Standard Volume2 (Addison Wesley 1992) $29.95 441p
Unicode漢字(Han)部分の規定書。中国(GB)、日本(JIS)、韓国(KS)コードとの対応表付き。並びはJIS第2水準と同じ康煕字典順。Volume1の規定から若干アドレスが変更され4E00-9FFFの20,992文字となった。
それにしてもこの本の活字はひどい。つぶれて見えない文字もあり、漢字の規定書としての用をなさない。米国で勝手に決めるからこんなことになる。1990年に制定された補助漢字(JIS第3水準、x0212)は、日本規格協会から規定書が出されたが、その写研文字の美しさには比較のしようもない。決まったことには反論もむなしいので、日本の活字業界で20,000文字の全文字セットの美しい活字のコード表を作ってUnicodeコンソシアムにプレゼントできないだろうか。以前、大修館書店で大漢和辞典の全50,300字を載せたポスターがあったが、業界が団結すれば20,000字くらい何とでもなると思うのだが。

 夕方からサンフランシスコダウンタウンのパソコンショップへ買い物にいった。マーケットストリートのEgg Head と中華街の近くのSoftware ETC. である。Windows for Workgroups、Video for Windows なども店頭に並んでいる。気になったのがHPのDash Boardというシェルのようなソフト。Comdexでもこの製品単独のブースを構えており、広告費もふんだんに使っている。巨大ハードウェア企業HPがまじめにWindowsアプリケーションソフトの販売に手を出した感がある(New Waveが不まじめというわけではないが)。米国ではWindows GUIプラットフォームの普及によって、ソフトウェア市場が巨大化し、ベンチャーのソフト会社ではなくハードウェアメーカでも採算が取れる市場になりつつある。今後、多数の大手企業がWindowsアプリケーションに算入する前触れのように思えた。

11月22日(日)

●[IBM ThinkPad]
 この原稿は、日本IBMの最新型ノート型パソコン「PS/55note C52 486SLC」を使って書いた。重さ3.2kg、A4ジャストサイズで厚さは5.5cmある。ホテルでキーボードを叩いているときは重量感もあり、キーストロークも深くて非常に使い易いパソコンであった。
 キーボードの並びもなかなか良い。右端に[Ins]、[Del]などを配置したノート型パソコンが多い中、ちゃんと右端が[Enter]や[Back Space]となっているし、[変換]、[無変換]キーの大きさも手のサイズに合っている。
 問題は、以前からの日本IBMの日本語特殊キーの存在である。[カタカナひらがな]、[半角/全角]キーは不要だし、[英数]キーが[Caps Lock]と同一なのも違和感がある。[漢字]キーがワンタッチで押せないのも問題だ。日本語依存の特殊キーは東芝Dyna Bookのように、かな漢字変換のON/OFFを行う[漢字]キ−とカタカナ/英数の切り替えを行う[カナ]キ−だけで充分ではないだろうか。英語キ−ボ−ドにこの2キ−を追加しただけのシンプルな構造の方が、使い勝手が良いと思うのだが。ATOKが初めて採用した、変換は[Space]キ−、確定は[Enter]キ−というかな漢のキ−操作はもっと評価されてしかるべきである。
このパソコンの英語版、C700の広告を見て気付いたのだが、英語版キーボードの右端のEnterやBack Spaceキーがやけに長い。これは日本語など、各国語対応を考慮したデザインで、日本語版ではきちんとJIS配列がきれいに収まっている。DOS/V以降、IBMは「世界の中の日本」をまじめに考えてくれているようでうれしくなった。

Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]