電子書籍ケーススタディ 9
 コミックを読む 10daysbook.com 
イースト株式会社 下川 和男

 この事例紹介では、辞書をWebで引いたり(事例2:三省堂 e辞林)、参考書をWebで読んだり(事例1、NetLearning)などをご紹介したが、今月と来月の二回で、「コミックを読む」、「一般書を読む」とい真打ちを登場させたい。

 イーストが開発を担当した、イーブック イニシアテティブ ジャパン社のオンライン書店「10daysbook.com」をご紹介する。会社名とドメイン名が異なっていて、ちょっと紛らわしいが、EBIは出版社、10daysbookはオンライン書店という住み分けである。ドメイン名の通り、将来的には10日間で消えてしまう図書館や雑誌のような電子書籍を標榜している。

イーブック イニシアティブ ジャパン(EBI)社とは
 社長の鈴木雄介さんからこの社名を聞いたとき、「長い社名だな」という印象とともに頭に浮かんだのは、日本初のプロバイダーIIJ社であった。IIJはインターネット イニシアティブ ジャパンの略で、まさに、日本のインターネットを主導してきた会社だが、EBIも日本の電子出版を主導することを目的としている。

 設立は2000年5月で、設立まもない会社にうかがった際に、メーカーの担当者が「えび様、えび様」と言っているので、えびの養殖事業でもはじめるのかと思ったら、EBIをエビと呼んでいたのである。

 鈴木さんは1998年10月、通産省(当時)の実証実験である「電子書籍コンソーシアム」を推進された方で、実証実験の終了とともに、小学館をスピンアウトして、EBIを設立された。電子書籍コンソーシアムの成果である、書籍の画像データやパソコン・ビュアーを使って、コミックを中心とした電子書籍のダウンロード販売ビジネスを開始された。

 電子書籍コンソーシアムは、今考えると、出版、印刷、取次、書店、電気メーカーそして通信業者までを巻き込んだ、壮大な電子書籍の実験場として大きな意義があったと思う。私も、相当な意気込みで参加したが、データ形式が「コミックや外字を考慮して」画像と決まった時点で、力が抜けてしまった。コミックはまだしも、外字を含んだテキストでのソリューションを自分で作ってみようと思い、「JepaX」を策定した。同じように、文庫系出版社の共同オンライン書店「文庫パブリ」も路線の違いから独自のサイトが立ち上がった。つまり、JepaX、パブリ、EBIの三プロジェクトが、電子書籍コンソーシアムに関連して誕生したことになる。

10daybook.comサイトの開発
 事業の概要を知り、「これはイーストの出番があるな」と感じたので、依頼もされていないのに勝手に見積書を作って、「いつまでに、どのくらいの予算で、どのようなサーバ・システムを構築するか」を昨年6月7日に提案した。それが、6月13日のEBI取締役会で承認され、6月中に開発に着手し、9月末には稼動させた。事例6「辞書に書く、ICD病名検索・登録システム」は、開発期間6ヶ月であったが、こちらは、たったの3ヶ月で動かした。つまり、会社の設立から4ヵ月後にはEBI社は事業を開始したわけである。

 仕事がら、周囲に多数のベンチャービジネスや企業内ベンチャーがあり、その中には、設立後1年も経つのに事業が開始できない会社や、3年たってもビジネスモデルが完成せず、収益が上がらずに消滅する会社もある。しかし、イーストがサーバ・システムの構築を担当するベンチャー事業は、事例1のNetLearningが5ヶ月、事例2の三省堂 e辞林が4ヶ月と短期間である。

 10daysbookが、それにもまして短期間に開発できた理由は二つある。第一にCIO、第二にサイト・サーバである。

 CIOとは、CEOと同じような呼び方で、技術の最高責任者という意味だが、これが不在の客先ばかりで、大変に困っている。誰からもチェックされず、勝手にシステムを構築できる心地よさよりも、作ったシステムが理解してもらえず、開発終了後、保守や改造時に誤解が生じる場合がある。EBIには経験豊富な技術担当取締役が存在し、必ず基本仕様書が提示され、詳細仕様までイーストの担当者と議論しながら策定したので、しっかりしたシステムを早期に開発することができた。

 サイト・サーバ(Site Server)とは、マイクロソフト社のサーバ製品名だが、イーストでは決済を含むサーバ・システムは、1998年からすべてこれを使っているため、いとも簡単に、高級な決済処理やユーザ管理、商品管理を含むコマース・システムの開発が行える。サイト・サーバはオンライン・ショップの処理が14種類のステージ(階層)としてパターン化されており、各ステージの前後に、そのショップ固有の処理を追加するだけで、システムが構築できる。このサイト・サーバ自体、Active Server Pagesというスクリプト言語で記述されており、このシステムの内部の変更や流用も可能である。

 どのシステムも二人から三人での開発なので、開発費は1000万円前後と手軽である。サーバの運営も代行することが多いが、サーバのハードウェア、基本ソフト、データベースの代金から回線代やバックアップなどの作業費も含めて、毎月30から70万円程度である。

 左図のようなサーバ構成だが、全体で4台のサーバを使っている。一冊20メガバイト以上もあるコミックのダウンロード用サーバが大手町の太い回線に繋がっているのを除いて、ホームページや決済、顧客管理などのサーバは、新宿に設置してイーストが管理している。このうち、ポイントとなるのがDRMサーバで、コミック電子書籍の著作権管理を行い、他のパソコンにコピーしても本が読めない仕組みを提供している。この仕組みは、コミック本の配信とは別フェーズで動くので、事前に数頁の立ち読みが可能なコミック本をDVDなどで提供し、後から、DRMの鍵だけ購入するという「超流通」もサポートしている。

 決済は、主なクレジットカード、WebMoneyBitCashというプリペイドカード、カルレという電話料金での代行決済、Biglobe@Niftyなどのプロバイダー系の決済もサポートしている。コミック本の読書という、小額で不特定なユーザを相手にしているため、決済手段が多いのも10daysbookの特徴である。

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Kazuo Shimokawa [EAST Co., Ltd.]