旅の記録 1993年11月15日〜19日 Las Vegas
COMDEX Fall 1993


 世界最大のコンピュータショウである、秋のコムデックスは、11月15日(月)から19日(金)までの5日間、米国ネバダ州の砂漠の真ん中、ギャンブル公認の町ラスベガスで開催された。全世界から、コンピュータの関係者が一同に集いショウ展示、商談、プライベートショウ、コンファレンスなどメイン会場のラスベガス・コンベンション・センター(LVCC)、サンズ・エクスポ、そして巨大なホテル群で同時進行に行なわれた。
 一昨年がNetWare、昨年がWindowsの年とすれば、今年はPowerPCが人目を引いた。もっとも、昨年のWindows旋風に較べれば、かなり規模は小さいが。
 入場者も15万人の予測を軽く突破し、17万5千人と、ドイツの旧ハノーバ・メッセ「CeBit」を抜いて、史上最大規模の展示会となった。米国の景気はことコンピュータに関しては、確実に回復している。主催社のインタフェース・グループでは、来年は20万人と強気の予想を出した。
 ラスベガス自体も繁栄を持続している。トレジャー・アイランド(宝島)や、ピラミッドという大きなホテルが完成したし、映画産業大手のMGMは、テーマパーク付きの5009室という世界最大級のホテルを建設している。
 メインの展示以外にショウケースと銘打って、コンピュータ関連のいくつかの展示会が併設されているが、一昨年から始まったマルチメディア・ショウケースの伸びが著しい。毎年倍々ゲームで会場が広がり、今年はメイン会場内の南展示場すべて占めてしまった。本来なら、春のアトランタで開催されるコムデックスの「ウィンドウズ・ワールド」同様、「マルチメディア・ワールド」といった名称の別展示会を併設しなければならない規模となっている。しかし、インタフェース・グループさらに売り上げを伸ばすために、4月にロサンジェルス新しい展示会を開催する。名称はニューメディア・エクスポ。ケーブルテレビやゲームも取り込むつもりのようだ。
 各ブースを順に紹介する。

マイクロソフト
 一昨年以来、2つのブースを持っている。1つは、ISVを並べた会場入り口の、今年のコムデックス最大規模のブース、そして自社製品展示ブースである。
 ISVブースは、一昨年はIBMとマイクロソフトの共同展示ブースであった。手に手を取り合ってWindowsとOS/2を推進した、こんな時代もあったのである。昨年は同じスペースをマイクロソフト1社で賄い、今年は、昨年の倍のスペースを使いAt-Work、OLE2、Video for Windows、Solution Providerなどに色分けされたブースにISVがひしめきあって展示している。
 IBMも、ハードメーカとして展示している。PowerPC対応のWindows NTも稼働していた。
 自社製品ブースでは、Word 6.0、Excel 5.0、Power Point 4.0、そしてAccess 1.1、Mailまでも統合したマイクロソフトOffice 4.0を中心に展示していた。Office 4.0は、共通のメニュー、やツールバー、OLE2のサポート、Visual Basic for Applications(VBA)という共通コマンド言語のサポートなど、新世代の統合アプリケーション環境である。
 Windows NTも、多くのブースに置かれていた。インテルの486、Pentium、DECのAlpha、MIPS/NECの4400、そしてPowerPCと、設計コンセプト通り、RISC、CISCの様々なチップの上で見事に動いていた。

ロータス
 1-2-3のOS/2版やWindowsのマルチメディア対応版を出展していた。マルチメディア版はCD-ROMに1-2-3の使用方法、読み上げ機能、ScreenCam(動画の録画、録音機能)などが入っている。
 OS/2への傾倒も加速しており、1-2-3、AmiPro、Freelance、cc:Mailを入れたSmart SuiteのOS/2版もアナウンスされた。
 また、Freelanceは、コムデックスのオフィシャル・プレゼンテーション・ツールに認定され、併設のセミナーで使用されるとのこと。

