旅の記録 COMDEX Fall '98 1998.11.18
 eBook & ClearType

 以下は、eBookを見た直後の18日深夜にHTMLを作成し、電子出版関連の一部の方に公開したページを、加筆、訂正したものです。このURLは、一般に公開しています。ご意見、間違いのご指摘などは、shimokawa@est.co.jpまで、お願いします。


Bill Gatesの基調講演

 COMDEX開催前日の15日19:00より行われた、キーノートスピーチの中で、Bill Gatesは、全体の1/5程度の時間を割いて、ClearTypeとeBookについて解説した。プレスリリース資料も、その1/3がClearType関連である。
 COMDEXの場でこれほど力を入れて説明した理由は、以下のように推察している。
 1. Windows 2000、Office 2000は発表済みで、他に適当なネタが無い。
 2. 最近、Microsoft社はResearch部門を強化しており、ClearTypeはその成果物である。
 3. Site ServerやExchange Serverなど、BackOffice系の難しい話題に比べ、身近で分かり易い。

 スピーチの中では、一時期「パーソナル・コンピュータ」の指標となったAlan Keyの「DynaBook」という言葉も出てきた。また、電子出版の歴史を示す画面には、SONY Data Diskman(いわゆる電子ブックプレイヤー)なども登場した。
 On Screen、On Paperという言葉を使い、On Paperのメディアを、これからOn Screenに移行したい。その為の基礎テクノロジーがClearTypeであると説明していた。辞書(Dictionary)ではなく、いちいち百科事典(Encyclopedia)と言っている事、そして、それがOn Screenと言い切っている事にも注目した。つまり、Encartaには相当力を入れているようだ。

On Screen(画面)メール、Web、百科事典
On Paper(紙面)新聞、書籍

 「画面を紙面に近づける」ための様々なアプローチをこの数年間、日本の電子出版業界や私の会社(ViewIngDTONIC、Dishなどの辞書/書籍ビュアーやPGTexという階調フォント)などで行なってきたが、やっとMicrosoft社も重い腰を上げたようである。
 Bill Gatesの説明の後、スコットランドのバグパイプ音楽と共に、髭だらけのeBook担当者が登場し、最新のClearType技術について説明が行なわれた。Windows 95と共に登場したWindows Plusにグレースケールフォントは入っていたが、肝心な本文フォントではなく、中途半端な見出し用であった。それは、単にアウトラインフォントからの生成が難しい、40ドット以下の文字について輪郭を美しく見せるための技術であったが、今回のClearTypeは、12から24ドットの本文にも使えるグレースケールフォントとなっている。しかし、漢字はどするのだろうか? 電子書籍コンソーシアムの実証実験に使用される液晶は180dpi程度と聞いているが、英字に比べストローク数(画数)が数倍多い漢字フォントには、もっと高い解像度が必要かもしれない。


Open eBook
 この表はプレスリリース資料から作成した、Open eBookの参加企業一覧である。Yahoo!を駆使してURLを調べたので、参考にしていただきたい。ただし、Audible社のページはControlをたくさん投げてくるので要注意!
 各社のサイトを眺めていると、NuroMedia社が先行し、Glassbookが抜け出るような気がしてくる。コンピュータ・メーカや大手印刷会社の方は、出資を検討されては?
 メンバー、特に「eBook Pioneer」(良い響きの言葉である)をみていると、同じ目的の為にコンピュータの知識を豊富に持った小さな会社が、努力している様子が伺える。6年前のGO!社PenPointの時のような新鮮な動きである。GO!社は、AT&Tという後ろ盾を失い、この数年後には消滅したが、Open eBookはMicrosoftを味方にして、前途洋々の船出である。
 以下の一覧で、Librius社の位置付けはMicrosoft資料を変更した。また、NuvoMediaはRocket専用サイトも立ち上げてる。
Open eBooks参加企業一覧
(Oct.8 Microsoft資料より)

PublishersBertelsmann
HarperCollins
Microsoft Press
Penguin Putnam
Simon & Schuster
Time-Warner Books
Online book sellerBarnesandnoble.com
Librius
ManufactureHitachi
Audible
DistributorAudiobooks
eBook PioneerEveryBook
Glassbook
NuvoMedia
SoftBook Press

