旅の記録 1994年5月 香港
Microsoft Tech Ed Asia 1994


 マイクロソフト社が主催する、企業ユーザおよびシステム・インテグレータ向けのWindows技術コンファレンス、Tech・Ed(テック・エド)のアジア地区大会が、5月11日(水)から13日(金)まで、香港の香港島中央部、湾仔(Wanchai)にある、香港会議展覧中心(HongKong Convention & Exhibition Center)で開催された。
 Tech・Edは、1993年に第1回が米国で開催され、3000人以上が参加した。 ソリューション系の技術者を対象にしており、参加者の半数は企業ユーザのシステム部門で、その他コンピュータ・コンサルタント、コンピュータ・メーカー、ソフトハウスなどもマイクロソフト製品の最新技術情報を得るべく集まった。
 第2回の今年は、米国、欧州、豪州、アジアの世界4ブロックで開催された。 米国では3月28日から31日まで、ルイジアナ州のニューオリンズで開かれ、携帯端末用のOSである、WindowsのサブセットWinPadが紹介され話題となった。 以降、4月19日から21日が英国南部のボーンマス、5月9日から11日がオーストラリアのシドニーで開催された。
 アジア地区は、当初、香港のみで開催の予定であったが、急拠、5月13日、14日の両日、北京でも開催されることとなった。 最近、マイクロソフトは中国大陸への進出に積極的である。
 参加費は、995米ドル、約10万円。 早期申し込みは795ドル。 日本のマイクロソフト社が、この参加費込みで18万7千円という破格のツアーを募集したため、日本から70名ほどが参加した。 参加者は約500人。 やはり地元香港の人が多い。 台湾、韓国、シンガポールからの参加者は合計100名程度と思われる。
 会場の香港会議展覧中心は、1989年に作られた湾仔を代表する建物で、幕張メッセの2ホールほどを上に積み上げたような構造で、Tech・Edは、その2階の全フロアーを借り切って行なわれた。 上の階では、Computer'94という、コンピュータ関係の展示会や、自由港らしいDuty Free Expoなるものも開催されていた。 海側が巨大な一枚のガラス窓となっており、九龍半島側が狭い海峡をへだてて一望できる。

併設コーナー
 Tech・Ed Asiaは、セミナーを主体とし、ハンズ・オン・コーナー、マイクロソフトへの質問コーナー、サーティファイド・プロフェッショナル試験コーナー、マイクロソフト・プレスの書籍コーナー、ノベルティー・コーナーなどが併設されている。
 ハンズ・オンは、マイクロソフトの最新のソフトウェアを実際に操作できる。 約20台のパソコンがネットワークで結ばれており、日本語版のExcel、Wordや、韓国、中国、台湾など、各国のWindowsを実際に使うことができ、マイクロソフトの社員が質問にも答えてくれる。
 質問コーナーは、Access、WindowsNTなどマイクロソフト製品の技術的な質問に、時間を分けての、直接、マイクロソフトの担当者が回答してくれる。 
 試験コーナーは、英語および日本語でのWindows3.1、WindowsNTなどの技術者認定試験が半額以下の425HK$(約7000円)で受験できる。 会場内での試験に合格すると、ビル・ゲイツのサインが入った認定証がもらえるとのこと。 このサイン欲しさに受験する技術者も多いであろう。
 マイクロソフト・プレスのコーナーでは、英語の書籍がディスカウント価格で販売されている。 中国語、ハングル、日本語、タイ語の書籍も非売品として展示してあった。 中国では、国立大学が活発なビジネス、つまり営利活動を行っており、マイクロソフト・プレスの書籍類を北京随一の工科系大学、清華大学が一手に扱っている。

セミナー
 セミナーは50コースほどあり、マイクロソフトの社員による英語での技術解説と、ソリューション・プロバイダー企業による、事例紹介が行なわれた。 私を含め、6人が日本語でのプレゼンテーションを行い、ハングルや広東語による解説もあり、まさにアジアを感じさせる内容であった。 15コースほどの事例紹介では、アジア各国でのソリューション開発の事例や、シングルバイトの米国製Windowsソフトの漢字(ダブルバイト)化、日本語WindowsNTなどが紹介された。