ボーランド
 メインはBorland C++ 4.0。クラスライブラリであるObject Windowsも2.0にバージョンアップした。WindowsとWindows NTをサポートし16ビット、32ビット両方のアプリケーションの開発が行える。これで、Object WindowsがOS/2とMacをサポートすれば文句なしなのだが、今のところOS/2は別商品として発売しており、Macには全く興味を示していない。ノベルの分散オブジェクトApp Wareをサポートするとの事。App WareはOS/2のサポートを表明している。しかし、IBMには自社のオブジェクト管理であるSOMやDSOMが存在し、Open Docの方向に動いているので、そのうちSOMもクラスとして取り込むのであろう。
 社長のフィリップ・カーン主催の昼食会に参加したが、そこでは、サーバー、ミドルウェア、そしてクライアントと、クライアント・サーバー型の環境に合ったソフトウェアを提供すると話していた。サーバーは買収したInter Base、ミドルウエアはマイクロソフトのODBCに対抗したIDAPI、Object Exchange engineそしてクライアントは、Quattro Pro、Paradoxである。ダウン・サイジングではなく、オブジェクト指向ツールを使用してマルチメディアデータベースを構築するなど従来、強大なデータベースネットワークを構築するアップ・サイジングを強調していた。

ワードパーフェクト
 マイクロソフトのブースの側で、数百人が入る巨大なプレゼンテーションスペースを作り、製品紹介を行なっていた。さずが、ワープロのトップ企業で、黒山の人だかりである。
 今回、新たに、低価格の個人向けシリーズMain Streetを発表し、10種類ほどのソフトが出された。文法チェック、FAXツール、クリップ・アート、電子辞書、個人情報管理、カラオケと種々雑多である。OEM製品が多いので、今後どんどん品揃えを行なうものと思われる。

インターグラフ
 巨大グラフィックスカンパニーが、NTに乗ってパソコンの市場に参入してきた。
 UNIX版のCADや3Dで有名なインターグラフは、今、NTとアドバンストサーバ(NTAS)に傾倒している。自社ロゴ入りのWindows NTやNTASのカタログを配布し、すべてNTベースのグラフィックスアプリケーションを展示している。陸軍やNASAの仕事で成長した、お金持ちの会社はやることが違う。9月にはWindows系の雑誌に、12頁の広告を出していたし、この会場でもビジュアルなデモデータがたくさん入ったCD-ROMを配布していた。

グラフィックス・ソフトウェア
 2年前のコムデックスで見つけた、フラクタル・デザイン社のPainterが頑張っている。ブース規模が倍々に大きくなり、今年は、コンピュータ絵画をたくさん飾り、Painterを使った絵画教室を設けていた。コンピュータ絵画という新しい分野を切り開いたソフトウェアとして、Painterの功績は大きい。
 マックで有名なCanvasも、Windows版が昨年出荷され、好評である。グラフィックデザイナーの使用にも耐える高級な機能を持っている。
 DOS版で、大きな市場を持っていた、グラフィック・プレゼンテーションソフトHarvard GraphicsもWindows版の2.0が出荷され、見違えるほど良くなった。プレセンテーションソフトはマイクロソフトのPowerPoint、ロータスのFreelanceがWindowsでは有名だが、Harvard Graphics 2.0も機能の豊富さと使いやすさで人気が出ている。
 マックでお馴染み、Adobe社のPhotoShopやPainterのグラフィック・エフェクト・ソフトKai's Power ToolsもHSC社からWindows版が出展されていた。

スクリーン・セーバー
 アシメトリックス社がジュラシック・パークをやれば老舗のバークレー社はミッキーマウスやコミック漫画で対抗するなど、スクリーンセーバーも新製品が相次いで登場している。ターミネータ2のセーバーも出ていた。パソコンの空き時間を使ったスクリーン・セーバーはWindows 3.1で、インタフェースをマイクロソフトが提供したため、急速に出荷が伸びている。余暇産業のようなものだが、まだまだアイデアだ出そうな市場なので、当分、新製品ラッシュが続くであろう。
 それにしても、アメリカ人はミッキーマウスが大好きのようで、ミッキーの顔が大きくデザインされたカタログ袋を先を争ってもらっていた。

