電子書籍ケーススタディ 4
 PDFかXMLか
イースト株式会社 下川 和男

 最近、出版社からPDFやXMLの制作依頼が、たくさん寄せられている。PDFとXMLでは、デジタルデータとしての位置付けも、用途も全く異なるものであるが、両者共に「電子書籍」のデータフォーマットとしての利用が始まっている。

XMLデータの作り方
 XMLデータを作る場合、まずスキーマおよびDTDを決めなければならない。その書籍の構造にあわせたスキーマが必要となるが、文庫、新書などテキスト主体の書籍の場合は、日本電子出版協会が策定したJepaXがそのまま使える。辞書系の場合は、イーストで策定中のDicXも参考にしていただきたい。
 特殊な事典や複雑な構造を持った書籍の場合は、そのシリーズごとにスキーマを設計する事になるが、最近、この設計依頼が増えている。スキーマ言語であるDTDを使った書籍の仕様書、DTD、簡易スタイルシート(XSL)をセットにして納品している。
 スキーマ言語は、DTD以外にRELAXXML Schemaなどがあるが、SGML時代からの慣れや処理系の問題でDTDが多く使われている。
 DTDを作った後は、いよいよXMLへの変換作業となるが、出版社からの提供形態は「書籍」、「CTSデータ」、「DTPファイル」の三通りがあり、それらを自動タグ付けツール、手動タグ付け作業などを行い、XML化している。



なぜXML化するのか?
 紙の本を、なぜ、XML化するかといえば、ワンソース・マルチユースを行うためである。図1「XML」の通り、XMLには、XSLTという強力な変換機能があり、各種のフォーマットに変換して、ホームページや電子書籍、eLearning、ドキュメント検索などが可能になる。eLearningは第一回でご紹介したNetLearning社などのインターネットを使った教育であり、ドキュメント検索は第二回でご紹介した三省堂.netのようなXML検索サービスである。
 話題のMicrosoft Readerのような電子書籍も、XMLから米国の標準電子書籍フォーマットであるOpen eBook Publication StructureにXSLで変換し、マイクロソフト社が提供しているReader SDK(Software Development Kit)を使って、litファイル(Reader用の書籍データ)への変換が可能である。
 XMLでデータを保管しておけば、改訂や体裁の変更が簡単に行えるのだが、XMLの編集ツールがまだ、整備されていないので、辞書などの大量データや複雑な構造の書籍の場合は、修正に手間がかかる。夏ごろ出荷予定のMicrosoft Office XPでも、データベース系のExcelやAccessでは、XMLファイルの読み書きが可能となったが、WordでのXMLの読み書きは、その次のバージョンを待たなければならない。
XMLから電子出版、インターネット出版への道はたくさん開かれているが、XMLから紙への印刷は、まだデコボコ道である。XMLは、本来ドキュメントの論理構造を取り扱うものなので、細かな体裁の指定には向いていない。スタイルはXSLの担当となっているが、DTPソフトのような細かな指定は行えない。XMLデータをDTPソフトに流し込む際にも、多少の手間がかかる。Quark XPressの場合、avenue.quarkを使って、XMLでの取り出しは頁単位で可能であるが、XMLの読み込みは現行バージョンではサポートされていない。



PDFならすぐにビジネス
 読書ソフトAdobe Acrobat eBook Readerや電子書籍販売サーバAdobe Contents Serverの発表があったためか、PDFファイルの制作依頼も増加している。PDFは、図2「PDF」の通り、DTPで作られた書籍の場合は、ボタンを押すだけで、いとも簡単に作ることができる。しかし、画面表示用の画像調整、MacとWindowsのフォントの差異、外字の作成と設定など、電子書籍として製品化するには、出版社では手の負えない作業も多い。
 PDFだと、話題のオンデマンド出版にもシームレスに対応できるし、Webでの公開も容易であるが、XMLのような汎用性、拡張性はない。
 また、PDFから電子書籍を作る場合、画面サイズや解像度の問題で、二頁表示を行うには、40字×20行程度となってしまう。新書判や文庫判ならまだしも、二段組の大判の書籍は、再編集が必要となる。しかし、読書端末のハードウェアテクノロジーは飛躍的に進歩しているので、数年後にはA4判の液晶画面が登場するので、それを待つので得策である。


 ということで、すぐに電子出版ビジネスを立ち上げるならPDFをおすすめするし、将来もそのデータを有効利用するならXML化を検討していただきたい。

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Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]