キーノート
 開口一番は、マイクロソフトのナンバー4、ロジャー・ハイネンによる、開発ツールとデータベースの説明である。 最近マイクロソフトは、ビル・ゲイツ、スティーブ・バルマー、マイク・メープルスの3人以外に、ロジャー・ハイネン、OSを統括するポール・マリッツ、ソリューション担当のロバート・マクドウェル、デジタル・オフィス(Microsoft AtWork)担当のカレン・ハーグローブ女史などが、マスコミに顔を売っている。
 香港には、ハイネン、ハーグローブ、マクドウェルが顔を揃え、初日、二日目、三日目の最初の全体セミナーを担当した。
 ロジャー・ハイネンはDEC、アップルを経由してマイクロソフトに昨年1月に入社した人だが、21年の技術歴を持ち、アップルではソフトウェア開発の責任者で、上級副社長の要職にあった。 マイクロソフトでもAccess、FoxProからODBC、SQLサーバー、VisualBasic、VisualC++まで、広範なツール系を担当している。 マイクロソフトは、従来のOS系、アプリケーション系以外に、このソリューション・ツール系に力を入れている。 スピーチでも、米国ニールセン社やマイクロソフト社内アプリケーションなど、VisualC++、Access、SQLサーバーを駆使した開発事例を紹介した。 VisualBasicでのプロトタイプ開発、OLEオートメーションはこんなに便利、VBAによるAccessとWordの結合などマイクロソフトのおすすめツールで、アプリケーションの開発はこんなに簡単で、こんなに高機能になり、次のOSへもスムーズに移行できますと宣伝していた。
 ハーグローブは、落ち着いた紳士のハイネンとは異なり、攻撃的である。 AtWorkというデジタル・オフィスの基幹技術を担当し、日本を中心に採用する企業を増えているので、強気である。 持ち時間を30分もオーバーして、プリンタ、コピー、FAX、電話からモービル・コンピューティングまで、AtWorkの幅広い守備範囲を披露してくれた。 特に、最近NECが発表した「Windowsプリンタ」であるWPS(Windows Printing System)はAtWorkのさきがけとして注目されている。

Access2.0の船出
 4月に米国で発表され出荷されたばかりの、Access2.0について、90分の特別枠をとって解説が行なわれた。 VC++でおなじみのウィザード機能、検索や抽出をグラフィカルに行なうGQBE、データベースの命であるアクセス速度の高速化、フォームやレポートの自動作成、などの機能や概念が追加されている。 最近出荷されたPowerPoint4.0同様、マニュアルを減らし、ウィザードやヘルプを強化する傾向にある。 マニュアルの、コマンドごとの解説を行なうリファレンス部分はヘルプへ移行し、一連の流れを説明するユーザーズ部分はウィザードやキューカードと呼ばれる個別の操作ごとに画面に表示されるガイダンスにかわっている。 これだけ機能が豊富になると、ユーザがまず何を行ないたいかを宣言し、アプリケーション側がその手順をガイドするナビゲータ機能がどうしても必要になってくる。 Access2.0のいちばん強化はそのあたりであろう。
 ツールバーやリボンのデザインもやっとWord、Excelと同じになった。 Excel5.0、Word6.0、PowerPoint4.0と順に行なわれた、操作方法やマクロ言語、ウィザード機能などの標準化もこのAccess2.0で一巡した。 マイクロソフトのOffice構想も、第一段階が完成したようである。
 セミナー終了後、出口でAccess2.0が参加者全員に配られた。

Computer'94
 会場の上のフロアーで開催されていた、Computer'94という展示会ものぞいてみた。 今年が10回目の国際展示会である。 幕張メッセーの1ホールほどの会場に、Acer、Mitacなどの台湾系、NEC、Canonなどの日本勢、クリエーティブ・ラボ(サウンド・ブラスター)などシンガポール系、そして北京からも5社が出展していた。 アジアの展示会といっても、漢字で書かれた看板やカタログはほとんど見られない。 クリエーティブ社などは、全く米国の会社のような顔をしている。 ダイナラボ、イーテンなどのフォントやFEP系の会社が漢字をデザインのような扱いで展示していた。

 「アジア」とひとことでくくっても、中身はバラバラ。 中国系、日本、韓国、インドネシア系、タイなどこまかく分類しないと把握がむつかしい。 中国系は台湾、シンガポール、香港そして中華人民共和国である。 日本は独自の言語と文化を持っているし、韓国もハングルそして自国の文化を守る政策をつらぬいている。 大平洋を隔てたシアトルから見ると、ファーイーストであるアジアも、実は様々な顔を持っている。 Tech・Ed Asiaも次回からは、それぞれの顔に合わせた運営が必要になるであろう。
 香港は1997年の中国返還が迫り、今、建築ラッシュ。 塔柵師と呼ばれる鳶職人が、独特の竹の足場で地上100メートルのコンクリートのビルをどんどん建てている。 このような東洋と西洋の文化の融合がパーソナルコンピュータの世界にも欲しいのだが、なかなか解が見いだせない。  自由世界の権化であるここ香港では、スターTVが24時間、空から英語を降り注いでいる。 韓国は、日本のひらがなにあたるハングル偏重の教育を改め、漢字教育を強めている。
 香港島の新しいビル群は2階が長い回廊で結ばれ、まるで火星のコロニーのようだ。 情報の回廊で結ばれた20年後、30年後の世界では、漢字が消滅しているかもしれない。

Tech・Ed Asia'94 セミナー
セミナーの概要コースの数
アプリケーション系
  Microsoft Access2
  Microsoft Excel1
  Microsoft FoxPro2
  Microsoft Word1
  Microsoft Mail2
言語、データベース系
  Micorosoft SQL Server1
  Visual Basic for Applications1
  Visual Basic2
  Visual C++1
OS系
  WindowsNT6
  Windows7
  WFW1
アジアの事例紹介
  Far EAST Track15

Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]