翻訳、日本語処理
 Bay Ware社が、Kanji Moments、Power JapaneseというWindowsベースの漢字や日本語の学習ソフトを出している。米国の有名な企業でも使われているようだが、プレゼンテーションを見ていて驚いてしまった。文章を実際に喋ってくれるのだが、いくつかの単語の発音が完全に大阪弁なのである。イーデス・ハンソンのようなアメリカ人がたくさん育ってしまうのは脅威である。
 PC Express社のTwin Bridgeも販売会社のブースで見掛けた。米国の1バイト系のWindowsと米国版のWord、Excelなどのアプリケーションで、日本語や中国語の処理を可能にするソフトウェアである。漢字フォントやかな漢字変換が入っており、米国では重宝されている。
 同種のWindows 2バイト化ソフトで、中国で大きなシェアを持つ「中文之星」Chinese Starも出ていた。
 Windows上で稼働する日本製の日米翻訳ソフトEZ Japanese Writerや、スペイン語、フランス語、ドイツ語と英語間の翻訳ソフトPower Translatorなど、従来Unixマシンが中心であった翻訳ソフトも、パソコンで稼働するものが増えてきている。
 ヨーロッパの1バイト系言語のほとんどが扱えるワープロも登場した。Accentは実に31ヶ国の言語が編集でき、その内13ヶ国についてはメニューやメッセージも切り替わるという、ECから感謝状がもらえそうなソフトである。ブースでは、各国からの来場者に対して、一人の説明員が数ヵ国語で説明を行なっていた。
 また、マイクロソフトのブースでは、Windows NT上でGamma社のUni Verseという、英語、ドイツ語、フランス語からアラビヤ語、日本語までをカバーした、世界ワープロが出展され、人目を引いていた。

技術者向けソフトウェア
 ソフトウェア開発ツールも大きな市場を持っており、Programmer's Pardise、The Programmer's Shopの2大流通業者が出展していた。両社とも、150頁以上の立派なカタログを配りC言語や、クラスライブラリ、開発ツールなどのソフトウェア数百種類を直販している。Programmer's Shopは、開発者向けに、マイクロソフト、ブルースカイなどの製品を収めたCD-ROMも、コムデックスで発表した。

クライアント・サーバー系の催し
 以下のように、クライアント・サーバー型のシステム開発や、データベース、ネットワーク系のコンファレンスや展示会が、目白押しに開催の予定である。メインフレームやミニコンが消えた事により、WindowsパソコンやUnixと絡んだものが目立って増えている。

Lotusphere '9312.5-9Orlando, FloridaLotus
Data Base World Conference & Exposition w/Client-Saver World12.8-10ChicagoDCI
Enterprise Application Development/ Executive Strategy Conference12.6San Jose(Fairmont Hotel)HP,SPG/ TI,Sybase,AndersenConsul.,Progress,Informix,ASK,NeXT,Oracle,SoftwareAG,Frame
12.14Boston(World Trade Center)
Executive Technology Summit '942.2-4Florida(Innsbruck Resort)SMI, Computer World/ Microsoft, Mozart, NCR, Price Waterhouse, Sun Soft, WANG
Network Expo' 94(8th Edition)2.15-17Boston(Hynes Convention Center)BLENHEIM
Group Ware '94 The Workgroup Solutions Conference2.27-3.2Boston(Hynes Convention Center & Sheraton Hotel)The Conference Group
8.8-11San Jose
Software World USA(CASE World, Objex, Application Development)2.27-3.3San Francisco(Moscone Convention Center)DCI
VBITS'94 Visual Basic "Insiders" Technical Summit2.28-3.2San Francisco(Hilton Hotel)Microsoft/FTP
Software Development & Business Software Solutions3.14-18San Jose(Convention Center)Software Development Conference & Show Group
Corporate Technical Recruiting Conference6.12-15DenverComputer World

情報・出版社
 大手のIDG、ジフ・デービス、PCマガジン、マグロウ・ヒル、中堅のミラー・フリーマン、ワイズなどが出ている。どこも最新号の雑誌を無料配布しているが、IDGやジフ・デービスは10種類以上の雑誌を出している。PCマガジンは、自慢のパソコン性能評価ソフトの入ったCDまで無償配布を行なっている。
 IDGは、「Computer World」の名称でクライアント・サーバ系ので展示会にも力を入れている。また、「Windows World Open」という業務アプリケーションのコンテストを開催するとの事である。これは、パッケージソフトではなく、自社のシステムとして、個別に開発されたWindowsベースのアプリケーション・ソフトウェアのコンテストで、5月のコムデックスに併設されるWindows Worldで、表彰式が行なわれ、ビル・ゲーツより、トロフィーが贈られる。