 これらの動きの原点が、Electronic Book '98 である。そして、この時の、Glassbook社Len Kawell社長のスピーチが、Open eBookの思想に近いものだと思う。

 Open eBookのホームページがオープンした。ここに最新の情報がぎっしり詰まっている。(1999.01 追加)


ClearType

 巨大なMicrosoft社ブースの中央付近にClearTypeのブースがあり、SGIの1600x1024カラー液晶(左)、SVGAノート(右)とHandheld CE 2.0でデモを行っていた。液晶に最適との事だが、「漢字は?」と質問したら、Vstem(縦線)、Hstem(横線)をチューンアップ中とのことであった。TrueTypeラスタライザー本体の改良なので、既存のTTフォントがすべて階調表示になる。【階調フォントではない 1999.03】これは、画期的な仕組みである。Aldusの創設メンバーであるBill Hill(ClearTypeの責任者)がタータン・チェックのスカート姿で立っていたので、Open eBookの資料を請求した。

 イーストは、3年前に松下電器のテクノロジー使って階調フォントを販売した。画面の「新宿」、「三鷹」は10ドットである。MS Paintなどの画像ソフトで、拡大して見ると、グレースケールフォントの仕組みを理解していただけると思う。目の錯角を利用して、太さを表現している。ClearTypeの漢字がこれほど奇麗になるか、Microsoft社のお手並み拝見である。

ClearType関連の資料

ClearType press release Comdex 98での発表文
Microsoft ClearType overview 概要説明
Dick Brass 経歴紹介 奥さんの名前はRegine!
Bill Hill グラスゴー生まれの髭もじゃスカート野郎


eBook品評会

 18日 14:00から、「Judge Hot New Products」という、SVGA CE Handheld、eBook、XGAデジカメなどの人気投票をやるとのことで、Las Vegas HiltonのBallRoomに行った。これが大収穫で、Comdexには出展していない、EveryBook、SoftBook、Rocketの品評会であった。以下は、そのレポートである。

1社5分間のプレゼンを行う。写真は、SoftBookのThomas Pomeroy??

 EveryBookは両面SVGA画面で、電子書籍コンソーシアムの実証実験マシンと同じ「見開き画面型」である。Adobe社のPDFのビュアー装置(つまりAcrobat Readerマシン)である。PDFは次バージョンでハイライト、両面表示などをサポートするとのことで、eBook系の動きに対応しつつある。MicrosoftにはPDFへの危機感もあったと思う。しかし、PDFは今の所「紙面を画面に忠実に表現するだけ!」であって、「画面を紙面に近づける」わけではない。そしてHTMLやXMLの流れにも反している。
 SoftBookは「皮の表紙」がついており、開けると、液晶画面という出版社好みの外見である。右側のバーに < > マークがあり、右手の親指のちょっとした動きだけで、簡単にテキストがスクロールが行なえる。Rocket同様、縦組/横組変換、フォントサイズ変更が可能である。
 Rocketは、フランクフルトのBookMesseに出展していたが、製品販売を開始した。書籍のダウンロードは、Barnesandnoble.comが担当している。少し厚みが気になるが、この通り、良く出来た仕様である。販売はlevenger社が担当し、インターネットを使ったオンライン販売のみを行ってる。499ドルだが、早速1台注文した。

 3機種とも、タッチパネルになっており、指やペンでの操作が行なえる。参加者200人ほどが参加した人気投票の結果は、Rocketが52%でトップとなり、EvertBook、SoftBookの順であった。

EveryBook試作機皮表紙のSoftBook販売を開始したThe Rocket eBook

 昨年のCOMDEXの後、JEPA(日本電子出版協会)の会報に、「日本の電子出版」と題する文章を書き、「日本は電子出版の最先端を走っている」と結んだが、来年、一気に米国に追い越されてしまいそうである。
 Windowsも、HTMLも、Unicodeもすべて、米国生まれの米国育ちなのだから仕方がないが、せめてOpen eBookの日本語拡張部分の仕様くらいは、日本の電子出版をこの10年間育ててきた仲間の人達と、決めてみたいと思う。

終了後もRocket eBookには人だかりが 
from Nov.23rd 1998 来訪者カウンター
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