IBM
 分社化で、PowerPC系、ソフトウェア系、IBM PC系、マルチメディア系など、たくさんブースを出していた。毎年、イベントを行なっていたが、今年は3日連続でセミナーやパーティーを開催し、意気盛んである。
 エンタープライス・サーバーからオフコンのAS/400、UnixサーバーのRS/6000など、IBMはPC以外にたくさんの機種を持っているので展示も大がかりになり、マイクロソフトの次ぐ、大きなスペースを使っていた。
 OS/2の専門誌も3つ見掛けた。「OS/2マガジン」は開発者向けで、会期中にミラー・フリーマン社から創刊された。「OS/2 Professional」はエンドユーザ向けの雑誌である。
 5年前にIBMが作った、開発者向けの「OS/2ディベロッパー」もプログラムテクニックや技術動向が載っており、有用である。

アップル
 ブースの半分はNewtonに割いていた。Newtonのアプリケーションも多数展示されている。米国版「地球の歩き方」であるFodorsのガイドブックをソフト化したものまで出ている。旅先で、レストランや名所を検索するシステムである。
 会場で、すごい光景を目撃した。Newtonのアプリケーションを作成している会社の社長が、モトローラに勤める旧友に巡り会い、名刺を交換する段となって、お互いポケットから取り出したのがNewtonである。互いに、一瞬驚いた様子をみせたが、その後ニヤリと笑い、Newtonの赤外線通信を使った名刺交換を行なった。Send Receiveによる名刺の交換である。デジタル・コミュニケーションはラスベガスの気候のように乾いている。
 シャープのNewton OEM製品であるExpert Padもシャープ・ブースで展示されていた。
 パワーPC搭載のマシンも登場した。残念ながら筺体はテーブルの下に隠されていて見れなかったが、確かに高速にシステム7が動いていた。
 うわさのSoft PCもPowerPCでちゃんと動いていた。これは、英国のInsignia Solutions社が開発した、RISCチップ上で、インテルx86系の命令をソフトウェアでシミュレートするもので、しっかりWindowsが動いていた。マックの画面にWindowsのプログラム・マネージャーやファイル・マネージャーが表示され、マックのウィンドウと重なり合って動く様は、感動に値する。アイザック・アシモフの有名な「斬新な技術は、ほとんどマジックのように見える」という言葉を思い出した。

AT&T
 今年は、ブースをたくさんだしている。マイクロエレクトロニクス、電話、パーソナル・コミュニケータなどが点在していた。
 EOブースでは、パーソナルコミュニケータEO440を使った展示が行なわれ、サードパーティがブースを飾っている。また、既存の電話器に接続して使える、液晶画面「Phone Writer」も発表された。ペンベースで、PenPointオペレーティングシステムを使用し、FAXや電子メールの送受信が可能である。

テレビ電話
 C-Phone、Picture Telなどが出展し、企業の需要が高いために、人だかりしていた。C-Phoneは、画面の上部にマイクとカメラ付きの機器を設置し、カラー動画と音声を転送するシステムである。
 Picture Telは電話とマイク、カメラを一体化した機器を使っている。At-Workもサポートしており、一歩他社を引き離している。いずれもWindows画面で相手の動く顔を見ながら、コミュニケーションを取れる仕組みとなっている。まだ、動きがたどたどしいが、伝送速度の向上は目覚ましいので、数年でなめらかな映像となるのであろう。

PowerPC、モトローラ
 モトローラ自体は、移動体通信用の機器や、部品展示が中心であったが、PowerPCは、いろんなブースに出ていた。
 圧巻はコンベンション・センター前方のテント。IBMマイクロエレクトロニクス部隊の特設ブースである。コムデックスで発表した、低消費電力型のPower PC603を使った、Think Pad 750と同じサイズのノートパソコンまで展示されている。空には、PowerPCの吹き流しを付けたセスナが飛び、すごい力の入れ様である。

東芝
 東芝は毎年、ノートパソコンの新製品をコムデックスで発表しているが、今年はサブノート「Portege」が登場した。アップルのPowerBookをひと回り小さくしたような形で、重さは2Kgを切っている。省電力型の486/33MHz、メモリ4MB、ハードディスク120MB、PCMCIA、そしてVESAローカルバス接続のグラフィック・アクセラレータも付いている。キーボードのまん中に、IBMのThinkPadと同じポッチ(Track Point II)を採用し、キーボードの前に手置きとボタンが付いている。PowerBookのトラックボール方式の場合、ボタンを押しながらカーソルを動かす「ドラッグ」操作が、両方の親指を使うことになり、行い難かった。Portegeは、その問題を解決している。サブノートなので、3.5インチ・ディスク・ドライブは外付けである。新たに開発された、リチウム・イオン電池を使用し、カラー液晶でも最大6時間の寿命を誇っている。
 キーボードが奥にあるため、飛行機の機内でも使いやすい。ビジネスクラスならノートパソコンもゆったり使えるが、狭いエコノミーで、前の人が座席を倒すと、キーボードざ前面にあると使い難い。広告写真でもエコノミーの機内で、使っている写真が乗っていた。
 プレス資料の中に、発表文書のWord、WordPerfect、ASCIIの文書ディスクを入れるなど、細かな心使いをしてくれている。価格はモノクロが2,599ドル、カラーが3,999ドル。
 ノートパソコンには、一家言を持っているので、少々不満を言わせていていただく。先ず、キーボードが小さい。全体を小さくしたために、スタンダード・キーボードではなく、一回り小さなキーとなっている。これは使い難い。HPのOmni Bookのように、サブノートでもキーはスタンダードにして欲しかった。ノート型パソコンでは、軽量化は重要であるが、サイズはマン・マシン・インタフェースと密接に絡むので、小さくするのは問題であろう。キーボードがある以上、A4、レターサイズ、最小でもOmni BookのB5横長でよいと思う。
 画面サイズも、同様に不満である。カラー液晶で7.8インチは小さい。価格との兼ね合いと思うが、モノクロ同様8.4インチにして欲しかった。また、ハードディスクの容量も、倍の240は欲しい。MS-DOS6.0をバンドルしているので、DoubleSpaceによる、圧縮は可能だが、120MBは、やはり小さい。

NEC
 メインは今回発表したミップス社のRISCチップの改良版RV4400を使用したデスクトップおよびサーバパソコンである。デスクトップ機「Image RISC station」は、内部133MHz、外部66MHz、メモリ16MB、10ベース-T、SCSI-2が付いて、3,749ドルという安さである。OSはWindows NTが動いていた。サーバー機「Express RISC server」は内部150MHzである。
 CRTモニター「Multi Sync」でヒットを飛ばしたNECは、現在CD-ROMドライブ「Multi Spin」の販売に力を入れており、いよいよパソコン本体も、明らかに差別化した商品の販売を米国で行なうわけである。
 売れ筋の液晶パネルも、10.4インチで1024x768の高解像度のものが展示され人目を引いていた。カラー液晶パネルも、NEC、シャープ、東芝系のディスプレイ・テクノロジー社などの日本勢が完全に先行している。
 東芝といい、NECといい、昨年までは、モニターやハードディスク、液晶パネルなどの部品展示に留まっていたが、今年は斬新なパソコンそのものを前面に出した展示となっている。日本のメーカが、がんばっている姿を見るとうれしくなる。

ハードディスク
 MaxtorはPCMCIAの105MBディスクカードを出していた。Type IIIは厚さ10ミリ程度である。昨年、HPのキティー・ホークが話題となったが、これは40MBであった。ハードディスクの技術進歩もCPUに負けず劣らず、すばらしい。
 東芝も、12ミリの厚さで262MBのハードディスクドライブを出していた。

フェデラルエクスプレス、UPS、BOSE、サムソナイト
 コムデックスでのコンピュータの隆盛に刺激されて、異業種の有名企業も、大きなブースを出しはじめた。
 先ずは、フェデラル・エクスプレス。ジャンボ・ジェットを多数保有する物流の最大手企業である。本業の、宅配は、LVCC、サンズの2個所で受け付けていたが、その他、たくさんの協賛や展示を行なっていた。昨年から、FolioというDOS版の検索システムが会場の受け付けで配布され、テキストベースの会場検索が可能となったが、今年はこのスポンサーをフェデラルが務めている。起動すると、画面最下行にコマーシャルが表示される。また、海外からの見学者向けのサロンも提供し、コーヒーのサービスや、パソコンの無料開放など気前が良い。
 ブースでは、ディスクを配っていた。これは、パソコン通信を使って、フェデラルのコンピュータセンターにアクセスし、自分が出した荷物の現在の状況を検索するトラッキング・ソフトが入っている。そのほか、Shipping at Your Fingertipsと題する、送付用のバーコード・ラベルを出力するソフトウェアを展示していた。「自社の優れたコンピュータシステムの端末をエンドユーザに渡す」という、先端のシステム戦略を見せてくれた。
 フェデラルを大和急便とすると、日本通運にあたる、従業員28万人の巨大企業UPSも、コムデックスで、携帯端末やセルラーシステムの紹介を行なっていた。物流とセルラーなどの情報伝達は、今後競合していくことになるが、UPSは情報交換にも手を出している。
 スピーカーのボーズ社もブースを出していた。昨年、同じスピーカメーカーのアルテック社がマルチメディアパソコン用のステレオ・スピーカを出展し、各社のブースで使われているのが目に付いた。アップルも自社ブランドで、スピーカを出したし、マルチメディアの勢いに、オーディオ・メーカーも便乗している。
 サムソナイトは、御存知、カバンのトップ企業。ノートパソコンが入るアッタシュケースを数十種類も並べていた。

マルチメディア系の雑誌
 マルチメディア・ワールド(1993年12月創刊、月刊、PC World)これにはCD-ROMが付録に付いている、デスクトップ・ビデオ・ワールド(1993年1月創刊、隔月刊、IDG)、ニュー・メディア(1991年1月創刊、月刊、HIC)など、4、5年前のDTP雑誌以上に出されている。ドクター・ドブスもマルチメディア特集号を出し、技術力にものを言わせて、モーフィングのテクニックや、デジタル・ビデオのファイル形式を紹介していた。

各国のブース
 世界の国や地方からの共同ブースも多数出ている。カナダ、香港、シンガポール、インド、神奈川県、ドイツのBavaria地方など、世界中から集まっている。海外からの来場者も105ヶ国、25000人とアナウンスされた。

コムデックスTV
 今年から、会期中、各ホテルのテレビでコムデックスの会場紹介や、出展企業のコマーシャルが見られるようになった。砂漠のまん中、ラスベガス在住のコンピュータ関係者はいないと思われるので、参加者17万5千人すべてがホテル住まいをしているので、宣伝効果は大きい。
 面白かったのは、IBMマイクロエレクトロニクス社のマルチメディアパソコンのコマーシャルフィルム。パソコンの電源を入れると、映画ポルターガイストよろしく、パソコンの画面が光を発し、電話、SONYのCDプレーヤー、ファックスそしてモデムを飲み込んでしまい、机の上にパソコンだけが残ってスッキリ、というものである。多民族国家アメリカでは、シンプルに訴えたいことを伝えるコマーシャルばかりである。4WDの宣伝はどれも、山道を大きな車が登っているし、食料品の宣伝はパッケージ写真と出来上がりの写真と相場が決まっている。このコマーシャルもストレートでよろしい。

コムデックス・グッズ
 ボールペン、バッジ、メモ帳、靴みがき、笛、デモディスク、プロモーションビデオ、CD-ROM、紙バッグ、布製の高級バック、Tシャツ、帽子、キャンディ、チョコレート、クッキーなどのグッズが集客のために、ブースに置いてある。Tシャツの前と後ろに、生地が見えないほどバッジを付けて歩いている、バッジおじさんを見掛けた。

集客イベント
 卓球、ローラーゲーム、ブルースハープのライブ演奏、手品、輪投げ、アカペラ4人組のコンサート、巨大スロットマシンでの商品プレゼント、1ドル札のつかみ取りゲームなど、ラスベガスらしい趣向を凝らしたアトラクションやゲームを行なっているブースもあった。

交通事情
 あまり良くない。ホテルからのシャトルバス本数が少なく、帰りなど1時間も待つことがある。IBMなどは招待客向けのシャトルを運航しており、マイクロソフトなど一部の出展社では、社員向けシャトルバスを用意している。記者専用のシャトル・バスもネットワークのDCA社がスポンサーになって走っていた。リムジンバスで、乗車すると直ぐに宴会が始まるという、酒飲みの記者にはもって来いの優れ物である。

ホテル事情
 ラスベガスでは、フラミンゴ・ヒルトンに3回、ベガス・ワールド、スーパー8に各1回宿泊したが、どこもビジネス客を受け入れる体制は全くできていない。客はギャンブルに来るものと相場が決まっているので、FAXの受信など半日かかってしまった。日本からは、送信の電話連絡が入り、フロントに問い合わせても、「ここには無い」という。確かに、宿泊客3000名以上の巨大ホテルのため、組織が複雑で、FAXの受信からフロントにとどくまでに、経路があるらしい。ホテルによっては、受信直後に部屋まで持って来てくれるのに。
 入手した資料の日本への送付も容易ではない。ホテルには、コンセルジュと呼ばれる、客の雑用を引き受けてくれる係がいるのだが、それも見あたらない。コムデックスの会場には、フェデラル・エクスプレスのカウンターがあり、資料は送れるのだが、一端ホテルに戻って、資料を整理し、このようにレポートを作った後、やおら送付しようとすると、面倒なことになってしまう。
 宿泊料金も期間中だけ値上がりする。フラミンゴ・ヒルトンの場合、私の泊まった部屋の料金が、定価で200ドル。普通は、半額程度に値引きしたツアーがたくさん組まれているので、100ドルでも泊まれる。主催者のインタフェースグループに申し込むと、これが先ず定価になってしまう。しかも、ヒルトンは場所が良いので、早期に申し込まないとすぐに売り切れてしまう。主催者への予約金の送金もたいへんだ。ホテルも書入れ時のため、クレジット・カードでの支払いを受け付けてくれない。小切手を一週間以内に送金しろと言う。日本からの小切手の送金は、非常に面倒である。
 日本のツアーに参加すれば良いのだが、自由が効かない。ツアーのホテルだけを分けてもらうと、200ドルが300ドルに跳ね上がってしまう。
 安く行く方法を2つご紹介しよう。ひとつは、一般のラスベガスツアーに紛れ込む方法である。20万円以下で、5、6泊の西海岸のツアーがたくさん組まれているが、これに便乗してしまうのである。某出版社の女性編集長ご一行など、この手を使って、ヒルトンに泊まって、航空運賃も込みで18万円で上がったとの事。
 もうひとつは、4、5日目からラスベガスに入る方法である。交渉次第では、非常に安い値段でホテルが確保できる。ただし最終日の5日目など、展示自体をサボッてしまうブースも目に付き、淋しいかもしれないが。

技術資料
 会場内では、技術資料と呼べるものは、数点しか入手できなかった。
 ワードパーフェクトのブースで「Open Doc」の仕様書を手に入れた。アップルのホワイト・ペーパーではなく、仕様が記載されている紙である。アップルのブースでは、「Apple Script」のホワイト・ペーパーを入手した。最近、アップルは「MacではなくAppleだ」と言い始めており、コア・テクノロジーはすべてWindows版を出す意向である。QuickTime同様、すぐにApple Script for Windowsが出るのであろう。
 コムデックスの帰りは、いつもサンフランシスコで一服してから、帰国している。今年は、仕事もあり、モンタレーとサンフランシスコで3泊ほどした。パソコン関係の本は、車があれば、郊外の大型パソコンショップFly'sやスタンフォードの生協に行って買えばよいのだが、あいにく車の運転が行えない。毎年、BARTに乗って、バークレイに行っている。カリフォルニ大学バークレイ校の生協とテレグラフ通りのCody's Booksが、結構揃っている。次の6冊を購入した
・Inside Visual C++(Kruglinsky MS Press 600p)
 Visual C++の説明書で、App Studio、MFC2、Class Wizard、AppWizardなどについて解説されている。Secrets、Inside、 フロッピイ付き
・Windows Gizmos(B.Livingston IDG 586p)
 ディスク4枚に、8MBのShare Ware/ Free Wareが入り、その解説を行なっている
・Inside Windows File Formats(Tom Swan SAMS 340p)
 Windowsの各ファイルフォーマット(BMP,ICO,CUR,FNT,WMF,CAL,CRD,CLP,WRI,GRP, PIF,EXE)の解説と、アクセスを行なうサンプルソースが付いている。
・Bitmap Graphics Programming In C++(MaruLuse Addison Wesley 700p)
 ビットマップグラフィックスの各種ファイル(BMP,EPS,GIF,IMG,MSP,PCX,PNTG,RAS,TGA, TIFF,WRG,XBM)の簡単な説明と、
・Windows Internals(Matt Pietrek Addison Wesley 525p)
 ローディング、メモリ管理、Modules/Tasks、ウィンドウシステム、GDI、スケジューラ、メッセージ、DLL
・Excel Software Development Kit(MS Press 500p)
 Excel API, Apple Event, BIFF, DDE, INI
 このほか、マイコロソフト・プレスからは、Word、Windows NTなど技術書がたくさん出ている。

Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]